コトの始まり1 (イラストあり)
追記2020.3.10
2020年5月。本作品『警視庁の特別な事情〜JKカエの場合〜』は、現在連載中の『警視庁の特別な事情2〜優雅な日常を取り戻せ〜』に差し込み、お話を1本化しました。
こちらは検索外となっています。ブクマからは入れますが、『警視庁の特別な事情~JKカエ優雅な日常を取り戻せ〜』
https://ncode.syosetu.com/n4094eu/
の方にブクマ頂けると嬉しいです。
そのまま、3.4とお話は続いていますのでよろしくお願い致します。
2020.3.10 あやの らいむ
リカコさんのファンアートを頂きました。
四季さま。ありがとうございます。
警視庁の特別な事情〜優雅な日常を取り戻せ〜
には、カエも掲載しています(*^ω^*)
『カエちゃん。今どの辺り?』
インカムから聞こえてくる落ち着いた声に気分の高揚が抑えられる。
「第五会議室。イチがエアコンのパネル引き剥がしてるとこ」
暗い室内で、口にくわえた小型の強力ライトの光を頼りに、壁に埋められている大きな業務用エアコンの送風口を特殊な工具でカチャカチャしているのは、あたしと同い年の男の子。
お揃いの黒いツナギを着た彼を背に、辺りの警戒に首を回すとあたしの小さなポニーテールがぴょこんと揺れる。
『リカコ。ジュニアが準備できたからデータ送信したいって』
インカムにカイリの声が入ってきた。
『了解』
パソコンの操作中かな? わずかなタイムラグ。
『いいわ。送って』
「カエ。開いた」
インカムのやり取りを聞いていたあたしに、イチから声がかかった。
取り外された送風口の中はフィルターや機械の管。と思いきや、真っ暗な穴が大きな口を開けている。
「リカコさん、やっぱりエアコンの中は空洞だった。降りる階段があるみたい。
イチ、カエ入りま〜す」
『了解。気をつけてね』
数枚の写真を撮って、小さな強力ライトを持ったイチの短髪を追うように足を踏み入れる。
会議室は1階だったからここからは地下になるのかな。愛想のないコンクリートの階段を15段ほど降ったところで、うっすらとした月明かりを見た。
「明かり取りか? 窓がある」
階段の小さな踊場、イチの頭より少し高い位置に大人が1人どうにか通れるくらいの窓が3つ並んでいる。
「草が見えるな。ここまでが地上か」
踊場から方向転換して、さらに地下へと進む。
「ドアだね。
暗証番号入力しないと入れないや。
まぁ、当然か」
行き止まりにあったご大層な鉄の扉は、電話の数字ボタンのような物が付いている。
「カードスキャンも必要だ。
厳重なコトで」
『ジュニア、どうにかなるかしら』
インカムから聞こえるリカコさんの声をカイリがジュニアに言伝てしているのが聞こえ、インカムにジュニアの声が入ってくる。
『あいあい。カードスキャンする機械に通れるくらいの金属の棒。用意しといて』
「えぇ? 急にそんな事言われてもなぁ。
イチ、ここ通れるくらいの金属の棒。なんかある?」
「針金か?
ったく、忍び込ませておいて情報が少なすぎるんだよ」
パタパタと服を叩いても、そう簡単に仕舞ってもいない物は出てこない。
「上層部も相当張ってはいたみたいよ。
でも決定打に欠けるうえに、こちらさんも薄々張られてるって気付いたみたいで、あたし達にお鉢が回って来たみたい。
あった。ジュニア、ヘアピンいける?」
『いいんじゃない。
今、テンキーの番号解読してるから合図したら奥まで入れてスキャンするみたいに通して』
髪から抜き取った、Uの字に曲がっているヘアピンを真っ直ぐに伸ばして長くする。
ピピ。
インカムの奥から小さな電子音が聞こえて、目の前のテンキーがパパッといくつかの数字を光らせた。
『カエ。3・2・1・GO』
シュッとヘアピンを通すと、ドアの奥からガチン。と重い音がする。
「ロック外れたみたい。
さすがジュニア。サンキュー」
『情報少ないし色々持って来てたからね』
この男の子もあたしと同い年。
「あのデイパックの中身はおやつかと思ってた」
機械関係に滅法強く天才。
このインカムも全てジュニアのお手製。
この製薬会社への侵入も、監視カメラの映像の差し替えも、コンピューター制御室の制圧も、彼無しでは出来ない。
ただし。
『飴とチョコと水羊羹入ってるよ。
あとグンちゃん』
「グンちゃんて、あのダイオウグソクムシの巨大ヌイグルミ⁉︎」
なんとかと天才は紙一重。
「あのパンパンリュックの9割は巨大ダンゴムシか」
げっそりしたイチのつぶやきに
『グンちゃんはダイオウグソクムシだもんね! ダンゴムシなんかじゃないんだから!』
インカムに大音量のさけび声。
集音機能もバッチリ。
耳痛い。
『イチのばーかばーか』
「ジュニア。インカム付けてんのあたしとリカコさんだから」
『無駄話してないで仕事に集中しなさい』
静かだが、有無を言わさぬリカコさんの声にサァッと背中が寒くなる。
『はい』
素直にあたしとジュニアの声が重なった。
「カエ。入るぞ」
重そうな扉を開けてイチがあたしを促す。
閉まった拍子にロックが掛からないように1人分が通れる幅を開けて扉を固定しておく。
まぁ、開けっ放しでアラームか何かが発動する可能性もあるけど、監禁よりはよっぽどマシだもんね。
扉の中にはビニールで覆われた個室があり、正常に動いていれば風の圧力で身体に着いたゴミなどを吹き飛ばす機能があったのだろうけど、ジュニアがシステムをいじったせいか今は全く機能しない。
暗闇に慣れた目には、室内を照らすほのかな明かりさえも刺激が強くしばらくその場にとどまることを余儀なくされる。
「ビンゴ。これはヤバいな」
隣に立つイチの声にゆっくりと瞳を開くと、遥か遠くに見える向こう側の壁まで、一面の植物畑。
水耕栽培やフィルム栽培をされているのは
「大麻、マリファナ、ケシ、ヘロイン。
うっわ。コカインもある」
「こっちの通路はトリカブト、ドクゼリ、ハシリドコロ、エンゼルトランペット。
あれはドクウツギか? デカイのに。
栽培自体は違法じゃ無い物もあるが、何目的で栽培してるんだか」
ドラックはもちろん、イチの確認した植物はちょっとでも体内に入ったら即死間違いなしの猛毒を持っている。
種類を確認しながら、静かな空間にイチが押すカメラのシャッター音だけが響く。
『カエちゃん、適当に証拠抑えたら撤収するわよ。
カイリ、ジュニア出られる?
これ以上は、私達の仕事じゃないわ』
『了解』
あたしとカイリの声が重なった。
「イチ、撤収命令出たよ。
写真、大体いけた?」
黒いツナギ着のポケットにカメラを入れて、イチがこちらを振り返る。
「大丈夫。出よう」
重い扉に戻ろうと動き出した時。
ドガアァァーン‼︎
耳を裂くような大きな爆発音に、足元が大きく揺れた。
「!」