クリスマスの思い出(注: 色気はまるでありません)
私が高校生だったある年の12月20日前後の土曜日の昼を少し過ぎた頃。
私が部活で仲良くなったMに頼みごとをされて、引き受けた日のことです。
部員の中では私が一番彼女の家に近かったから頼みやすかったのでしょう(自転車で五分位)。
クリスマスソングが流れる駅前の人通りの多い賑やかな商店街の道を私とMは大きな荷物を持って歩いていました。
Mは大きなレジ袋を一つずつ(中身は果物の缶詰とホイップクリームが六個ずつ、砂糖一袋と苺のパックが四つ)両腕に掛けて。両手で持っているむき出しの大きなステンレスのボウルにはハンドミキサーが入っています。
その後ろの私は幅五十センチ長さ一メートルほどの板(Mのお父さんの趣味である蕎麦打ちに使うのし板)の上に、スポンジケーキが二列三段重ねで(上にきれいな布巾をかけて)載っているのを胸の辺りで持っています。
Mが通っているキリスト教会の集会で配るケーキの飾りつけを教会でする為に運んでいるところです。
クリームを塗って果物を挟んだり載せたりした六個のケーキを運ぶのは難しいと思ったので。
荷物が重たいし、物が物なのでゆっくり歩いて行きました。
私は積み重なったケーキで前が見えにくいからMに先に歩いてもらってついて行きます。
行き交う人たちが妙な顔をしてこちらを見ている気がするのは、自意識過剰でしょう。多分。
駅に近いMの家から教会まで十五分ほどかかりました(商店街を通るのが一番の近道)。
なんとか無事に着いて、教会の台所で荷物を降ろした途端に寒さで震えあがりました。
朝Mの家に行き、二人でずっとケーキを作って焼き続けました。その途中で台所がオーブンの熱気で暑くなり、上に着ていたセーターや長袖のシャツを脱いだことをすっかり忘れていたのです。
私もMも半袖のTシャツ(幸い人前に出せる程度のプリントT)にジーンズ姿でした。
すれ違う人たちが妙な顔をしてこちらを見ていたことも納得です。
慌ててM宅へ走って戻り(寒かったので歩いていられませんでした)、シャツとセーターを着てコートを羽織って教会へ逆戻りして。
急いでクリームを泡立てて、苺を洗ってへたを取り。缶詰を開けて水気を切ってケーキを飾りつけている間に手伝いの人たちが来たので後は任せて又M宅へ。
疲れたのでMの家で憩んでいると、Mのお母さんがお茶と一緒におにぎりを出してくれました。
おにぎりを口に入れて初めてお腹が空いていたことに気がつきました。お昼を食べ損ねていたのです。
ケーキやクリームの甘い匂いですっかり食欲がなくなっていました。
そして辞去する際にケーキを一台(飾りつけていないもの)をプレゼントとして渡されました。
翌日家族で頂きました。美味しかったです。
今は結婚して少し離れた所に住むMに会いに行く時。
家族のためや知り合いの手土産にとケーキを焼く時。
道を歩いていてケーキ屋さんからケーキの焼ける匂いが漂ってくる時。
スーパーや百貨店でクリスマスソングを耳にした時。
あの商店街を通る時(私の実家の近くです)。
いつも、
あの時運んだケーキの重さと、私の先を歩いていたMの背中を思い出します。