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ひねくれ公爵令息が泣かされて恋に落ちる

作者: 同画数
掲載日:2018/02/13

...。

今日は王家ための、王女様の誕生パーティである。公爵家の私の家ももちろん招待された。城のご立派な薔薇園でのガーデンパーティーである。


社交を通して若いうちからコネを作ろうと子供を連れて私と両親に挨拶に来る貴族も多くいた。子供同士で仲がそのまま親同士に反映されるならばそれが手っ取り早いであろう。


国の外交を担う父の影響で不愉快極まりない。素っ気なかったかもしれないが知らない。挨拶は適当に済ませた。そのうちに父は政、母は婦人たちと化粧やドレスの流行の話に向かうため、「ヴィーラはほかの家の子どもたちと仲良くね」と言われ離れた。


社交界デビューする前の年頃でほとんど面識のない子供ばかりで特に知っている顔も見つけられなかったため1人で適当に歩いていた。元より挨拶回りが終わった今わざわざほかの子供と交流して疲れるようなことをする気もない。


私は人との交流が大嫌いだ。特に私と同じくらいである子供とは交流の場が頻繁に設けられた。私はなまじ頭がよかったから他の子供と過ごすのが苦痛だった。頭が悪くて話が通じないのだから仕方が無い。家庭教師から政治や歴史の話を聞いている方がよほど有意義だ。それを家庭教師に言うと

(他の人よりも心の成長が早いのだろう、そのうち周りも追い付いて来るだろう)と言われた。


子どもたちは華やかな見た目の菓子が美しく積まれたテーブルの近くで交流しているようだった。挨拶回りに少しばかり疲れたので、飲み物を手に入れるためにそのテーブルに近づいた。他の子供の相手をするのが鬱陶しいので気づかれないように、と思ったが、どこかのご子息3人ほどで一人の子息を囲んでいる所のようだ。


「ヴィランドル様!」最悪だ。テーブルの反対側から大きな声で名前を呼ばれた。先日うちに来た子爵家の令嬢のエカテリーナが挨拶もなしに私に抱きついた。いや、絡みついた?巻きついた?離す気はないようだ。


それによって周りをその場にいた子息子女に囲まれ私は逃げ場を失った。私は馬鹿たちとの交流に引きずり混んだバカを見た。エカテリーナは私の恨みがましい顔にヘラヘラしたアホみたいな顔をして気づいているのかいないのか。腹立たしいことこの上ない。仕方がないから挨拶をしようとした。


「エカテリーナ様、非常識です!挨拶もせずに男性にいきなり抱きつくなんて!」先程まで子息子女の交流の場に参加していたらしい伯爵令嬢のソフィアが口を挟む。ソフィアは毅然とした態度で言い放った。

少し不満そうな顔をして離れたエカテリーナは一歩下がりドレスの裾を少し摘んで淑女の礼をして見せた。


「申し訳ございませんでした。ヴィランドル様を驚かせてしまったようで...久しぶりにお会い出来て嬉しい気持ちが溢れてしまいましたために、挨拶が遅れてしまいました。」


ふわりと顔を上げた彼女の顔は心底申し訳がないという風に眉を下げ、謝るのにぴったりの顔を貼り付けていて、さっきの不満そうな顔はどこに行ったのかと思った。

「ソフィア様、そこまで強く言わなくても良いでしょう?エカテリーナ様が可哀想ですわ。」どこからかそんな声が聞こえ、他の子息子女達も少し言い方がきついのではと、ソフィアを見とがめた。

エカテリーナとは先日と今日しか会っていないが相変わらず気に食わない奴だと思った。まず教養がない。礼の尽くし方を知っているのに、それを生かせないのは教養がないからだと思う。あれだけ優雅な淑女の礼ができて非常識なことをするのだから頭が足りないんだろう。エカテリーナの頭の中はきっと花と菓子が乱雑に詰め込まれているのだろう。


エカテリーナとソフィアが並ぶとやはり目を引く。二人の容姿がとても良い。二人が並ぶと特に分かりやすいが、タイプの違う端麗な容姿の持ち主だ。端的に言えばエカテリーナは可愛い、ソフィアは美人だ。


