金木犀
高校生の頃の友人Eは金木犀が好きな人でした。
香りが好きで花が好きで、花が地面に散っている様子も好きでした。
花が盛りの時に校庭の隅にあった金木犀の枝から花を取って、水洗いしてからハチミツにつけてパンに塗って食べたり、アルコールに浸して香水替わりにしてみたりしてました。
トイレの芳香剤に金木犀の香りが発売された当時、わざわざ私に電話をして愚痴ったこともありました(今はもう売られていません)。
二十歳になった誕生日に金木犀のお酒をロックで飲んで
「思っていた味と香りじゃないよ」
と嘆いて、でも一人で半分がた片付けたのには居合わせた皆で驚きました。あれ結構癖があったよ。彼女以外はソーダ割りにして片付けました。
そんな彼女が、結婚して。
秋の挙式でした。無理を言って私たち友人に金木犀の造花を作らせてベールの飾りにつけて(ブーケに金木犀は無理だったので)。
その年の暮れに旦那さんの転勤で北海道に引っ越しました。彼女の憧れの北海道です。
翌年の秋に電話がかかってきました。
「北海道に金木犀が無い」って。
私は知らなかったのですが金木犀は寒さに弱いらしく、北海道では庭木として植えられない木なのだそうです。
「寂しいよう」
まぁそうだろうね。仕方ない、押し花作って送りました。三回ほど。
その後、旦那さんの再度の転勤で岡山に引っ越して、めでたく押し花が要らなくなりました。
彼女は現在東海地方の旦那さんの故郷に住んでいます。購入した家の庭に金木犀を植えて。
そして今でも。およそ年に一度。
金木犀が咲いたよ、という連絡ばかり取っています。