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1-5

えぐい描写ありです。

タイトルからしてそうなので今さらですが……。


   5


 十二年前。

 男の子は能力を使ったその時から「危険魔眼所有者」として施設の人間に取り押さえられ、隔離施設へ運ばれた。

 左眼には鉄製の大きな眼帯をつけられ、トイレしかない真っ白な部屋へと押し込まれた。

 そこには二十台近い監視カメラと完全ロック制の自動扉があるだけで、他には何もなかった。

 外部と繋がっているのは自動扉だけであり、そこが開くことは入れられた時以外なかった。


 少年はわけがわからず一日中泣き続けた。

 どうして自分がこのような仕打ちを受けているのか理解できていなかった。

 お父さんとお母さんに逢いたい。


 ただそれだけしか考えてはいなかった。それも当然のはずで、まだ三歳の子どもであり、自分が何をしたのかわかっておらず、いきなり親と離れ離れにされたのだ。

 そんな様子をモニター越しで最低でも五人の研究者が彼のことを見張っていた。

 それ以上の数になることはあっても、それ以下になることは一分たりともなかった。それほど厳重に彼のことは監視された。


 一週間ほど過ぎ、常識通り魔眼がある眼を塞いでしまえば能力が発動しないことが検証された。

 検証には死刑が決まっている罪人を前にしてみたが、何も起きなかったのだ。そのため、両親の面会は許可された。


 面会には透明な壁で隔てられた部屋で行われた。まるで警察署に収容された容疑者とその家族のようであった。

 もちろんこの部屋にも監視カメラが大量にあり、少年側に三人、両親側に一人の警護がついていた。


 少年は両親の顔を見た途端泣き出してしまった。

 だが、触ることはできない。壁が邪魔だった。

 少年はその場で泣き出してしまったので、警護の一人が椅子に座らせた。眼が開いていなければ安全だということを知っているからだ。


 少年は座らせられても、ずっと泣いていて話すことなどできなかった。

 一週間という期間は長すぎたのだ。その泣く姿が三歳の子どもとして正常だったからか、両親は安堵の笑顔を浮かべていた。


「良かったよ、元気そうで。○○○」


 少年は名前を父親に呼ばれたが、今のナナシはその名前を覚えていない。

 ナナシと同じで三文字であり、ミドルネームもアルファベット一文字ではなくあったはずだが、どちらも忘れてしまっていた。

 今では記録も残っていないので調べることもできない。


 そこから十分だけの面談が始まった。

 主に話していたのは両親の方で、少年は泣きながらただ頷いていただけだった。話の内容なんて入ってこず、ただただ嬉しいだけだった。

 そこで泣き続けてしまったせいか、左眼の眼帯に涙が溜まって気持ち悪い感覚があった。


 外したくて左手で触ってみたが、もちろん外れるわけがなかった。誰でも簡単に外せるように設計されていないのだ。

 この眼帯の取り外し方法は、頭の後ろで留めている箇所に鍵を差すことしかない。

 それ以外には壊すしかないのだが、鉄でできた眼帯なんて簡単に壊せる者はいない。


 少年は両親の話をそっちのけで眼帯をいじりはじめた。

その行動に両親は不安に駆られたが、警護の人たちは慌てなかった。簡単に外せないことがわかっているからだ。

 その後、異変に気付いたのは母親だった。


 紅い眼の輪郭に青い線が現れていることに気付いたのだ。

 子どもの能力はすでに施設の人間に聞いていた。しかもそれが左眼だけの能力であると聞いていたから安堵していたのだが、唐突にその感情は恐怖へと変わった。


「あなた、右眼が……!」


「え?」


 父親が子どもの右眼を見た時には眼の輪郭に青い線が出ていただけではなく、網膜の部分に黄色い兎のシルエットが浮かんでいた。

 そんな魔眼があることを知らず、今子どもの眼を見ている二人とも無事であることから聞いていた能力とは異なり、オッドアイなのだと気付いた。


 そして次の瞬間。

 バキッという音とともに鉄でできているはずの眼帯があっけなく粉砕していた。


 そこから零れていた大量の溜まった涙。それが滝のように、瞬間的に落ちていった後、左眼の魔眼も発動していた。

 それは目の前の両親を対象として発動してしまい、父親は吐血しながら前に崩れ落ち、母親は糸切れた人形のように父親の上へと倒れ込んだ。


「……………え?」


「うわああああああああああああぁぁぁぁぁ⁉」


 真っ先に悲鳴を上げたのは親の警護をしている人間だった。

 完全に腰を抜かして、膝が笑っていた。腕も震えていて、そのまま悲鳴を上げながら部屋から一目散に去っていった。

 監視をしていたモニター室の人間も驚いていたが、まずはすることがあった。この危険な少年の確保だ。


『貴様ら!早くその子の眼を塞いで押さえ込め!眼を絶対に潰すんじゃないぞ!』


 その声でこれ以上被害者を出さないために三人の男は一斉に少年へ飛びかかった。

 こういうことに対処するために警護の人間は全員肉体強化系の魔眼だった。少年の力も強かったが、まずは右眼を塞いで能力を止めた。

 数秒間眼を塞がれてしまうと、能力が維持できないことがほとんどなのだ。

 特にレベル一だと、すぐに維持できなくなってしまう。相手の視力を奪う能力が優秀な理由だ。


 それから少年はさらに施設を移され、そこでは人権がなくなった。

 番号で呼ばれるようになり、能力の研究のために様々なことを強制的にされた。

 今のナナシにも、その痕は残っている。



明日は朝九時に一話、夜十八時にもう一話投稿します。

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