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4-2-3

本日二話目です。

 二人は靴を履き替えて校庭へ向かった。手には何も持っていないが、警戒されているのはわかる。


「さてさて。こうやって来てみたんだが、話し合いによる交渉っていうのはダメなのかな?俺たちはただ君たちに連れていかれるだけなのかい?今ならまだ退き返せると思うんだが」


「もう遅い。その男は隔離する。貴様には身を粉にして国のために働いてもらう。これは決定事項だ」


「それは困るな。俺はここの理事長が気に入ってるんだ。そもそも君たちは俺が国家魔眼士になるのが要求らしいけど、すでに席は埋まってるじゃないか」


「一位のナクス・フレストが働かないからな。貴様にはその代わりになってもらう」


「それ、本人を説得するべきじゃないか?……違うな。本人の正体を知らないだけだ。だから場所もわからず、話もできない。その程度か?国家の狗」


 煽っている。できることをやらないのは怠慢ではないかと。調べ上げることもできないのは無能だと。

 国家魔眼士には位階がある。二位はクレイネスであり、一位のナクス・フレストは正体不明の人物だ。名前しか知られておらず、能力はおろか年齢も性別も何もわかっていない。

 その煽りに苛立ったのか、手に持っていたサブマシンガンが二人に向けられた。


「はっ!実際に戦場に出ない者が、知ったようなことを言うな!いない存在に頼るよりはいて力を使わない人間を使った方がマシだ!」


「君たちが怒るのは筋違いじゃないか?……キレてるのはこっちだバカヤロウ。人様の学校に乗り込んで砲撃だ?俺の大切な生徒たちが傷付いたらどうするつもりだった?校舎に直撃させやがって」


 理事長の目つきが鋭くなって、相手を睨みつけていた。その雰囲気から、殺意が漏れ出ているのが隣にいるナナシにはわかる。

 事実校舎は無傷なのだが、これは理事長の能力で校舎に防壁を張っていたということ。


「この子も渡さん。世界を変える力なんて使わなければいいだけだろ?使わなければただの人間と同じだ。研究だの拘束だの、人間にする行為じゃない」


「いつその危険性が露出するかわからない。危険な物を放置できるか?」


「事実この子は今まで世界を危険な目に遭わせていないが?……無駄な話し合いだ。クレイネスだって世界を滅ぼそうと思えば滅ぼせる。他の国の国家魔眼士だってやろうと思えばできるだろう。それをしないでバランスを保っているのに、貴様らはそれを崩すのか?」


「その子の能力次第だ。常時発動型だった場合、どうにもならん」


「この学校は平穏そのものだったが?我が学校を念入りに調査したか?この街のことを調べたか?その中で世界が滅ぶような出来事が起きていたのか?」


 答えは言わずもがなNOだ。そんな事件、街でも学校でも起こっていない。だというのにこの学校にそんな魔眼使いがいるなんて情報が漏れた理由は、内通者がいるからだ。


「起きていない。だが、事実そこの子どもは世界を滅ぼせるのだろう?その能力を解析し、その上で安全な管理をする」


「管理?つまりこの子を戦争に使う気はないんだな?」


 その質問には答えなかった。それはそうだ。理事長を働かせようと画策している連中が、絶対的な力を持っているナナシのことを利用しないわけがない。

 世界を征服するつもりなのか、本当に防衛のために用いるのか、それとも他の理由があるのか。そこまではわからないがただ管理するわけではないだろう。


 さらに言えば、きちんとナナシもソラウネットもフィロ准将の元で管理自体はされている。軍内部でも機密事項ではあるのでそこまで情報が得られなかったということもあるのだろうが、何にせよ確認不足である。


「確かにこの子は成長すれば世界を滅ぼす力を手に入れるかもしれない。だが、クレイネスはどうだった?あいつの学校生活までお前たちは奪ったのか?俺が知る限り、そんな情報はないんだが?」


「フォルナは管理していたぞ?」


「彼女は副作用で学校生活に支障をきたしたからだろう?魔眼が危険だからという理由じゃない。彼女の生活が不安定だったからだ。……貴様ら軍隊は子どもたちの自由すら奪うのか?」


「それが必要なことなら」


 わかっていたことだが、話が通じない。どう危険な存在なのか説明できない。こちらの言葉に反論できない。何の信念を持ってこんな行動に出たのかわからない。

 そんな奴らにソラウネットは苦しめられ、泣かされたのだというなら許せなかった。待っていたナナシの拳は強く握られており、爪が食い込んで血が出ているほどだった。


「……ああ、もう面倒だ」


 理事長が軽く手を水平に振った。その指先から青い光と文字が現れて、それだけで後ろに控えていた軍用車両全てから火の手が上がり、火柱が上がっていた。


「な……⁉」


「いきなり武力行使をしてきたんだから、反撃されるくらい想定内だろ?……魔道解明(アベレージワン)を相手にするくらい、考えていたんじゃないのか?」


 ナナシも月の兎を発動し、リーダー格の男の首を折った。嫌な音が聞こえたが聞き流し、そのままサブマシンガンを奪い、男を盾にして近くにいた人間に向かってトリガーを引いただけだった。

