林檎の思い出
私の子は娘ばかり三人。今は家を出てそれぞれで暮らしています。
小さい頃、娘たちは揃って林檎が大好きでした。
年に一度はリンゴ狩りに行って、その場で食べて。食べた後はもいで持ち帰りました。10キロ近く。で、ほぼ全部を、娘たちが食べました。
朝食には一人半個ずつ、あとはおやつにします。
パイにコンポート、クランブル、グラタン。剥いた皮は捨てずに冷凍しておいて、後日ジャムに。
おやつに毎日、林檎を使います。娘たちは作ったものを食べ尽くすために、夕食のデザートとして出すには又作らなければなりません。面倒なので、たまにしか夕食用には作りませんでした。だから、主人の食べた分なんてほんの少しです。
私の口には殆ど入りません。おやつは全部、子どものものです。おまけにある日、子どもに訊かれました。
「お母さん私たちが学校行ってる間にリンゴ食べた?」
パイだってコンポートだって一度に六個くらい使ってるのだと説明すると、すごく疑われました。あのね、火を通すと嵩が減るの。
林檎が特に好物だった二女は生クリームが大嫌いなので、添えるクリームはカスタードクリーム。
ある日、リンゴ入りのパウンドケーキを作り終え、カスタードクリームを作っていると、娘たちが帰って来ました。しばらくすると二女が寄って来て
「お母さん、あのね。」あら宿題かしら、プリントかしらなんて思っていると、
「妹はうんと小さいから、おやつは私より少しで良いと思うのよ。」と言い出しました。
「それならお姉ちゃんの分を増やして、あなたのをそれより少なくして、ってこと?」私がそう返すと、
「私とお姉ちゃんは同じくらいの大きさだから(年子です)私とお姉ちゃんは同じ量で良いと思う。」少し慌てたような声で言いました。
「なら、余った分はお母さん?それともお父さんに取って置こうか?」
「あのね、私たちは大きくなるから、妹の分を私とお姉ちゃんで食べても良いと思う。」
なんて食い意地でしょう。もう可笑しくなって。
「じゃ、クリームだけ、そうしてあげる。」
そう言ってあげた時の二女の笑顔。今まで見た中で一番明るい笑顔でした。本人は覚えてないそうですけど。