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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
十五、新地下倉庫探訪
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五千九百二十九


 昼食をどうしようかと思案しながらサーラ先輩の書斎へやってきた。せっかくの休みだ、どうせならサーラ先輩も誘って豪勢にいこうか。


「先輩、おはようございます」

「おはようリート。地下倉庫を改築したよ」

「へえ。今度はどんな仕組みなんですか」

「私の許可なく地下倉庫の階段を降りると」

「降りると?」

「死にます」


 死ぬのか。


「それ、まずいですよね!?」

「ダメかな?」

「ダメに決まってるじゃないですか」

「……冗談です」


 嘘くせえ。


「で、どんな仕組みなんですか?」

「リート降りてごらん」

「嫌ですよ、俺にはまだやり残したことが」

「大丈夫! 大丈夫だから! ほら!」


 本当に大丈夫かよ……。


「あっ……ああ~……」

「変な反応するのやめてください」

「大丈夫だって! 痛くしないから!」

「痛いんですか! どのくらい痛いんですか!」


 サーラ先輩にぐいと背中を押されながら地下倉庫の階段を下りる。やがて最下段へやってきた所で木製の扉に突き当たり、扉を開けると石組みの小部屋へ出た。手に持つランタン以外に明かりはない。

 およそ五歩分の幅がある立方体の小部屋を見渡すと、俺達が入ってきた入口の他に出入り口は一つもないようだ。


「何もないですね」

「明かりを消して、目を閉じてから十数えてごらん」


 ランタンの火を消すと真っ暗だ。真の暗闇である。目を閉じてしばらくすると、まぶたの裏にぼやっと何かが見えてきた。次第にそれは形をとり、俺達がいる小部屋の壁であると気付いた。

 再び目を開けると、明かりが何もないというのにくっきりと周囲が見える。石壁が発光しているようにも見えるが、影はできていない。


「おお……」

「暗闇で目を閉じられる勇気のある者だけが、次の扉を見つけられるんだね」


 サーラ先輩が指差した正面の壁に、先ほどまで存在しなかった扉が現れている。入口の扉と同じ造りだ。


「開けていいんですか」

「いいよ。……あっ……ああ~……」

「変な反応するのやめてください」


 木製の扉を開けるとまたしても小部屋があった。今俺達がいる小部屋にそっくりだ。違うのは部屋の四方に扉が一枚ずつ存在する点である。厳重なのはいいが、こうも関門が多いと不便じゃないだろうか。


「……あれ? おかしいな」

「もう騙されませんよ先輩」

「いや、……あれ? この先に倉庫があるはずなんだけど」


 サーラ先輩がしきりに首をかしげている。なるほど、先輩がヘマをするというエグバジルさんの予想は当たったようだ。


「あ、そうか。最初の扉の前でリートの入室許可を出さなきゃいけなかったんだね」

「じゃあ戻りましょうか」

「戻っても無駄だよ。二つ目の扉を開けてしまったから、今私達は迷宮に囚われているんだ」


 背後へ向き直り入口の扉に手をかけた。この先に階段があるだろうと予想して開けると、石組みの小部屋がそこにあった。四方の壁に扉が一枚ずつ。


「……俺達出られるんですか」

「出られないね」

「出る方法はないんですか」

「迷宮の中に二つだけ、扉が二枚しかない小部屋がある。一つは今いるこの入口部屋、もう一つは裏口だね。裏口の扉は私の書斎へ繋がっている」


 ああ、一応出る方法があるのか。あやうく俺の休みがつぶれるところだった。


「それならその裏口へ行きましょう」

「迷宮には全部で五千九百二十九部屋あるんだ。今私達がいるのはその中の一つでどこにいるのかわからないし、裏口がどこにあるのかわからない」


 なんで? なんでそんなに作ったの……?


「七十七の平方だね。魔術的に都合が良かった」

「他に出る方法は?」

「書斎にある扉を外から開けると、迷宮にある全ての部屋と書斎が繋がる。そして扉の鍵は今私が持っています」

「じゃあ……」

「裏口を見つけるしかないよ。私が作った完璧な迷宮魔法だからね」


 思わず座り込んでため息をついてしまった。

 サーラ先輩が始めに言った、“死にます”が冗談ではなかったということだ。水も食い物も持っていないし、今日は私服だから装備もない。ランタンの他に、騎士団の規定にある帯剣だけはしているが役に立つとも思えない。


「……俺達が閉じ込められていることに、外の誰かが気付いたら出られますか?」

「うーん、どうかな……」

「そもそも、どうして迷宮魔法なんか作ったんですか。賊を閉じ込めるだけなら部屋は一つでいいでしょう?」

「だって地下倉庫の中なら魔法や遺物が自由に使えるんだよ? できるとなったらそりゃあねえ……、やるよね!」


 うん、やる。まあいい。サーラ先輩をせめても事態は解決しない。

 俺達ができることはこの迷宮のどこかにある裏口を探すこと。約六千ある部屋の中から一つの出口を探すことだ。


 二手に分かれて探せば三千ずつ。休憩時間を入れて一部屋に一分かかったとして、およそ二日ってところか。眠る時間を考慮すれば最長で三日かかる。

 いや待て。二手に分かれたら、たとえ裏口を見つけても、もう一人を探さなければならない。そうなると余計に迷いそうだ。


 つまり二人で一緒に行動して、約六千の部屋を見て周る必要がある。当然かかる時間は倍。最長で六日だ。水と食い物なしで六日間動き回ることなんてできるのか……?




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