 肉体強化系だとわからなかったのか、いきなり自分たちのリーダーがやられてしまったからか、反撃のようなものもなかった。


 不意打ちとはいえ、呆気ないものだった。本当に軍人だったのか疑問に思うレベルだ。

 理事長が力を解除したのか、黒い槍が校庭に現れた。それを取ると、外にいた待機部隊が中へ入ってきた。

 炎や雷といった魔眼も用いられたが、どれもレベル二以下だった。回避できるものは回避し、槍で斬り伏せられたものは斬り落とす。この槍はある程度の魔眼なら無効化できるということで、弾けるものは弾いた。


「はああああ!」


 槍とサーベルが交差する。さすがは国防軍、肉体強化を施したナナシの動きにもついてこれる人間はいた。避けられることもあったが、六倍の運動能力の差は激しい。

 三人がかりでもナナシを止められていなかった。同時に攻められても、強化された動体視力の前では止まって動きが見えて、当たらない場所への移動も六倍の運動能力ならば可能であった。


 そして一番大きかったのはナナシが一人ではなかったことだ。適宜理事長が鉄の雨を降らせたり、黒い光を纏った手刀で敵を斬り伏せたり、指先からクレイネスのようなレーザーを放つなど、援護があったのだ。

 四人小隊を組んだりしているが、ナナシと理事長のタッグは桁違いに強かった。一緒に戦ったのは初めてのはずなのに、息はピッタリである。様子を見ていた教師が息をのむほどに圧倒的であったし、ラヴェルは敵の愚かさに嘆息していたほどだった。


(たった二大隊くらいでどうにかしようと思ってたのかい?おバカさんだねえ)


 怒らせてはいけない二人を怒らせてしまったのだ。このような一方的な殺戮(ワンサイドゲーム)、当たり前であった。

 片や国家魔眼士に比肩するどのような魔眼の力も理解し、ものによっては使えるとされるアベレージワンという力を持つルトゥナ。もう片方は隣接国からも自軍からも殺人鬼と呼ばれる対人最強殺戮兵器。


 相性や戦闘形式などにもよるが、クレイネスとフォルナのタッグでもおそらく勝てない組み合わせ。十数分の後、校庭で起こった殺戮劇は幕を下ろした。

 無傷の二人とは対照的に、校庭には血だまりと死体が転がっていた。手足がぐちゃぐちゃになっているし、臓器だって出てしまっている。一般生徒が見たら卒倒するだろう。


 死体から襟の部分に隠されている身分証を探し、員証にもなっているICチップを理事長に渡した。

これは本人の身分を確認するために軍服に仕込まれているものだ。顔や身分証が破壊されていても、このICチップがあればどこの誰だか確認できる。


 これは本来軍の上層部及び情報部にいなければ知りえない情報だが、ナナシはフィロ准将に教わっていた。このことがバレればフィロ准将は降格処分を受けるはずだが、バレていないため大丈夫らしい。

 フィロ准将はナナシやソラウネットのために尽力してくださり、軍規を破ることもしばしばある。それが今は軍のためになっているのは皮肉だ。


「フィロ准将に渡してください。まずは首都に行きます。……ソラウネットのこと、任せて大丈夫ですよね?」


「ああ。父親に任せておけ」


「あと、あの火柱は消した方がいいと思います」


「む、確かに。近隣住民に迷惑をかけてしまうな」


 理事長はもう一度手を振ると、今度は大量の雨を降らせた。火柱が鎮火したこともそうだが、校庭の血も流れ始めた。


「あとは、あっちの家まで送ってくれますか?転移みたいなこともできましたっけ?」


「できるぞ。その前にソラウの様子を見に行け。終わったって報告するだけでいい」


「あとじゃ、駄目ですか?」


「ダメだ」


 諦めて一度昇降口に戻ると、ちょうど保健室からソラウネットとラヴェル先生がでてきた。これから他の人たちが避難している場所へ合流しに行くのだろう。

 二人は目線だけ送っただけで、何も言ってこなかった。ナナシは近付くことも言葉を発することもできず、それでもナナシは二人に向かって頭を下げていた。


 誠意か、謝罪か、感謝かわからない。それでも、頭を下げないといけないと感じていた。

 二人はそのことに対して悲しむように目を伏せたが階段を昇っていった。それを確認してナナシは次の場所へ向かう。


「じゃあ、行ってこい」


「こっちのこと、お願いします」


 戻ってすぐ理事長がナナシの肩に手を当てて、次の瞬間ナナシは自分たちがいつも使っている家の前にいた。

 ナナシは自分の部屋のベランダへ飛び上がり、窓から入り込んだ。鍵を持っていないのでこうやって入るしかないのだ。ちなみに窓はいつも開けている。


 服を脱いで軍服に着替え、車の鍵を手に取って一階に降りると誰もいなかった。

 予備の家の鍵で玄関を閉め、車に乗り込んで首都に向かった。さすがに眼帯は外して運転をした。

 殺した感覚はまだ残っていたが、その痛みを噛みしめるのは後に回すことにする。



明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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