一月十六日(ただし旧暦の話が混ざっています)
一月十六日は冬の盆です。 (旧暦だと春の盆)
旧暦を使用していた頃からの行事なので、新暦に替わった時に新暦に変更した所もあると聞いています。
戦前くらいまでは日本の各地で供養行事を行なっていたそうです。
けれども夏(旧暦だと秋)と違って一日だけなので親族で集まるのが難しいことも一因でしょうか。
正月行事の中に埋もれてしまってしなくなった地域も多いようです。別の行事になったとかもあるそうですから(例えば念仏講とかに)。
実際正月は二十日までという所もあり、正月行事は全て歳神を祀る神事です。だからその間は仏事を控える地域もあり(神道は仏教を厭う為に)冬の盆は主に正月を十五日までとする地域で行なわれていたみたいです。
沖縄で「じゅうるくにち(十六日)」と言えば旧暦の一月十六日。祖霊の正月と言われています。冬(旧暦だから春ですね)の盆の行事そのままです。
そして新仏がある家では「みーじゅうるくにち(新十六日)」といっていつもより盛大に催します。
祖霊を大切に敬い、まだ日常生活に旧暦が生きていて多くの行事が旧暦で催される沖縄だからこそ残った風習ではないでしょうか。
え〜と。ここまで書いたら。
もうあの有名な沖縄芝居の話をしないと。
沖縄の怪談話「逆立ち幽霊(一名新十六日)」です。
あらすじは
美人の妻を持った男が、あまりに妻が美しい為に自分が死んだら誰かの妻になるのではないかと疑心暗鬼になった挙句病気に罹ってしまい、だんだん重篤に。
看病している妻は自分の美貌が夫の病気の原因ならばと自分の鼻を削ぎ落とし醜くなります。
それを見て安心した男は回復して元気になります。
が、醜くなった妻を嫌って他所に愛人を作り、愛人と共謀して妻を毒殺。愛人を後妻に迎えます。
妻は恨んで幽霊になり男の家に行くのですが、男は家に来ないようにと墓の中に安置されている妻の亡骸の両足に釘を打ち込みます。
足の釘が痛んで歩けなくなった妻の幽霊は逆立ちして男の家に向かうのですが上り坂を登れずに坂の下に留まることに。
そこに霊力のある男が通りかかり幽霊から事情を聞くと幽霊の亡骸に刺さった足の釘を抜いてやります。そして歩けるようになった妻の幽霊が恨みを晴らす…というものです。
何か色々突っ込みたい所があるのですが。
「牡丹燈籠」にも幽霊の下駄の音が聞こえるのだから幽霊に足があるのも頷けますけれど。
足が痛いから逆立ちで歩くって…。しかも坂を登れないってどうなの?理屈は合ってる?けれど…
私にとってはそこが気になって恐いと思えなくなった変な怪談です。
このお芝居の中にも「新十六日」の場がありまして。
何食わぬ顔で夫は親族を招いて死んだ妻の新十六日供養を行ないます。
けれども用意したご馳走が全て傷んで食べられなくなり、散々な供養になるのです(亡妻が成仏していないことがこの事で判ります)。
沖縄では食べ物が傷むのは悪霊や魔物が触れるからだといわれます。それで食べ物の上に葉を結んだ魔除けを置いたりします。
ちょっとしたお裾分けとかお弁当とかにもこの魔除け(サンといいます)が載せられます。
沖縄出身の友人からサーターアンダーギーとかアンダンースのお裾分けをいただくと上にこの魔除けが載っています。
それを見るとこの話を思い出したりするわけです。