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本日二話目です。
「どうするよ、ヒュルク」
「……先制で俺が三人は殺す。ベイグ、俺の前にダイヤの壁を用意してくれないか?」
「いいけど、お前の動きに対応するほど動かせねーぞ?」
「いいさ。向こうにはすでに気付かれてるからな」
通路を出たらすぐに敵がいる。今は壁に寄り添って様子見をしている状態だ。ベイグに注文をつけて生成をしてもらう。さすがに大規模だったため時間がかかっていた。
「皆、負傷してないか?ここも強行突破だ。俺が突っ込むから皆はベイグが作ったダイヤの壁に隠れながら応戦してくれ。シャーラムは突っ込んでくれるだろ?」
「了解です。ゾンビアタックしか取り柄がないので」
「あと、アンズはここから出なくていい。こんな中枢区画にいる連中だからレベル三かもしれない。どんな能力を持ってるかわからないし、不利だろ。退路の確保頼む」
「わ、わかりました。皆さん気を付けてくださいね」
確認が終わり、ベイグの方を見ると厚さも大きさも問題ないダイヤの壁が出来上がっていた。ナナシが指で指示を出すとダイヤの壁が動く。それに合わせて四人は飛び出した。
ベイグとカナンはハンドガンによる援護射撃、ナナシとシャーラムは敵に向かって突っ込む。敵も銃や魔眼で対抗してきたが、ナナシは防ぐか躱し、シャーラムは被弾しながらもすぐに魔眼の力で再生していた。さすがに脚や頭、胸への直撃は避けていたが、当たること前提で突っ込んでくるというのは恐怖だ。
ナナシは宣言通り、三人を魔眼で殺した。一人は首が何かに斬られたように落ちて、二人はその場に倒れ込んだ。その三人はナナシに一番近かった三人で、複数人の眼が視界に入ってもナナシから近い順に能力が発動するのだ。
実は残数は四だったのだが、この後も個人的にやることがあるようなので一回分は残しておいた。そこからはもう眼帯を開かないようにした。
そのまま槍で突く態勢のまま距離を縮め、腕ごと切断しようとするが避けられて銃の銃身だけが斬れた。ナナシに近かった二人はレベル三のシングルだった。能力が何かわからなかったので距離を取ろうとしたが、逆に縮められてしまった。しかも片方は死角の左から攻めてきた。
「ちっ!肉体強化系か!」
「ラアアアアアァ!」
二人して軍支給のサーベル片手に突っ込んできた。死角側を何とか槍で防いで、右側は当たる直前でバク転をする。そこへ後方で待機していた他の人間がアサルトライフルで射撃を行いながら鎖が空間から飛び出してきた。何かを空間に保存する能力か、透明化させて動かす能力だろう。オッドアイか、特殊魔眼だ。
「舐めるな!」
膂力を用いて槍を大回転させ、弾丸を真っ二つに切り裂き、天井に脚をつけて方向を変更させて、鎖も壊す。今度は槍が十本ほど飛んできたが、ベイグが半数はダイヤによって粉砕してくれた。二つは避けて、一つは槍で弾き、一つは脚で踏みつけ、一つは掴んで逆に投げ返した。
その槍は途中で消えてしまったので、魔眼で生成した武器なのかもしれない。そんな思考を持ちながら自分の黒槍を投擲してその魔眼士の胸を貫く。肉体強化系の二人に近付き、二人を同時に相手して組手が始まった。
手刀で武器をはたき落とし、回し蹴りで胴体ごと吹っ飛ばし、もう片方へ正拳突きを放つが腕を交差して防がれてしまう。もう片方も起き上がってナナシへ蹴りかかる。
そうした攻防が続き、手榴弾やナイフなども用いられたが、全てナナシは対処した。さすがはレベル三。肉体強化は三倍かかっているのだろう。だからこそ、ナナシの六倍の動きにも耐えられたし、こうして善戦しているのだ。
『オレヲ使エ!コンナ奴ニ苦戦シテルヨウジャオ前ハ殺人鬼トシテ姉モ守レネエゾ!』
何て身勝手な囁きだ。二対一とはいえ苦戦してるのは事実。だが、一々けたましく叫ぶ悪魔に頼るほど弱くなったつもりはない。
(黙れ!そもそも『ボク』は殺人鬼って呼ばれることを許容していない!『ボク』は『ボク』のまま、ソラウネットを救うんだ!)
