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本日二話目です。
今日初めての方はもう一つ前からご覧ください。
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「それで、ラヴェル先生のお世話になったのね?」
「ああ。頭の痛みもないし、体調は完璧だ。さすがだよ、あの人は」
夜。ヒュルクとソラウは出かける準備をして、車に荷物を運びながら会話していた。
あの後ヒュルクが起きるとすでに診断の時間は終わっており、ラヴェル先生がクラウス先生に連絡してくれていたおかげで、職員室に行って少し話すだけで帰ることができた。
ヒュルクのカルテもクラウス先生の元へ渡っており、ヒュルクがこれからも保健室を利用することになるかもしれない「偏頭痛持ちの生徒」である証明ができたため、保健室に通うことになっても問題はなくなった。
他にもたまには投薬の影響が出るが、学校側には偏頭痛持ちであることしか通達されていない。
「あの人に任せるっていうのが嫌なのよ。変なことされなかった?」
「されてないよ。……いや、押し倒されたか。でもそれぐらいだって」
「あの人に押し倒されるってどれだけ油断してるのよ……。いや、抵抗しなかったのね?信頼してるから。……どうせあの人、見た目変わってなかったんでしょう?」
「ああ。七年前から変わってなかった。ああいうのを魔女っていうのかもな。実際の年齢より若く見えるってやつ」
ラヴェル先生の外見が変わっていないというのが、二人の共通の見識だった。
あと、ラヴェル先生に変なことをされたかもしれないというソラウの予感は当たっていた。だがヒュルクが認識していないのだから仕方がない。
二人が荷物を載せているのは軍用車両の外装を改造したもの。所有権はヒュルクにある。
軍に正式に入隊した際に軍から貰ったものだった。これがなければ軍の要請にすぐ応えられない。
二人が入れているのは簡易の生活用品。確実に二日は帰って来れない。そんな中正式な軍人ではないソラウは、関所にある宿舎に泊まることはできないことが大半だ。
指揮している人間によっては女性隊員用の宿舎に泊まっても良いというのだが、それは少数である。 ヒュルクとしては非常に申し訳ないのだが、この車で寝泊まりしてもらう可能性もあるのだ。
「そうね……。あの人は本当に魔女だと思うわ。私より年上のはずなのに、見た目が私より下って……。たぶんあの人、お父さんとあまり年齢変わらないわよ?」
「知り合いってことはそういうことだよなあ」
ヒュルクはしっかりと迷彩柄の軍服を着ており、ソラウは私服のままだった。
白のワンピースの上に青いブラウスを着て、あとはオシャレな茶色い帽子を被っていた。それこそこれから買い物にでも行くような、そんな気軽な格好であった。
荷物を入れ終わると、家に鍵をかけて二人とも車に乗り込んだ。左側の運転席側にヒュルク、隣の助手席に乗るのがソラウ。
運転免許は軍に入隊と同時に取得した。軍の敷地内で運転はしてきたため、問題ないということだ。ないと不便であるということもある。
「あなたの車に乗るのは初めてね」
「そういえば乗せたことなかったな。これを家に持ってきた時は隣理事長だったし」
「大丈夫なんでしょうね?」
「理事長や教官には上手いって言われたから大丈夫だと思う」
エンジンを点けて、ヒュルクはゆっくりと動き出した。ここで速度を出したとしても、すぐ学校の敷地と一般道を隔てている金属製の扉があるのだ。
その扉も見えてきて、ヒュルクは学校へ行くために通る洞窟にあった機械の類似品に近付いて車を一時停止させた。
その機械に向けて学生証をかざし、金属製の扉のロックを解除した。このように通れるのはヒュルクとソラウ、理事長とラヴェル先生とハウスキーパーのマーサだけだ。
「さて、お嬢様。行きましょうか。夜のドライブに」
「ええ。案内しなさい、下僕。とてもとても、怖い所へ」
遊びの芝居に、下僕と返されてしまって吹き出してしまったが、ヒュルクの運転は狂わない。
二人を乗せた車は、ユーフォテイム国の境へと走っていく。
明日も朝九時に一話、18時にもう一話投稿します。
感想などお待ちしております。




