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1。第1月曜日

 けたたましく鳴る目覚まし時計の頭を引っ叩いて、そのまま動けなくなる。


 うー。やっぱりファミレスでグダグダしてるんじゃあなかった。

 結局昨日。いや、今日か。

 家に帰ってシャワー浴びてなんだかんだで、寝たのは4時半近かった。


 今7時。うううぅぅ。

 いかん。これ以上のロスはマジ遅刻だ。

 意を決してベットを抜け出した。



 リビングの扉を開けるとパンを焼くいい香りが鼻をくすぐる。

「おはようぅぅ」

 カバンを椅子に置いて、まとめた髪の具合を確認する。


「おはよう香絵ちゃん。

 昨日は遅かったみたいじゃない?」

「ホントだよ。〈おじいさま〉に学業に差し障るって言っといてよ。

  直談判出来るの、せりかさんくらいだよ」


 対面キッチンから幼い感じのする顔を覗かせるのは〈母〉のせりかさん。

 この人は〈おじいさま〉の実娘。



 めんどくさいから言っちゃうけど、あたし達5人は事件や事故に巻き込まれて殉職した警察官の孤児。

 小さい頃から訓練されて、一応〈おじいさま〉のお眼鏡に叶った選り抜き。の残留組。


 男3人組はマンションで寮生活だけど、リカコさんは科捜研の所長の養女になっている。



「言っておく。

 だから学生の本分に努めてね」

「……はい」

 朝のニュースを伝えるテレビ画面が火事の映像を流し出す。


「ここ。昨日香絵ちゃん達が行ったところじゃない。

 またジュニアくんの爆弾が誤爆したの?」


 もうもうと上がる黒煙。吹き飛ぶ屋根や壁の残骸。

 ヘリから中継しているアナウンサーも理由なく大声でわめき散らしている。


 まあ、普通の親なら子供を送り出したい職場では無いよね。


「今回のはジュニアのじゃないよ。むしろジュニアの爆弾に助けられたんだ」

 前科数十犯、寮の中で胡椒爆弾が誤爆した時はホンキ殺意が芽生えたけど。


 ニュース映像はスタジオに戻り、まだ6月も始まったばかりなのに、見ているだけで寒そうなノースリーブの女子アナが爆発の原因は調査中。と伝えていた。


 もちろん地下室の話は触れもしない。

 報道規制か、まだ確認中か。

「香絵ちゃん。怪我だけは気をつけてね」

 せりかさんが目をジッと見つめてくれる。


 さっきの普通の親なら発言は撤回します。ごめんなさい。

「ん。ありがとう、気をつけるね。

 内偵も数ヶ月に一度あるかどうかだし。全員フル出動なんてホント久々だったな」


 テレビはなおも製薬会社上空の映像を繰り返し流している。

「香絵ちゃん。遅刻」

 撤退中のバンが画面に映らないかと、画面を凝視していたあたしは左上のデジタル時計に目を移した。


「のおおおぉぉぉ。

 ヤバい。お弁当ありがとうね。

 いってきます」

 スポバにお弁当を押し込んで玄関に走る。


「いってらっしゃ~い」

 ぴこぴこと、せりかさんが手を振るころにはあたしの背中はとうにリビングから脱出していたけど。



 通りを1本抜けて、橋のたもとに顔を出すと同じ森稜しんりょう高校の制服を着た女の子が背中を向けて歩き始めている。


深雪みゆきっ」

 声を掛けて追いかけると、肩までの髪をフワリと揺らして深雪が振り返った。


「遅い、香絵」

「ごめん。起きられなかった」

 息を整えつつ歩き出す。


 歩調を速めながら、いつもの道を他愛のない話をしながら登校する。


 日常ってヤツです。


 今日は晴れてて、青い空に白い雲が見本みたいにくっついている。

 夜中に爆発に巻き込まれて、全力疾走した挙句にバンの屋根で梯子にへばりついてたなんて。誰も信じないだろうなぁ。


 学校に近づくにつれて、同じ制服に身を包んだ生徒が足速に歩いていく。


 6月6日、今日は第1月曜日。

 今朝リカコさんが言っていた通り、門扉には腕章を付けた数人の生徒が挨拶をしながら登校する生徒を校内に流し込む。


「おはようございます」

 長い髪を耳にかけ、小脇にボードを挟んで立っているリカコさんの横を通り抜けて、深雪と共に門扉をくぐり抜けた。


 リカコさん、今日当番だったんだぁ。何時に起きたんだろう?