今日の装いでもわかる。亜麻色のふわっとした髪をとした柔らかな髪をゆるく流して、ピンクと白のシフォンやレース生地をふんだんに使いギャザーが入った柔らかで品のいい可愛らしいデザインでまとめていて、真っ白の肌とクリっとした大きな色素の薄い甘栗の瞳が合わさりどこぞの妖精や人形のような小さなエカテリーナ、


ダークブロンドのつややかな髪をハーフアップにきっちり縛り上げその他の下ろした髪をゆるく巻き、ラベンダーの胸下での切り替えのあるハリがある上品な光沢のある生地のドレスに、アイメイクに力を入れずとも元々つった瑠璃色の瞳と良く似合う真っ赤な唇できつい印象の踵の高い靴が良く似合う教養あるソフィア


子息子女の視線に耐えかねたのか、ソフィアは「ヴィーラ様行きましょう」と言ってテーブルから二人分の紅茶をとり、他の子息子女を置いて、颯爽と薔薇園の迷路のような入口へと歩き出しその場を後にした。私はエカテリーナの誘いを振り切りついて行った。その方が大人数と交流しなくても良さそうだったから。


噴水のあるところまで来て、ソフィアはちらりとこちらを見て

ソフィアは「あの者達は頭が悪いんですわ。」と言った。

私と同じ考えだ。それからソフィアは貴族についての自分の考えを述べた。ずっと文句を言っていた。


お茶会なんかよりも勉強の方が楽しいだの、話の内容に中身がなくて非生産的でつまらないだの、男女が共に活躍できる社会だの、私に同意を求めてきた。私も大いに同意した


私と同じような考え方をする人間に出会えて私は感激した。それから色々な話をした。紅茶を飲み終え、話が一段落したあと2人でカップを置きに戻った。


ふと見つけた、エカテリーナの周りにはたくさんの子息子女がいて談笑していた。その中に先ほどの一人の子息を囲っていた三人と、囲まれていた子息もいた。


ソフィアが「あの者達は群れるしか能がないのかしら」と言った。私も頷いた。ふとエカテリーナの方を見たら目が合った。先程逃げた手前気まずくてあからさまに目をそらしてしまった。丁度、主催者の最後の挨拶でお茶会はそれでお開きになった。


本日は我が公爵家主催のお茶会だ。夫人と子供で行う。ソフィアもエカテリーナも来るだろう。先日のガーデンパーティのようなもの大規模なものでなくいくつかの家を個人的に誘って内輪でやる小さなものだ。だから、自由に動き回れない。円形のテーブルで席について行うそうだ。


今回のお茶会は私の婚約者を決める会のようなものだ。実際今日決める訳では無いだろうが、実際見て見ないと分からないものだ。結婚相手が良い家柄であれ、その後その結婚相手の振る舞いで家の名を汚すことがあるかもしれないのだから。あまりに非常識ではいけない。


何故か分からないがエカテリーナは私の両親に好印象を残しているので不思議だ。まぁ、あの女は人に媚を売るのが得意だから納得出来なくもない。だけど私はあの何も考えていないような顔をしているエカテリーナとは心底合わないと思う。あのぼやっとしたアホヅラを見ると腹が立つ。私はバカは嫌いだ。だからバカと仲良くできないし。馬鹿なヤツらとは友達になんてなりたくない。



一番に我が家についたのはソフィアのブラウン家だった。時間より前に着いたようで挨拶に来た。まだ準備が整っていなかったので少し困った。エカテリーナは時間ぴったりにきた。時間より前に我が家の門の前に馬車が止まり、時間まで馬車の中にいて時間きっかりにうちのベルを鳴らしたそうだ。私と母上に恭しく淑女の礼をして、丁寧な挨拶を重ねた。その後も何人か来て挨拶が終わりお茶会が始まった。


皆がニコニコと笑い、和やかな雰囲気で始まったお茶会は途中夫人たちが化粧品の話をしたり王都で流行りのファッションの話をしたりで自由な話題で楽しんだ。今はブラウン夫人が話題にあげた、隣国から最近輸入されることが多くなり市場に出回り始めた珍しい果物などの話である。エカテリーナは