『偉ソウナコト言ウジャネエカ、餓鬼。オ前ハ素直ニ力ヲ使ッテオケ。後ハオレガツイデニアノ嬢チャンモ守ッテヤルカラヨ!』
(『ボク』がソラウネットの力になりたいんだ!お前みたいなわけもわからないやつに任せてられるか!『ボク』にたとえ名前がなくても、それだけは『ボク』自身に立てた、誓いなんだから!)
悪魔の幻影を振り払う。殺人鬼と呼ばれても、この手で人を実際に殺したとしても、まだ恩義を返せていない。彼女の三年間、自由に学生生活を送りたいという願いは叶えなければならない。それしか、返せることがない。
そのためなら、いくらでも皮を被ろう。手を汚そう。悪魔と呼ばれても、殺人鬼と蔑まれても、そんな汚名は些細なものだ。今まで生かしてもらったことや、あの地獄から救ってくれた彼女のためなら、いくらでもできる。戦闘に集中する。
正直言って悪魔のささやき通り、膠着状態だ。向こうもかなり鍛えられている軍人であり、場数も踏んでいるのだろう。ナナシの槍は投擲してしまったので使えない。ナイフや銃は隠し持っているが、取り出す余裕がない。
片方の回し蹴りをナナシは避けることができず、ウッという呻きと共に数メートルは吹っ飛ばされる。そこへ追撃をしようと敵二人は距離を詰めようとしたが、静かなその場に発砲音が二つ鳴り響いた。
少しのラグが空きつつ薬莢が二つ落ちる音もした。その薬莢が落ちる軽い金属音の後、二人の軍人は脳天を撃ち抜かれて倒れ込んだ。
「助かった。カナン」
「そっちこそ、時間稼ぎご苦労様」
こんな通路では遮蔽物がない。通路の角から身を乗り出しても、向こうからの銃撃がある。ならば遮蔽物を産み出しつつ脅威となり得る飛び道具を封殺してしまえばいい。
ナナシとシャーラムがやっていたことは飛び道具の排除と時間稼ぎだ。飛び道具さえなくなってしまえばカナンが必殺必中の射撃で終わらせてくれる。この小隊のエースは誰がどう言ってもカナンだ。一人だけスコアが違う。
ナナシ、ヒュルクも特別任務で出動することもあるから撃墜数は三桁になっている。だが、カナンはもうじき四桁になる撃破数だ。カナンの魔眼はレベル三のシングル。彼女もヒュルクのように部隊とは別に特殊任務を言い渡されることもあるためにスコアが違うのだ。
投げることができる武器であれば、何にでも適用できる、射撃・投擲専用の未来視のような能力だった。
そんなエースがいるにも関わらずナナシがこの部隊の小隊長をやっているのはカナンが引き金を引くことに集中したいから。敵味方関係なく照準を付けてしまうため、その判断に情報処理能力の大半を回している。だからそんなザッパなことは他の人に任せたいのだ。
「アンズ、平気か?」
「はい。後方から敵は来ていません。監視カメラの様子を見ても平気そうです。ミカデさんからの通信はありませんが」
「インターバルなんだろ、きっと。このまま進軍する。中枢区画までもうすぐだ。一番乗りするぞ」
「ああ。他の連中には負けねーぜ」
それをオープンチャンネルでベイグが言ったことで、注意するような連絡が来るかと思いナナシたちは構えてしまったが、聞こえてきたのは違う内容だった。
「残念だったな。第六班、敵中枢に到着。場所を各々の端末に送る」
666部隊のオープンチャンネルに第六班のリーダー、メシス・ケーリーから連絡が入った。先を越されてしまったのだ。
「時間稼ぎで俺たちは時間をかけすぎたな」
「そりゃねーぜ。俺たちが一番敵を倒したっていうのに、六班いいとこどりかよ」
「一番倒したのはあたし。あんたは壁作ってただけデショーが」
カナンの指摘でオープンチャンネルに笑い声が乗る。皆戦闘は終わっているのだろう。
明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。




