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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
二、山の異変と魔法遺物
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巨人と魔物の昔話


 サーラ先輩の書斎へ戻ってきて早々、ユーカと一緒に何故か片付けをしている。本って結構重いのな。

 サーラ先輩は本の背表紙を見ながら記憶の断片を掘り起こしているようだ。


「確かこの辺りで見たのは間違いないんだよね。ああ、あった」


 先輩が棚の奥から持ち出したのは、各地の石版、石碑に刻まれた伝説を集めた文書だ。

 えーと、題名は「語り部の起源と伝承法の分類」とある。編纂したのは……名前の文字がまったく読めない。外人さんかな。


「戦前に活躍したレスターナ出身の錬金術師だよ。名前の文字は魔精語だね。錬金書の記述に使う暗号文字。なんといってもこれ、写本じゃなくて原本だからね」

「貴重品ならちゃんと管理してください。これに手掛かりが載っているんですか」

「うん、報告書を読んで思い出したんだ。ここを見てごらん」


 開いた頁には右半分に絵、左半分に文章が書かれている。右半分に描かれている絵は……なんだろうこれ、巨人か? 左半分の文章は古語だからなんとか読めるな。


「昔、大きな人が住む島があった。空を飛ぶ毒蛇が島へきて、大きな人と争いになった。大きな人は石の布をかぶり亀になった。大きな人は毒蛇を食べて眠りについた」


 民話だな。

 口承が元になった伝説は、学のない者や子供でも覚えやすいように簡易な表現を使う。話の詳細な理解よりも後世に伝わる方が大事だと、当時の人間が考えた結果である。おそらく文字通りの解釈だけでは正確に読み解けない。


「この話がカラウ山の異変に関係あるんですか?」


 ユーカの言うこともわかる。異変に関係がありそうなのは、人夫の少年が目撃した巨大な人骨と大きな人、くらいか。


「空を飛ぶ毒蛇、これはロンダーンの古い伝説に出てくる、“カラウ”という魔物なんだ。この話が刻まれた石碑もロンダーンで発見されたものだね」


 ロンダーンはレスターナ王国の東にある隣国で大陸中央に位置し、全土の貿易拠点となっている。かつては帝政の国として大陸統一の侵略を進めていたが、あと一歩というところで革命が発生。商人組合と職人組合が代表を務める共和制国家となった。

 

 それにしても、カラウか。意外な共通点が出てきたな。

 大きな人、布、カラウ。

 なるほど、文書を調べてみる価値がありそうだ。

 ユーカが首を傾げながら意見する。


「ロンダーンは大陸の中心で、海に面した場所はないです。レスターナにも人が住めるような島はありません。この地域に残る伝承とは考えにくいです」


 大陸周辺で島といえば、東か南にずっと行ったところにある。どちらも口伝が残るような近い距離ではない。


「そう思うよね。でも太古の時代、この地に島があったと言われている。島というか海だね。連峰の北の麓に縞々模様の崖があるんだけど、そこで海の貝殻や石に埋まった珊瑚が見つかっているんだ」

「この辺はかつて海だったということですか?」

「そう、そして連峰は……」


 連峰は島だった。一旦、推測を整理しよう。


 連峰に巨人が住んでいた。魔物カラウがきて巨人と争いになった。最後に巨人が魔物を食べて眠りについたのだから、巨人と魔物は相打ちになったはずだ。

 わからないのは、石の布をかぶって亀になる部分だな。


「サーラ先輩、亀って何の象徴でしたっけ」

「亀の象徴は予知、長寿、遅い進歩、そして不死身だね」


 巨人は石の布をかぶって不死身になり、魔物と戦った。

 不死身なのに相打ち? どういうことだ?

 いや違う、大きな人は死んでいない。文字通り眠ったのだ。


「石の布は何を表しているんでしょう」

「さっぱりわからない。石から布を作る方法なんて聞いたことがないよ。しいて言うなら石は大地を表していて、大地の恵みから布を作った、って感じかな」


 表現としては違和感がある。大地を表すなら普通は土だ。

 他の古い文献では麻の布や毛の布というように、使用された素材が記される。

 変わったところでは布を織った存在、人名や神名などが付けられる場合もあるが“石の布”という記述は初めてだ。

 動詞と関連があるのか?


「布は切る、被る、巻く、破く、敷く、纏う、石は打つ、割る、砕く、……うーん」

「あっ、そうか! 石だ!」


 おっと、サーラ先輩の優秀な頭脳が何か拾ってきたか。


「そうだそうだ。えーっと確か……」


 ああ、片付けた本がまた滅茶苦茶になった。

 先輩が投げた本をユーカが華麗に受け止め、足元に本の山が築かれていく。

 先輩の手が最後に掴んだのは詩集、という体の魔道書だ。詩や散文形式の暗号に変換された魔法の手順が書かれている。


「この詩集には“石を敷く”という表現が出てくるんだ」

「何を意味しているんですか」

「石は宝石、敷いたのは陣。さて、宝石の象徴はなんでしょう?」


 魔法か。





 俺は隊長室へと足を運びながら、「石の布とは魔法がかけられた布である」というサーラ先輩の言葉に少々気が滅入っていた。

 魔法を相手に回した仕事が楽だったことは一度もない。

 時には複雑な謎解きを、時には大立ち回りをさせられたこともあった。いまだに影響を残し続けている魔法だってある。


 魔法には作為があり法則が優先される。魔法の大原則だ。

 不条理な現象を相手にしなくていい所だけは、まあ、マシか。前向きにいこう。


 カラウ山と魔物カラウ。

 谷底で目撃された巨大な人骨と、巨人の伝説。

 一枚布のように見える茶色の何かと、石の布。

 禿山だけはまだわからないが、共通点が三つも揃えば無関係と断言するのは難しい。


「魔法遺物の可能性あり、か」


 そりゃあ、ランジャック隊長も苦い顔をする。

 まだ魔法絡みの異変と断定はできないが、可能性があるのだから万全の態勢で望まなければ最悪、死人が出る。


「リートはどう見る?」

「報告書にあった、人骨を見た少年の証言が真実であれば可能性は高いと思います」


 仮に異変や伝承とは関係が無くても、人骨が本物ならば正真正銘の事件である。だって死体だもの。

 当然それに見合った調査費用を出すべきだと俺は言いたいのだ。


「調査を二度に分ける。初回はサーラ、キアフット、リートの三人で行ってくれ。異変の詳細を確認、対策を話し合った後、必要があれば二回目の調査を行う。アンルカとユーカは資料の準備。ニラックとヘクス、あとウィネットにも王都待機を命じておけ」


 サーラ先輩との考察から出てきた“石の布”は遺物の可能性が高い。

 それも、宝石を触媒にして魔法がかけられたであろう遺物。

 特級でやばい代物だ。


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