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4-2-1

本日二話目です。

    2


 三限終わり。この時に少し問題が起こった。

 この問題はある意味、些細なことだった。これ自体は正直、ソラウの気持ち次第でどうとでもなる小さな問題。だが。その後に大きな問題が起きてしまった。

 この二つは全く違う問題であったのに、立て続けに起こってしまったがために繋がってしまい、さらに大きな問題へと発展してしまった。

 その、最初の問題は、ある男子生徒がソラウに話しかけたことだった。


「なあ、ソラウネットさんって自分からこの学校に来たのか?」


 話しかけた生徒はデニムだった。おちゃらけた性格であることと、クラスの中でもあれだけ目立った発言をしていれば誰だって名前を覚えている。


「ええ、そうです。父にお願いしてわざわざこの学校を選んで留学してきました。それが?」


 相変わらず冷たい反応だと、周りにいた生徒たちは思っただろう。ちらっと顔を見ただけで、本から目を離さない。会話する気が毛頭なかった。

 ソラウ自体の返答もそっけないものばかりであったため、先程の時間の質問も、早目に終わってしまったほどだ。


「いやさ。この学校はもちろん国の中でも結構な優秀校だ。でもそれはこの国の中で、だろ?留学が終わって国に帰ったらどうするんだ?」


「国に帰って就職しますが?他国の知識を持っているというのはプラスになります。それも魔眼最先端国であるユーフォテイム国であればなおさらです」


「そういうもんなんだ?」


「この学校はあなたが言ったように優秀ですから。優秀なものを学びに来ることに、何かおかしなことでもあるのでしょうか?」


 周りから見れば、早く会話を終わらせたいようにしていると映っているだろう。だが、ヒュルクから見ればもっと話したいとアピールしているように映った。

 そもそも、話を打ち切りたいのであれば素直に毒舌を吐けばいい。ソラウならやれなくもないはずだ。周りの人もそれができる人格だと思い込んでいる。


 しかし今のソラウは懇切丁寧に理由を述べ、しかも口数も多い。わざと怒らせるような口調にしているのも、おしゃべりをどんな形であれ続けたいからだ。

 ただそれを悟られたくないために本を読んでいるフリをする。なんと面倒くさい。

 それがソラウの魅力でもあるのだが。


「いや。おかしくはねーけどさ……。でもおたく、盲眼だろ?学びに来た意味あんの?」


「あら?聞き捨てなりませんね。力はなくても知識自体は学べます。運動能力がなくても、スポーツのルールを知り、試合を観戦する。これがおかしいことですか?それと同じことをしているだけです」


 周りの者はヒヤヒヤしていたが、一見爆弾発言と思われる言葉をソラウは見事に躱していた。本人は実際盲眼ではないのだから、爆弾でも何でもないのだが。


「ふーん。じゃあさ、魔眼を持ってないことについてはどう思ってるの?だってそのせいでここでは普通の生活ができないんだぜ?」


 それは爆弾であった。確実に爆発が確認された。ここでヒュルクが間に入るのはどう考えてもおかしい。だから静観に徹していたのだが、メルニカに視線を向けられてしまった。

 かといって何かできるわけではない。メルニカは盲眼のことをいびっているのは問題だと思っているのかもしれないが、ソラウは普通の生活の方が問題なのだ。


「……普通の生活とは?」


「そりゃあ、普通だよ。授業受けて、魔眼について勉強して、レベル上げて、バカなこといっぱいして、あとはテキトーに生きる。それがあんたはできないわけじゃん?魔眼については何もできないし、そもそも留学生なんて普通じゃないことやってる。まだヒュルクは実力あるからわかるけどさ。あんたには何もないじゃん?」


 ソラウは本を閉じて立ち上がった。

 正直胸倉を掴むかと思っていたので、まだマシだと思ったほどだ。


「不愉快です。私は決して適当に生きているわけでもありませんし、私の努力が何もないと言われるのは心外です。私、一応首都のベルデルカ学園も受かったのですが、自分の意思でこちらに来ましたから。自己紹介の時にも言いましたが、私ジェイマスが出身なので」


