4-4-4、4-5
本日一話目です。
「メシス、制圧は?」
「完了してるッス。だから連絡してんですよ」
「わかった。今から向かう」
フィロ准将の確認に軽く返答していた。その後耳に届くのは「負けた」という仲間の言葉たち。競争していたわけではないのだが、先を越されるというのは悔しいものだ。
ナナシたちもフィロ准将たちが到着する前に着いていなくてはならない。まだ敵は残っている可能性があるため、中枢の部屋の場所を確認して警戒しながら向かった。
警戒しながら進んだのだが、相手はいなかった。第五班が敵勢力は残っていないと連絡してくれて、その証明を第六班もしてくれた。件の部屋に着いて、他の班が扉の前で警戒していたのが見て取れた。軍人としての務めだ。
ここはフィロ准将が来るまで自分たちもそうすべきだろう。
数分待つことでフィロ准将たちがやってきた。それまでに全部隊揃っていた。
「ご苦労。各班のリーダーは私についてこい」
「はっ!」
ナナシを含む一から五班のリーダーが共にフィロ准将と部屋の中へ入った。
中にいたクーデター側の兵士たちは両手を後ろで縛られており、眼にも布が巻かれていた。
「やあ、バカモノども。クーデターに失敗した気分はどうだ?」
「フィロ准将……!あなたは何も思わないのですか!この国の将来を!民の平和を!」
その声を聞いてこのクーデターを起こした人物がわかってしまった。つい先日出会い、そして二度と彼の元では働かなくなると思っていた人物だ。
「ユングレイ大佐……」
「思っているからこそこうして貴様らを捕らえているのだが?正直魔眼の優位性を他国に知らしめるなど、戦争の発端になりかけんが?」
准将はユングレイ大佐の言葉にすっぱりと反論してみせた。やろうとしていることはただの恐怖政治だ。今でも十分世界的に力を持っている国であるのに、これ以上力を集めてしまっては余剰過多になる。
「そうやって現状を良しとしているから、ハイナに付け込まれたのです!もっと力を他国に見せつければあんなことも起こらない!国民が傷付くこともなくなるのです!」
「逆だと思うがなあ。強い力には恐怖し、反感を持つ。何かしら理由をでっち上げられて余計に襲われそうだが」
「その一度か二度を絶対的な力でねじ伏せればいい!それこそルトゥナ・ノアや国家魔眼士の力によって!」
「ふむ。一理あるかもしれんな」
その一言でクーデター側の表情、口元がほころんだ。クーデターをやった価値があったと、思い込んでしまったのだろう。
「だがそれは現状と何が違うのだ?国家魔眼士の力でハイナを蹂躙したばかりではないか。鉄くずなんて意味がないと、はっきり知らしめたばかりだが?」
「…………」
「この現状でまだまだ力があると発表すれば他国の反発が強くなるだけだ。逆効果だよ、諸君。それこそ世界連合に何と言うのかね?我々はどこの国と争っても負けない、だから襲ってくるなとでも?」
正直今の状態でも魔眼については力を持て余しているほどだ。魔眼使いは軍の中にもたくさんいるし、レベル三の人間もたくさんいる。
その上で特殊魔眼を持った人間だけでさらに一部隊作れるほど強力な戦力はいるのだ。フォルナさんのような予備国家魔眼士や候補生もいて、レベル四だけなら十人ぐらいいそうではある。そこにさらにソラウや理事長が加わったら本当に過剰である。
もし本気で世界を征服しようと思ったらできてしまうだろう。
そうしないように、情報を国内で封じている部分はある。理事長の件も自国の負債であるという理由と、隠し玉があることを知らせないために他国には伝えていない。さすがに世界連合には報告したが、他国で英雄ルトゥナ・ノアのことを知っている人は少ないのだ。
「この666部隊だけで小国なら落とせてしまうぞ?それを世界連合に加盟している以上するわけにはいかん。魔眼は侵略するための力じゃない。そもそもの発端である魔術だって人間の不可能を可能にする神秘として研究されてきたんだ。捉え方を間違えるなよ、軍人。兵器は何のためにある?それと魔眼も同じだよ」
「……だからナクス・フレストも素性を隠しているのですか?」
「うん?いや、あいつの能力が特殊すぎるからな。人間観察と肉体改造の魔眼で、レベル五なんだが戦闘には向いていなくてな」
おかしなことを聞いた。レベル五というそれまでに存在しない魔眼のランク。そんなものが発見されたという報告はされていない。
しかもあっさりとナクス・フレストの能力が露見してしまった。そのことも合わせて666部隊もクーデター軍も動揺を隠せていなかった。
「……待ってください。レベル五?なんですか、そのランクは……」
「眼の瞳孔全てが蒼色に変わる魔眼だ。こう言えば我が部隊なら見たことがあるだろう?」
その説明で666部隊は全員納得した。レベル五は存在する。自分たちの上司であるフィロ准将こそ、そのレベル五なのだから。
「まあ、ナクスの肉体改造ならまだ戦闘に活かせなくはないんだが、人間観察の方がやっかいでな。能力を使うと眼に映った人はおろか、世界中の人間の心身の状態を一瞬で把握してしまう。その情報に耐え切れないから、基本は待機にさせているわけだ」