「珍しい隣国の果物を食べてみたい」

などと相変わらずバカな様子である。今日一日ずっと無愛想で明らかに顔につまらないと書いてあるソフィアにエカテリーナが話を振った。

「ソフィア様はお食べになったことあるの?」

「なぜこんな身にならない話ばかりするのでしょう」

空気が固まった。いや凍った。凍りついた。私は初めてこんな体験をした。それなのにソフィアはまだ続けた。

「女性だってもっと政治や経済の話をするべきでしょう」

さあっと顔色の青くなったソフィアの母君のブラウン夫人は口を開けたままフォローする言葉さえ口にできないようだ。その他のお茶会の参加者の夫人達もまさに絶句。それに素早く切り返したのはエカテリーナだった。


「なるほど、興味深いですわ。」

皆がエカテリーナに視線を移す。なんにも分かってないのに分かった振りをしたみたいな、腕を組んでふんふんと頷いて見せた。見た目が人形に見えるから実にコミカルである。大げさな演技がやけに似合う。

「隣国との国交が急に盛んになったのには何か理由がございますの?」

と、エカテリーナはブラウン夫人に視線を移して尋ねた。他の参加者もブラウン夫人に視線を移した。ブラウン夫人はやっと意識を取り戻したみたいにはっとして、

「ええ、最近隣国の王子が留学生として我が国に滞在している関係でしょう。」と言った。お茶会は微妙な雰囲気で終わることとなった。


ブラウン夫人はソフィアを連れ、逃げるように公爵邸を後にした。その後母上はひどく残念そうだった。旦那なしの茶会故に、今回の茶会の主催者は母上だった。自分の開いた茶会を台無しにされたらそれは許せないだろう。母上は私に

「茶会という場所は、多くの役割があるわ。夫人たちで、腹を探って情報を集める場所でもあるわ。あなたの学び場は座学の場だけではないわのよ。」と言った、手紙を書きながら。宛先はエカテリーナだった。


それならば今日のエカテリーナはどうだろうか。

私は母上に重ねて質問した。

「何故エカテリーナに手紙を書いているのですか」

「今日のブラウン夫人のご息女の失態はブラウン夫人の責任よ。だけどあの場でフォローする役目は私たちにもあったのよ。エカテリーナはそれを彼女なりの方法で収めたのよ。」

また続けて、

「政に関して好き勝手お茶会で言うなんてしてはいけないこと。それを夫人が多くいる場でいえば夫に話が行くでしょうし。」

ブラウン夫人は後日謝罪の手紙とともにあの果物が届けられた。ソフィアからも手紙が届いた。やはり文句ばかりだった。あんなに共感できたのに何故だか分からないが愚かに見えた。私自身も空っぽに思えた。胸が痛い。


その後また王族が主催した茶会で再びエカテリーナとソフィアに会う機会が巡ってきた。ソフィアは私に会って挨拶もそこそこに詰め寄ってきた。彼女の今日のドレスは真っ赤で実に高圧的で、挑戦的で彼女らしい装いだった。

「なぜ手紙の返事をくれないのですか!」

「すまない、返す必要が無いものかと思ったんだ」

私の返答が彼女の顔をドレスと同じ真っ赤に染め上げた。

「甲斐性が無さすぎますわ!それでは失格ですわ!」

まだ社交界デビューもしていない未成年に夫の何たるかを説いたとて無意味も無意味。第一、婚約すらしていないのに結婚、かと思った。


彼女の文句に生返事を返して私はエカテリーナを探した。ソフィアの爆弾発言のお茶会からどうもモヤモヤして心の整理がつかないのだ。母上の話を聞いてからエカテリーナは実はちゃんと物事を考えられる頭のいい女なんじゃかいかと思っていた。


初対面でへらっと笑って「仲良くしましょうね!ふへへ」なんてアホヅラだったからずっとバカで話が通じないヤツ思っていたが。


探していたエカテリーナはすぐに見つかった。大体彼女は大きな談笑している輪の真ん中にいる。私はエカテリーナのいる輪に割って入った。

「エカテリーナ、君と話がしたい」そう言ってそのまま踵を返し以前、ソフィアに引っ張られて一緒に話をした噴水の前まできた。振り返ると、ミントグリーンのチュールドレスの裾を軽くつまんで、たたっと、早足でこちらに向かってくるエカテリーナが遠くに見えた。私は眉を顰めた。


「遅い!何をしていた!」

「ごめんなさい。先程まで一緒にいた方々に急に話を抜けることになる謝罪をしておりました。」眉を下げた謝罪のあの顔だ。

なんだか自分が理不尽な人間に思えた。また胸が痛い。

「...そうか」

「あの、私と話したいこととは...?」


そういえばそれくらいの配慮は必要だ昔母上に言われたことを今頃思い出した。自分が無礼なことをしたと今頃知った。彼女は私に挨拶もしないで抱きついてきたことがあるくらい非常識だったのに実に礼儀正しくなったようだ。いや元々礼儀正しい行いができない訳じゃないが教養が追いついてないと思っていたのだ。だが彼女は実際、今、貴族としてに社交をこなしている。ソフィアよりずっと淑女に相応しい。彼女は一年もかけず、ソフィア以上の教養を身に付けたというのか!