 ベルデルカ学園はユーフォテイム国で一番の学校だ。実際受かったわけではないが、ソラウの成績なら受かっていただろう。

 ソラウが教室の後ろのドアから出ていこうとすると、メルニカが急いで駆け寄っていた。


「ソラウ、どこ行くの?もう授業始まるけど……」


「気分悪いから保健室に行くわ。先生には伝えておいて。よろしくね、メルニカ」


 有無を言わさず、ソラウは出て行ってしまった。クラス中がデニムに冷たい目線を送っており、デニムは特に悪びれていなかった。本人には悪いことをしたという自覚がないのだろう。


「ヒュルク君。ソラウのこと追いかけてください。本当に保健室に行くのかわかりませんから」


「え?俺?……何で?」


 一応理由を聞いてみた。保健委員でもクラス委員でもいいはずだ。なぜわざわざ男のヒュルクを選んだのか尋ねてみた。


「ヒュルク君が一番ソラウと仲が良いからです!わたしがいきたいですけどわたしはデニム君に今から説教します!ヒュルク君は説教するのと追いかけるのどっちがいいですか⁉」


「……追いかける方で」


 あまりの剣幕に言い返すこともやめた。説教はヒュルクには合わない。会話をしてもボロを出すだけだ。ならソラウを追いかけた方がマシだ。

 チャイムが鳴る中ソラウの後ろ姿を探し、見当たらなかったので本当に保健室に行くことにした。

 ドアノブには例の小さなホワイトボードの「いるよ~」側が出ていたのでとりあえずラヴェル先生はいるのだろう。


「失礼します」


 三回ノックをして入るとソラウは本当に椅子に座っていた。まさかいるとは思わなかったので、眼をまん丸く見開いてしまった。


「あれ、ヒュルクちゃんも?二人してどうしたのさ?」


 ラヴェル先生は自分の椅子に座りながら湾曲する背もたれ一杯に背を広げながら、脚をパタパタさせていた。部屋を一瞥したところ他の生徒はいないようなので、ヒュルクももう面倒になりサボることにした。


「体調悪いので休ませてください」


「ウソはダメだぞ~!体調は完璧じゃないか。素直にサボりたいって言いなさい」


「すみません。サボりたいです」


「よろしい。で、椅子はもうないんだけど、ボクの膝の上でいいかな?」


「……あなたのそういうところ、キライです」


 ラヴェル先生が本気で言っていたことをソラウが封殺した。


「え~?膝枕するわけじゃないんだから別にいいじゃん、ソラウちゃん。あ、それはそれでアリか……?」


「ダメです。さっきベッドが空いているって言っていたじゃないですか。ヒュルクはそっちにやればいいでしょう?」


「膝枕するのはソラウちゃんの特権ってこと?」


「したことありませんから」


「あ、じゃあベッドで添い寝していい?昨日ボクあんまり寝てないんだよね~」


「別のベッドに入ってください」


 元気そうで安心した。もう少し落ち込んでいると思っていたのだが、いつも通りだ。


「もう……。で、何でソラウちゃんは保健室に来たの?いきなり休ませてくださいじゃわかんないんだけど?」


「教室で嫌なことがあったので。ヒュルクがついてくるとは思いませんでしたけど」


「メルニカさんに追いかけてって言われてな。ホントに保健室に来てるとは思わなかった」


「私もラヴェルさんに頼るのは嫌だけど、ここじゃないとホントにサボりになるから」


「つれないな~。できることなら何でもしてあげるのに。とりあえずルトゥナさんには何も言わない方が良いかな?」


「お願いします」


 こんなことで理事長に心配をかけるわけにはいかなかったのだろう。


「それにしても三人で会うのは久しぶりだねぇ。ソラウちゃんったらすっかり大人になっちゃって……」


「あなたが変わっていないだけです。何ですか、その見た目。完全に幼女ですよ」


「幼女とは失礼な!せめてロリといってほしいな!」


「あの、あんまり意味変わらないと思うんですが……」


 一回実験したいものである。私服を着させて校内を徘徊させたら、きっと誰もが子どもが迷い込んだと思うだろう。


「どんな魔法使ったら見た目が変わらないでいられるんですか?」


「フ・フ・フ~。ヒミツ」


「別にいいですけど。そんな幼女にはなりたくないですから」


「これはこれで便利なんだゼ?皆優しくしてくれるし、電車とか子ども料金で乗れるし」


「それ、年齢詐称で犯罪ですよ?」


 ヒュルクが呆れていると、唐突に何かの発射音と飛んでくる音が聞こえた。具体的に言うとロケットランチャー的な何かだ。


「危ない、伏せろ!」




明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。


感想などお待ちしております。

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