 今日は眠気との戦いになる事間違いなし。


 リリンリリンッッ!

 軽快な自転車のベルに振り返ると、イチがまばらになってきた生徒たちの隙間を縫い、自転車で全力疾走してくる。

 サッと腕章組に緊張が走った。


「校内への乗り入れは禁止よっ!

 ここで降りなさい。」

 リカコさんが両手を広げて声を上げるけど、一切止まる気配は無いみたい。


 ちょっと方向転換して前輪を上げると、門扉を支えるために斜めに張り出している鉄の柱に乗って駆け上がり、ジャンプ台よろしく校内に飛び出していく。


 あの柱幅、10センチもないだろうに。


 空に浮く自転車の荷台には、あぐらをかいたジュニアが後ろ向きに乗っかっている。


 ズダンッッ。


 かなり重い音を立てて着地した割に、一分いちぶのズレもなくあぐらをかき続けるジュニアにちょっと感心しつつ、背後にメラメラとリカコさんの殺気を感じた。


「鳥羽ぁぁ、十条! 烏丸っ! 後で生徒会室に出頭しなさぁい‼︎」

「リカコォ。またね」


 ブンブンと元気に手を振るジュニアにバインダーボードを振り上げる。

「長谷川先輩って呼びなさい‼︎」

 リカコさんの悩みは尽きない。


「理加子落ち着いて。烏丸くんいなかったよ」

 寝不足が頭にキてるんだろうなぁ。

 こんな騒動は第1月曜日の定番行事。ある意味見慣れた光景になってる。


「今日の長谷川先輩、いつもより怖くない?」

 コソッと深雪が耳打ちしてくる。

 寝不足だからね。

「鳥羽くん達は長谷川先輩を怒らせる事に人生かけてるんでしょ」

 それにしてもカイリがいなかった事は確かに気になる。


  まぁ、だからって何もしないけど。



 ###


 予鈴が鳴り人の波が引く。門扉を閉めようと男子生徒の一人が動き出したところで、角からカイリが走って来るのが見えた。


 なんだ、元気じゃない。

 リカコは内心安堵の溜息をつき、門扉に近づくとその場に座り込む。


「長谷川? 邪魔なんだけど」

 リカコがいる事で閉まりきらない門扉にカイリが滑り込んできた。

「あら。ごめんね。シャープペンがレールの溝に落ちちゃって」

 シャープペンをつまんで立ち上がるリカコに、腑に落ちない顔を向けたまま男子生徒が門扉を閉め切る。


「はあっ。助かった。ありがとう、長谷川」

 息を切らしたカイリがリカコに笑顔を向ける。

「運が良かったわね」


 それを、歩き出したリカコはさらりと受け流した。

「ははっ。やっぱり長谷川は優しいよ。

 それに比べてイチとジュニアは。自転車は2人乗り用だからって、サッサと行っちゃって。人非人にんぴにんめ」

「そもそも自転車は1人乗り用だから」


 腕章組もバラバラと校舎に向かい歩き出す。

 リカコの隣を歩く女子生徒がグッとかかとを持ち上げた。

「ねぇ、烏丸くんなんか襟足焦げてない?」

 カイリの襟を覗き込んでくる。


『えっ⁉︎』

 思わずリカコの口からも驚きが漏れた。


 カイリが出た時は中央棟には全く火が回ってなかったのに、それでも焦げてるって。どういうシステム?


 ふっ。

 小さく息をもらし、カイリの瞳が斜め四45度を見上げた。


「由美ちゃん。俺はいつでもバーニングハートなのさ」

「意味わかんないし」

 周囲の冷たい視線が突き刺さる。

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