東京の田舎者
生まれは東京の新宿、
でも育ったのは東京の中野の田舎。
私がそう言うと友人の大半が怒るけれど、本当に田舎だったんです。
近所に畑農家が多かったし、牛を飼ってた家もあったし、クワガタやカブトムシの採取も出来ましたし。
友人たちで私がそう言うと怒るのは二グループあります。
一つは自身も中野出身で、中野を田舎呼ばわりされたくないという人たちです。
いや、だから「中野の田舎」と断りを入れているんだけど。あなたたちは「中野の都会出身」なのよ。と言っても許せないらしいです。
ごめん。でも認識は変わらないから。
もう一つは「東京に憧れて出て来たのに。」という人たちです。いや、昔の話だからね?
育っていくうちにだんだん都内らしくなりましたから。
でも、牛を飼っている農家さんのところへ、牛乳を買いに行くのは楽しかったなあ。
たまに何度かお金と鍋を持って行って、計って鍋に入れて貰いました。で、家で沸かして飲みます。
そういう時には仔牛が必ずいるので、牛小屋をそうっと覗くのも楽しみでした。瞳がとても綺麗だったんです。
畑で収穫している農家さんに声をかけて分けて貰った野菜は本当に美味しかったし。
人参の葉っぱをバターで炒めたお菜、大好きでした。農家の直売所に行っても葉つきの人参ってなかなか無いのでしばらく食べてないけれど。
畑の畔や空き地に行っては
ツクシを摘んで、ハカマを取って、卵とじ。
ワラビの煮付け、すかんぽのバター炒め。
タンポポの茎と葉を入れたサラダはちょっと苦いからドレッシングを少し甘くしてもらいました。
タンポポの花とヨモギの天ぷら。
あれ?覚えてることって食べ物のことだけ?
そんなことないはず。
レンゲの首飾り、カヤツリ草、ジュズ玉集め、玉虫を見て(あまり綺麗なので採りませんでした)。
アオスジアゲハ、キアゲハ、アゲハ。モンシロチョウ、モンキチョウ。カミキリ虫、キリギリス。オニヤンマ、ギンヤンマ、イトトンボ。
生垣のカラタチの実の匂いにうっとりして、あちこちでなっているグミを摘んで、農家の柿もぎの手伝い。
ビワを食べて。イチヂクはあちこちにあったし。
ザクロを喜んでたのは少数派でした。酸っぱくて実が取り難くて種ばかりなので。近所の公園にあって熟れるのを楽しみにしてました。
雑木林で見つかるアケビは甘いから人気があったけれど私は駄目でした。見た目がカエルの卵みたいで。
庭にスモモを植えていた農家さんがあって、実ると取らせてくれました。子どものおやつにと植えたのだけれどスモモが嫌いなんだとかって。ちょっと酸っぱいけれど香りが良くて美味しかったなあ。
ああ、やっぱり食べることに戻ってしまいました。
今はそんな畑も農家さんもみんな無くなって。マンションとアパートと駐車場になっています。
子どもたちみんなで野球をしたり凧揚げしたりして遊んだ原っぱはいつの間にかスポーツジムに変わってました。雑木林は整備されて明るい公園に。
すっかり私の覚えている場所が無くなって、実家に帰る度に迷子になりそうになります。