レベル五というとレベル四よりも優れた能力なのだろうと考えていたが、代償が激しい。実際レベル四でも破格の能力を持つある魔眼もデメリットが存在するため、デメリットがあること自体に違和感はなかった。
「ナクスだって危機になれば立ち上がる。だが、まだそこまでの危機には陥っていない。他の国家魔眼士と通常の戦力で事足りる。そういうことで、クーデターは終わりだ。他の奴らにも処分は行われる。まだ隠しているつもりの部隊も本部が制圧に行っているぞ。ヘイス少将閣下もベルディアス准将も確保済みだ」
こちらが主要部隊であることもわかっていたが、他にクーデターの予備戦力になっている部隊もあったため、そちらの制圧を軍本部がすでに決行中ということだ。
そちらも制圧が終わればクーデターももうなすすべなく終わる。
「……終わり、ですね」
「ああ。軍法会議を待て。連行しろ」
捕まえた軍人たちは全員連行し、本部にも輸送用の車両を手配して、軍の収容所に送り込んだ。666部隊の数人と本部の解析班は研究所跡地を捜索し、情報を抜き取っていた。
そんな中ナナシはフィロ准将に特別任務を与えられた。その情報を確認し、左眼が使えるかの確認を軍の施設で一応行った。
そして対象の動きを確認して、その場所へ死を運ぶために赴いた。
5
クーデターはたった二日で鎮圧された。クーデターが起きた理由など全て国内で放送され、三日目からは全て通常通りな生活に戻っていった。
さすがにそれまでは公共交通機関にしても飲食店にしても営業をやめざるをえなかったが、もうクーデターの危険がないとわかれば営業を再開するのは当然であった。
空港も国内線、国際線ともに運行再開しており、いつもよりは人が少なかったが、利用している人も見受けられた。
そんな中、一人の女性が大荷物を抱えて急ぎ足で歩いていた。キャリーケースに手提げかばん二つに帽子というあまり見かけない姿ではある。まるで持てる荷物は全て運ぼうとするようだ。
(どうして、どうしてこんな目に遭わなければならないのよ……!学校に仕掛けたクーデターさえ成功すれば慰謝料とかでさらにお金がもらえる予定だったのに……!)
その女性は何でもした。書類偽装もしたし、とある学校のネットバンクやサーバーに不正アクセスして学校のありとあらゆるデータとお金を盗んだ。これはクーデター軍から与えられた端末を利用しただけであったが。
軍の協力もあって、学校に潜り込むこと自体は簡単であった。仕事内容も楽であり、データを抜く所までは本人的にも完璧であっただろう。
問題はその後だった。クーデター軍はあっさりと負けてしまい、自分を擁護してくれる立場の人間がいなくなってしまったことだ。
データを抜いた人間が自分だともうバレていると察したために国外逃亡を図っている最中なのである。もしもの時のためにと、用意されていたチケットを使った。
すでにクーデター軍から報酬金自体は一生遊んで暮らせるほどの額をもらっている。そこからさらに慰謝料が入る予定だったのだが、それは仕方がない。
もう一つの加担した理由も達成できなかったが、それはもうどうでもいい。自分には何もできないと悟ってしまった。
盲眼である彼女にしたら、これだけのお金を稼いだというのは他の盲眼の人からすれば有り得ないことだろう。
それでもまだ強欲な彼女には、そして自分で物事の流れを考えない者には報復が訪れる。
国際線のターミナルの途中でパスポートを確認する検閲所に着いた。
彼女は偽装パスポートを取り出し、それを空港の職員に見せた。
「メリー・ジョーンズさん。パナオ行きですね。向こうに移り住むとかですか?」
「ええ。親戚がいます。クーデターがあってそちらに行った方が安全かと思いまして」
「なるほど」
そう言った男の職員は何故か左眼に指を突っ込んでいた。正確にはコンタクトレンズを外していた。
「罪には罰を。罪には報復を。……それが軍の掟ですよ、マーサさん」
「ッ⁉」
紅い眼に緑色の輪郭が現れ、眼が合った途端マーサと呼ばれた女性は倒れていた。
ヒュルクはコンタクトレンズを付け直し、すばやくマーサの身体を確認する素振りをして空港内の内戦に繋いで人を呼んだ。
「ボクたちの生活を脅かす奴には容赦しない。例え一緒に暮らしていたとしても――」
その後空港警備隊がやってきたが、彼らは扮装している国防軍である。そのまま事情聴取ということで連れられたが、そのまま軍の施設に帰っただけである。
(理事長への復讐……。元魔眼研究員か。あんな非人道的な実験をしておいて復讐なんて、虫が良すぎるだろ……)
ナナシに関わっていたかまではわからなかったが、マーサはあの研究所の研究員だった。仕事を奪われたことと、当時いた同僚であり恋人を理事長に殺されたから復讐を考えたらしいが、それは正しい復讐なのか。研究内容からすれば、研究所も悪である。
そして人を殺した理事長も、悪であることは変わらない。
悪が悪に報復することを、復讐と呼べるのかヒュルクには疑問だった。
この後十八時にもう一話投稿します。