「君はどうやって淑女としての教養を身につけたんだ?」エカテリーナはまたぽかんとしたアホヅラを見せた。せっかく見目がいいのに作る表情がアホヅラとは救えないななんて考えながら、なかなか答えないエカテリーナに焦れる。エカテリーナは困ったような顔をして言った


「私は新しく教養を身につけたわけではございません。」じゃあなんだと聞けば経験だという。そんなもので、彼女は成長したのか?

なんだか余裕たっぷりで一回り大きくなったような彼女だ。会う度に彼女は成長してる。フォローだってさり気ないものになっているのだ。


ふと家庭教師の言葉を思い出した。(他の人よりも心の成長が早いのだろう、そのうち周りも追い付いて来るだろう)エカテリーナはもしかして、私に追い付いてきたのかもしれない。だけど私は全然嬉しくない。出だしは私の方がエカテリーナより早かったのに、今何も成長していない立ち止まって行く道がわからなくなった私をすごい速さで後ろから追いかけて追い抜いて手の届かないところに行ってしまった。


なんだか張り合うことも出来ない位置にいる自分を理解したらどうでも良くなって、エカテリーナに全部話してしまった。こういう話しやすいこともエカテリーナの魅力かもしれない。彼女の社交性の高さを実感した。


話したのは、ソフィアととても話が合って共感できて嬉しかったこと、もしかしたらソフィアとなら対等に意見を言える関係を作れると期待していたこと、ソフィアの無礼な振る舞いを見たお茶会の時からソフィアを愚かだと思ったこと、そして同時に自分の胸が痛むこと。


彼女はそれらを聞いた後ゆっくり言った

「ヴィランドル様はご自分の感情に疎く、感情の変化に鈍くいらっしゃっるのでしょう。ソフィア様にご自分を重ね合わせていらっしゃったのではと感じました」


私は衝撃だった。それではまるで自分で、自分に共感し自分自身を慰め、自身を愛していたということではないか!私がまるで飢えているようだ。そして、ソフィアも私と同じだったとするならまさに傷の舐め合いなんて虚しいにも程がある。私は自分を客観的に見ることが出来なかったためにこんな醜態を晒したのか!

「ヴィランドル様!」後ろで驚いたように名前を呼ばれるがもう彼女の顔を見ることなんてできない。茶会の場所からは離れるが王城の庭は広いから取り敢えず中庭の女神の像がある場所を目指した。私は公爵家だから城に上がることが一度や二度ではないためそれなりに多くの場所を知っていた。その反対に彼女は子爵家それも令嬢、社交界デビュー前の彼女が城に上がったのだって本当に一度や二度で知っている場所だって限られているだろう。


女神像の影でやっと立ち止まる。急に走ったために喉が痛い。心臓がバクバクして頭がグルグルする。こうなった原因を思い出す。


私はほんの少しまだ花開く前の固い蕾が柔らかな花びらに変化して花開くその前にもぎ取られた恋の成り損ないが唯の傷の舐め合いだったと知った。私は確かにソフィアの共感に心地よいと感じた。しかしただそれだけだったのだ。それは決して恋にはなり得ない。


だけど、その共感を捨てた先に何があるのか。誰も何も分かり合えない意見をぶつけるだけの世界なんて疲弊してしまう。心だって身体だってボロボロになってしまう。そう思ったら今生きている世界が突然ひどく恐ろしいものに思えた。自分の味方なんていないじゃないか。そう思ったらカタカタと体が震えた。寒くなんてないのに。自分の肩を抱こうとした瞬間、


