第7話:千の策、万の手、たった一つの誤算
拙作、初めての戦闘回です。
少々拙いかもしれませんが見ていただけると幸いです。
俺とロザミアは今、学園が生徒たちの授業の際に使用する闘技場で睨み合っていた。
「要求ちゃんと覚えてるよな?後から忘れましたとか言ったら許さねえからな。脳筋勇者。」
「ふっ、その程度の約束も守れないような私ではない、お前こそそんな約束してないだとかのたまうなよ。」
「てめえ……いい度胸だな。半死で留めようかと思ってたがやめだ!ぜってーぶっ殺す!」
俺は学園側が生徒たちに支給している木剣を突きつけ叫んだ。
決闘をするということは、つまりどちらかの要求を話し合いでまとめられなかった際の最終手段である。
今回の要求それは、ロザミア側はディアンが売り飛ばした初代勇者の遺品の回収、そしてそれを渡すこと。
それに対してディアンの要求は、まずドアを直させるということ、それに加え自分のことを先輩としてしっかりと敬うこと、最後に俺の言うことを必ず聞けというロザミアとの要求にバランスが一切取れていないひどいものだった。
しかしロザミアはよく言って真面目、悪く言って丸め込まれやすい性格のため、この割に合わない要求を飲ませられてしまったのだった。
「えー、今回のルールは相手に参ったといわせるまでずっと続きます。参ったと言わなかった場合殺してしまってもかまわないというお二人の希望により、止められそうな人もいないため採用されました。内容に間違いはございませんね?」
いつまで経ってもケンカばかりで延々と始まりそうにないのを見かねたパティがルール確認を行い開始の態勢を整えた。
パティがそんなことをしてるのは他の生徒たちが二人の険悪な雰囲気に茶化すに茶化せなくなり、一歩引いた所で見ていたのに対して怖がらず、かつ楽しそうな顔で見ていたことからその役目を周りの連中から押し付けられてしまったのだった、当人は楽しそうだから別に良さそうだが。
パティによる確認を二人とも了承したこと確認したパティは少し距離をとり、風魔法に声を乗せ、決闘の合図をした。
「それでは!お二人さん!行っちゃってください!始め!!」
ついに戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
開始の合図と共に、ロザミアが自身の愛剣であり、『聖剣』の一本である『龍神剣・バルディギア』を上段に構え、飛び込んできた。
この闘技場は一対一の模擬戦闘演習に良く使われるので、開始線が定められており、これは魔法での攻撃の際に誘爆の被害を抑えるため、普通の一般人が全力疾走で10歩の距離が互いに存在するのだが、その距離をロザミアはスキル『神速』で自身が元々持っている速度を倍にしたうえ、『縮地』も使用しわずか1歩で詰める。
生徒たちはこの一撃で終わったな、と察した。
ロザミアは龍ですら一撃で屠るといわれる怪力の持ち主、その攻撃が瞬きする暇もないほどのスピードで来たらまず普通の人間は対処できないはずだ。
しかし、ディアンはこの攻撃を知っていた。
ロザミアが初撃で決めたいのも分かっていた。
だからこの攻撃が来るのは完全に把握していた。
それゆえ、まず『紫電武術 参の型 雷伸』、これは達人が使えば一瞬で数キロ先へも飛べるのだが、彼はそこまではできない、出来て体を半歩斜め前へ出せるぐらいだ。
しかし、これでは避けきれない、そこで『神器作成』で持っていた木剣をすぐさま神器と同等の性能まで改造、さらに『風魔流忍術 仙転』を使いながらロザミアの剣の刃に木剣の腹を合わせる。
するとロザミアにかかっていた力学が全て回転エネルギーに変化、そして彼女はそのエネルギーに巻き込まれ、ディアンの後方へと吹き飛んだ。
先程の1合で使い物にならなくなった木剣を捨て、新たな木剣を『複製』、すぐさまそれも改造し吹き飛んだ相手の無防備な背中に向けて追い討ちを仕掛ける。
だが、彼女は『第一勇者』、その攻撃に対処できないはずがない。
背中に突き立てられる剣を相手が起こした回転エネルギーを利用して、足のかかとではじき返す。
この行動は神器の域にまで引き上げられたディアンの得物では、たとえロザミアの堅牢な肉体であっても傷を受けることになり、これからの戦闘に痛手となるのだが、それは一般的な話。
彼女は『再生』を持っているので多少の傷は無視しても問題ない、彼女クラスになるとすぐさま治ってしまうのだから。
しかし、敵の攻撃を最小限に押さえ込めたというのにロザミアは不機嫌そうに口を開く。
「私相手に自分の聖剣を使わないとは随分と舐めているな、今のだってあれなら私の足を切り裂き再生不能にも出来たはずだというのに。」
「うるせえ!今、あいつは休暇中だっ!!」
ロザミアが体勢を整える前に懐に飛び込む、その間に両手に先程の木剣を複製、同じように極限まで強化させる。
『解体剣 微塵切り』、これも雷伸と同じく本来の性能は発揮できない、彼には出来て相手を八つ切りにする程度だ。
これが無防備な相手に入れば決着はつくのだが、なんとロザミアはそれに合わせ無理な体勢から同じ技を本来の威力で放ってきたのだ。
しかし、ロザミアの攻撃は当たらない、当たってはいるというのに全て通り抜ける。
ロザミアは気づいた、これは幻影を生み出す『豪炎武術 砂塵の型 陽炎』。
普通の幻術は耐性を持つ彼女には全て破られてしまう。
だから、視覚に直接幻影をみせる足捌きである陽炎を使い、真正面から飛び込んでくるディアンを生み出した。
つまり、本体は別の場所にいる。
そう今攻撃している幻影の反対側、真後ろに。
背中を十字に切り裂かれる、そう判断したロザミアは無理やり技を止め、宙に飛んだ。
これが彼女の失敗だったのだ。
ここまで彼女は初撃以外全て自分の満足のいく状態から行動を起こせていない、その状態で宙に向かうということはただでさえ行動が制限される空中になんの準備もせずに入っていくことである。
案の定、ディアンは空中に罠を撒いていた。
ロザミアが十分な高さに飛び上がった瞬間、四方八方に彼の手にあるのと同じ木剣が出現した。
彼女は全て切り落とそうとすぐさま迎撃に入るが、『勇者』といっても所詮は人間、死角から飛んでくる剣には対処できない。
体中に木剣が突き刺さった彼女は、迎撃の最中に鎖を『練成』していたディアンによって縛り上げられ地面に叩きつけられる。
完全にディアンの術中に嵌ってしまったのだった。
動かなくなったロザミアに念を入れてディアンは『重力魔法』をかけつつ、ゆっくりと近づいていく。
その瞳には勝利の炎が宿っていた。
過去にディアンは今回とまったく同じパターンで彼女を倒している。
勝利したと確信してもおかしくはないのだ。
ただ、彼女が過去と同じままならという前提の話だが。
一呼吸そんなわずかな間に、赤い閃光がディアンの真横を通り抜けていった。
その瞬間、彼の左腕がぼとりと地面に落ち、鮮血が舞った。
ディアンもひとつ誤算をしていたのだ。
ロザミアがまだまだ未熟だという砂糖菓子よりも甘いたった一つの誤算を。
できれば、今後の作品作りのために感想、評価よろしくお願いします。




