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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
二、山の異変と魔法遺物
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掴めない雲


「巫女だったんですね」


 最近ユーカと行動を共にしていたから、こうして話すのが久しぶりに感じるな。

 離れていたのはたった一日なんだが。

 今日の髪型は位置の高い一つ結びだ。ポニーテールというのだったか。

  結び目の所に俺が買ったアクセサリーが揺れていて、妙に気恥ずかしくなってしまった。

 俺とユーカは現在、詰所でランジャック隊長を待っているところだ。


「あくまで仮称だけどな。魔法はなんとか回収できそうだが、まだ気がかりがある」


 巫女の魂の解放。

 俺達は王都へ帰還してから記憶のすり合わせを行い、魔法陣を紙の上に再現した。

 解ったのは、躯に定着した魂が魔法の原動力になっている、ということだ。

 つまり、魂の定着と巨人の行動は同じ一つの魔法で行われているが、それぞれが別の理屈に沿って同時に、そして半永久的に発動している。

 サーラ先輩は「神の御業としか思えない、ありえないほど複雑な魔法」と言っていた。


 ローブを回収すれば巨人の行動は止まる。

 しかし巫女の魂は躯に留まったままだ。

 躯を破壊しても魂は断片として残るのだという。

 おそらく魂が残っても実害はないが、永らくこの土地を見守ってきた巫女の魂なのだ。

 どうせならきちんと弔ってやりたい。


「神官様にお願いすればなんとかなるでしょうか」

「あー、……不死者の浄化ならできるのかな?」


 蘇った死者を浄化する僧侶、というのは昔話によくある題材だが、今回は少し事情が違う。祝詞やお経で魔法を解除できるとは思えない。

 神秘と相対するとき、手順を違えてはならないのだ。


「二人ともいるな、聞いてくれ」


 ランジャック隊長が来たようだ。サーラ先輩とアンルカさんも後ろに続いている。


「方策が決まった。アンルカ、説明してくれ」

「はい。魔法遺物である巨人のローブを、人が運べる程度の大きさに切断して回収します。回収作業には騎士団から五名ほど人を貸してくれるそうです」

「現場指揮はサーラに任せる。リートとユーカは補佐をしろ」


 ローブを切断しても平気なんだろうか。

 というか最低でも数千年間、原型を留めている布を切断できるのか。


「魔法陣は不織布の部分に描かれていたからね。そこを最初に切り離せば安全に回収できるはずだよ」

「次に巨人の骸骨ですが、回収は無理なので破壊して谷底に埋めます。詳細は明日、改めて通達します」

「……おや、会議中かな? あたし邪魔だった?」


 詰所の扉を勢い良く開けたのは、ウィネットさんだ。

 スレンダーで小柄だが、それを感じさせない明るさで俺達を照らす調査隊の小さな巨人である。

 ショートカットの髪の間から、満面の笑顔を覗かせている。

 騎士団を結婚引退してから夫婦で農業をやっていたが、六年前に旦那さんが病気で亡くなり復職した。息子二人を支える一家の大黒柱だ。

 今でもよく再婚話が持ちかけられるほどの、自他共に認める良い女である。

 年齢は俺の倍だが。


「いや、構わない。ウィネットもリートとユーカに付いて現場へ行ってくれ」

「あいよ。やった。ユーカちゃんと一緒だ」


 調査隊員で、隊長や騎士団長にタメ口を聞けるのはウィネットさんだけだ。

 団長の弱みを握っているなら是非譲っていただきたい。少々の金であれば払います。


 あわただしくランジャック隊長とアンルカさんが出ていった。

 これから山での作業許可を得るため、方々に出向くのだ。

 職人組合、商人組合、鉱山組合、樵に猟師に下流の農家などなど。

 管理職って大変だなあ。


「サーラ先輩、布は普通の刃物で切断できるんですか」

「うん、きっとできる。あの魔法に状態を保存する機能は無いんだ。たぶん、ゆっくりと布や身体の傷を修復しているんだと思う。そして一度の修復には限界がある。そうでなければ巫女は骸骨にならないからね」


 魂を原動力にしているなら、ローブを巫女から剥がせば修復も止まるってことか。


「サーラさん、魂の解放を行わなくても良いのでしょうか」


 骨を破壊する前に俺達で手を打たなくてはならないのだが、今のところ方法は見つかっていない。


 それはそうだ。

 俺達は魔法や神秘がこの世界にあると知っている。

 だが知っているだけだ。何一つ理解などできていない。

 自分の中にあるはずの魂の存在すら認識できていないのに、それを解放しようというのだ。

 まるで雲を掴むような話である。あるのだが……


「もちろん魂の解放も行う。試してみたいことが一つあるんだ」


 今まで何度も、掴めない雲を掴んできたという自負がある。

 カテノアの件だってそうだ。推測と予想ばかりで確信なんて一つもなかった。

 この件だけが特別ではないのだ。



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