別に彼女は香水なんてつけてないし、私だって犬じゃないから人の匂いなんて覚えてないのに何故か分かった。私の周りの空気が変わって私の鼻腔をくすぐる甘い匂い

「ヴィランドル様!」と私の名を呼ぶ耳に残る少し高い声が聞こえた。

声の方を振り向くとエカテリーナがやっぱりいた。私の顔を見た彼女がへらっと笑った。膝に手をついて肩で息をしてる。息も整わないうちに顔を上げて私の瞳を見た。いつもふわっとした髪がヘタっててあちこち跳ねて乱れてる。


力の抜けた、アホみたいな、安心した、心から良かったと、そんな顔が見ていてとても気に障る。イライラして怒りをぶつけたくて堪らない。だけどどこか安心してしまう。


きっと私は今ひどい顔だろう。怒ってるけど泣いているんだから。なんだか感情の処理が追いつかない。今までの自分が持ちえない感情を表に出している。涙が頬をつたって眉毛はキッとつっている。顔がこわばって動かなくていつもの顔が作れない。ヒクヒクと痙攣している。声を上げてなんて泣かない。なんだかずっと心の奥底でずっと昔から決めていたみたい。いつからなんて知らないけれど、きっとうんと昔。カッコ悪いと思って。


泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆った。ハンカチなんか出したらそれこそ負けたみたいで、自分の小さな手では目から溢れ出すそれを袖で拭うしかできなくて...


泣き顔は全く隠せてなかったが、私の視界が自分の袖で閉ざされたことで少しの冷静が戻ってきた。顔を見られたくなくてしゃがんで下を向いて、それをした後にその姿勢が泣いている子供の姿勢の典型だと気づいて、また負けたみたいで嫌になってとうとう地面に尻をつけて崩した胡座をかいた。


言葉を返そうと思ったって、嗚咽しか出てこない。言葉が出てこない、言葉にならない、もどかしい。その間もずっと涙はボロボロ目から溢れ出す。


そんなうちに彼女の方から「私とお友達になってくださいまし!」なんて、全く話の繋がりの見えない言葉が出てきて、顔と同じくやっぱり気の抜ける内容で、その言葉を聞いて敵ばかりの恐ろしい世界での味方を見つけたみたいに思った。「っひ...ぁ...ッ好きにしろ!」少し震えた声で投げやりにそう返した私の隣にわざわざ座って、ニコニコ笑って私の背中を撫でてきたのもまた気に食わない。


私が泣き止んだ頃にはそろそろお茶会が終わる頃になっていた。そろそろお茶会会場に戻ろうと思い立ち上がって、歩きだしたらエカテリーナに手を握られた。またムカついたけど鬱陶しかったけど、あったかいエカテリーナの手のひらの温度が不快じゃなくて、悪くないと思ったからそのまま振り払わずに歩いた。だけどエカテリーナがムカつくのは本当だからちょっと早歩きで歩いてやった。エカテリーナがちょっと慌てて私に合わせてるのを見て勝ったと思った。


お茶会がお開きになり別れの挨拶をする時私の方からわざわざエカテリーナに近づいて言ってやった。今まで色々と気づかなかった私もとうとうエカテリーナに勝ったと思った。私はエカテリーナより先に気がついたんだ。びしっと指を立てて。「友達は期間限定だ!覚悟しておくといい!」そう言われて、またビックリして見目のいい顔を残念なアホヅラにして晒した彼女はすぐに狼狽えた表情になって慌てていた。


言い切ったあとスッキリして嬉しくなった。私は決して鈍感なんかではない!私はエカテリーナに好感を持っているのだ!私は少し自分に自信が付いた。やっと感情の整理がついた。


少し顔が熱いから風邪をひいたかもしれない。くるっと踵を返して今日の自分を称えようとしたら、後ろから腕を引かれて振り返ると小さな彼女が少し背伸びをして振り返ろうとした私の頬にチュッと可愛らしいリップ音を鳴らしてキスをした。すっと離れた彼女は満足そうに妖精みたいな顔に蕩けるように甘い笑みを浮かべていた。「へへ、またね。」


今度は高熱だ。すぐに帰らなかったから熱が上がったんだ。タチの悪い風邪だと思った。心臓も、バクバクするんだから。今度こそくるっと踵を返してスタスタと馬車に乗り込んだ。


恋心に変わって、ひねくれた彼は一生懸命エカテリーナの気を引こうとして、結局不様でカッコ悪い告白になり、決まり悪い思いをしてそれでも単純でもある彼は幸せを掴むことになったとさ。

...。

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