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3-3-2

本日二話目です。

 先程まで地獄のような場所であり、そこでヒュルクは命のやり取りという一番醜く、度し難い行為を行っていたのだが、それでも朝は来た。

 国家魔眼士の二人を置いて、朝焼けが見えやすい開けた場所へ移動した。そこは戦場を一瞥できる丘の上で、先程まで戦争をやっていたとは思えない静けさが支配していた。

 さすがにまだ軍人はうろついていたが。


「さて、ヒュルク。何回左眼を使った?」


「十四回です。間違いありません」


「わたくしも確認しました。それ以上は使っていません」


 直死の魔眼はフィロ准将が全責任を持って管理をしている。

 軍事学校に入るのも、軍に入るのも、今の生活ができているのもフィロ准将が首を縦に振り、様々な書類にサインを書いてくれたおかげである。


「ふむ。まずまずだな。レベルの変化は?」


「ありません。ソラウも」


「まだレベル二か……。たしか月の兎の方が先にレベルが上がったんだったな?上がったのはいつだった?」


「まだ軍事学校に入ってなかったので……。十歳頃のはずです。直死の方は軍事学校の頃に上がりました」


 まだ四人とハウスキーパーの人と暮らしていた頃には、そもそも魔眼をあまり使っていなかった。一か月に一回使えば良い方だった。

 なのに月の兎はいつの間にか上がっていた。軍事学校に入ってからどちらの魔眼も使うようになったが、直死の魔眼もいつの間にか上がっていたのだ。


 この魔眼は魔眼が認知されてから一度も確認されなかった魔眼であり、だからこそこうして毎回確認されている。

 希少性で言えばソラウの魔眼も同等であり、有用性・危険性を考えればソラウの魔眼に軍配が上がる。


「そろそろレベル三に上がってもおかしくはない頃合いだとは思うのだが……。ソラウ君に関しては何も心配していない。ヒュルク。引き続きソラウ君とルトゥナ殿の護衛任務にあたれ」


「はっ!」


 きちんと両足を揃えて、右手で敬礼をした。上からの指示・命令にはこのように返答するのが完全に身体に染み込んでいる。


「よし。ところでソラウ君も首都には来るのかね?」


「ええ。そのつもりです。どうせ家に帰っても誰もいないのですから」


「おや?ルトゥナ殿は?」


「お父様は学校の私室に引きこもっていますわ。そこに転がり込むのはちょっと……。きっと汚いですし」


 正直、ソラウはまだ家族に甘えたかった。実際かなり甘えている方だ。だからこそ、少しは節制しなければ幸せ貯金が消えてなくなってしまうように感じた。

 甘えられる時に甘えることも大事だが、時には我慢することも大事だとソラウはわかっている。


「ふふ。あの人らしい。あー……。それで、さっき会話に少し出てきた阿婆擦れは?元気なのか?」


「阿婆擦れ?」


「ヒュルク。わたくしたちの共通の知り合いで女性といえばラヴェル先生しかいないでしょう?でも、どうして阿婆擦れなのですか?」


「阿婆擦れだろう?いい歳した大人が、学生のヒュルクを押し倒すだなんて……」


「治療のために仕方なく、ですよ。そう言わないであげてください」


 押し倒すことで治療がやりやすいなら任せるしかなかった。正直、ヒュルクはラヴェル先生の正確な能力を知らない。

 人の内側に入り込んで、その人を侵している何かを取り除くことができる、ぐらいのアバウトなことしかわかっていなかった。

 その結果、身体の調子はいいのだから文句のつけようがない。


「あいつの趣味も入っているような気がしなくもないが……。そんな風に遊んでいるから結婚できないのではないか?」


「あら?可笑しなことを聞きましたわ。たしかフィロ准将も結婚なされていないはずでは?」


「ん?子どもはいないが結婚はしているよ。君たちに紹介していないだけでね。……ああ、今思い出した。二人ともユングレイ大佐を怒らせるな。彼だって相応に苦労しているのだ。魔眼士の早期投入にはソラウ君と同意見だがな」


 話が一転して、今回の作戦指揮官の話となった。一応訂正しておきたかったため、ヒュルクは異を唱えた。


「自分は何か怒らせるようなことはしていないと思うのですが……」


「私も言伝に聞いただけだから詳細はわからないが、相当お冠だったのは事実だ。彼は魔眼なしで今の地位にまで昇り付いた凄い人だからな?」


「以後気を付けます」


 ソラウは誠意がこもっていないおじぎをしただけだった。自分が正しかったと頑として思っている証拠だ。


「まあ最も?魔眼士の申請が昨夜だったのは事実だが」


「自分への連絡はその直後だったということですか?」


「そうだ。部隊はすぐに出動もさせられないし、かなりの苦戦だと聞いたからな。自由に動けるヒュルクと国家魔眼士を派遣したわけだ」


 結局、ソラウの言い分は正しかったわけだ。急に申請されても魔眼士の部隊を送るのは難しいだろう。結局は軍人であり、魔眼も用いるが生身で戦場に行けるわけがない。

 部隊編成や装備点検などしているだけで一日はかかる。そこから国境まで遠征となればなおかかる。

 そこで白羽の矢が立ったのがヒュルクたち。国家魔眼士は生身で来れるし、ヒュルクは単独であるため準備に時間がかからない。


「あっと、そうだ。これも思い出して良かった。これは二人の入学祝いだ」


 フィロ准将は胸ポケットから中身がたくさん入っているのが見て取れる、それほど大きくない封筒を取り出してソラウに与えた。


「ルトゥナ殿に渡そうと思っていたんだが、本人たちに渡してくれと言われてしまってね。好きに使いなさい」


 中身はお金だった。しかもかなりの量だ。三人ぐらいなら一年間暮らせる金額である。


「こんなにいただいてしまって、よろしいのかしら?」


「もちろんだとも。これは軍属ではないソラウ君への手当て金も含まれているからね。しっかりとした報酬でもある。ヒュルクに首都を案内してもらって、そのついでに買い物をしてきてはどうだ?そういうことはあまりできなかったのだろう?」


 フィロ准将が良い笑顔で、白い歯を見せつけてきた。ここから首都はさほど遠くもなく、ヒュルクのやるべきことだって一日もあれば終わるだろう。

 その結論と、渡された封筒が一つであることから嫌な予感しかしなかった。


「それはつまり……」


「ヒュルクにはほとんど渡らない、ということだな」


「そんなぁ……。槍の手入れとか、車のガソリン補給に使おうと思ったのに……」


「そのくらい軍の経費で落とせ。お前の懐から貰うつもりはないから安心しろ。どうせ口座には貯まっているのだろう?」


「無趣味ですから。これはタクシー扱いされそうですね……」


 ソラウは首都に行ったことはあっても買い物などで遊びに行ったことはない。

 次の日、ヒュルクは見事に様々なお店へと連れ回され、ソラウのご機嫌取りをひたすらやっていた。



明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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