第4話:勇者なんてろくなもんじゃない
いってぇ~、まだあいつに殴られたところジンジンするわ……。
つーか、あいつの言ってた担当教官がサボりって俺のことかよ、俺と同じことするやつもいんのかって親近感を覚えてた所なんだが。
それはさておき、明らかに教室にいる連中の目が冷ややかなのは俺のせいだな。
昨日サボったことに対して、確実に切れてるんだろうな、まあ、元々こんなところに来るような連中はあの馬鹿みたいに自身に満ち溢れた、それこそ才能のあることをもてはやされてきた人間なんだろうよ。
特に苦労もせず、ほんとはこんなところで『勇者』なんぞ目指さなくたって生きるのに十分な生活を送れるのがうじゃうじゃいる。
それこそ地べたにはいつくばってでも生きようなんて毒々しい目をしてるやつなんて、学園内にも10人居ればいいほうだろう。
そう思うと無性に腹が立ってくるのが自分でもわかった。
てか、なんで今日来ちまったかな、こんな胸糞悪い思いすんなら来なきゃよかったわ……あいつらと話したのがそんなに楽しかったんかねぇ。
そんなことより、いつから『勇者』ってのはこんな腑抜けた輩が目指すようなところになっちまったんだか。
誰がこんな学園を作ることを決めたのか。
おおかた、8年前の事件で減った『勇者』の数の補填さえできればいいとか考えてやったんだろうな、上の連中は。
そんな事ばかりを考えていると勝手に口が動いていた。
「お前らさ、なんで『勇者』になんかなんの?」
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は?
質問の意図がまったくもって見えない。
何を言ってるのかまったくわからない。
あいつは、『勇者』なんかって言った、なんでそんな失礼なことを言えるのだろうか。
なぜ、『勇者』を目指す私たちを「間違ってるぞ、お前たち」という目でみるのか。
私以外のみんなは何を考えているのか分からない、もしくは何も考えられていないのかもしれないが、ただただ唖然としていた。
そんな私たちをよそにあいつは続けて口を開く。
「聞こえてねえのか?……だからよ、お前ら何がしたくて『勇者』になんの?」
その言葉に、私の目の前に座る少年が立ち上がり答えた。
「それはもちろん、世界を平和にしてみんなが安全に暮らせるためです!」
彼はいつもと同じように正義感溢れる、それこそ『勇者』としてもっとも模範的な回答をした。
したのだが……。
「馬鹿か、お前。もうとっくに世界なんざ平和そのものじゃねえか。」
あいつはそれを一蹴した。
少年は馬鹿といわれたことか、それとも自分の意見が何一つ考えもせずに切り捨てられたことが悔しかったのかは分からないが、机を叩き、先程よりも力をこめて話し出した。
「何を言っているのですか! 南大陸では神聖王国オルテレンシアの神権波及路線が我がそ、ではなくてドルムモンド皇国の領域まで広がり、その結果国家間の戦争にまで発展し人々が恐怖に慄いているんですよ!?」
「そりゃ、人同士の争いだ。過去の魔族との大規模な戦争とはまた別だろ。そんな戦争に『勇者』を介入させたら他の戦争したい国々が『勇者』の軍事力に目をつけてもっと死人がでるわ。そんなこともわかんねえから国の危機までペラペラしゃべっちまうお間抜けな亡命王子が出てきちまうんだよ。お前、俺がオルテレンシアのスパイとかだったら死ぬぞ、今日中にな。」
彼は顔を青ざめさせ、口をパクパクとまるで魚のようになっていた。
あいつはその後もみんなが話した『勇者』になる理由をどんどん否定していった。
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ほんと、予想よりもお粗末な連中だった。
最初に自分がある国の亡命王子だとばらした奴や英雄志望なのか「俺は人々に害を与える魔物を倒す!」という前の奴と代わらんことを言う馬鹿もいた。
そんな奴らが20人を超えたあたりでもう一人一人心を折るのは止めにした。
もう疲れたしな、コレで止めでも刺してやるとするか、俺ったら優しいな~。
あと半分近くも残っている、頭がお花畑の連中の信念を挫いてその顔が亡者のような感じになっていくのを眺めるのも楽しそうでもったいないんだがな。
俺は唐突に切り出した。
「『勇者』ってのはただの殺し屋の集まりなんだよ。」
それを低く、それでいてこの場にいる全員に伝わるような声音で言った。
そのまま、こいつらに反論の余地も与えないように、間髪入れず、
「『魔王』を殺して、その配下の魔族共を皆殺しにして、人に危害を加え生活を脅かすというだけで龍族を殺して、自分たちの都合が悪くなったからという理由で自分たちを助けた神を殺して、その上、今や、せっかく危機を共に乗り越えた同種を殺してるそんな馬鹿みたいな存在なんだよ、『勇者』ってのはな。お前たちは『勇者』は尊い存在だとか言って現実をちゃんと見ないでいるだけなんだよ。そんなお前らに仕方ねえからわざわざこの俺が『勇者』の悪行ってのをな、つたえ「もう、やめてよ!」てやろうじゃねえかって……ああ?」
調子に乗り、後ろをむきながら生徒たちの表情を想像してほくそ笑んでいた俺の邪魔すんじゃねえよと思い声のほうを向くと、また顔を殴られた。
そこには、涙を流しながら俺に二発目を喰らわせようと構えている馬鹿がいた。
「あんたに何が分かるのよ!『勇者』にあこがれるのが何が悪いの!?私たちが夢を見るのはそんなに悪いことなの?私たちが夢に向かって努力したことまで否定するの?そんな権限あんたが持ってるわけないじゃない!なんで!しかもなんであんたなのよ!?答えなさいよ、このばかぁ……」
何度も何度も人のことを殴りながら泣いているセラを見て俺はここら辺が打ち止めかと感じた。
断じてこいつの泣き顔に罪悪感が沸いたとかそういう訳ではない。
それに加え、もう一つ理由があった。
そこに触れる前にまずこっちを片付けるか。
「俺、今日はもう帰るわ。だけどな、明日は俺が授業するとか思ったら大間違いだかんな。お前らがどうして『勇者』を目指すのか、俺に伝えられるまではお前らずっと進めねえから覚悟しとけよ。」
俺に引っ付いて泣き続けてる馬鹿をひっぺがし、教室の外に出た。
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そして、俺はある人物にのみわかるように伝言を教室の窓に書いた。
その人物は俺の話を聞いている間ずっと俺のことを据わった目で見続けていた、まるで一昔前の俺のような目で。
そいつは俺の唯一知っている仲良しの片割れだった。
『あとで、屋上に来い。パティ・キリエランド』
それも、無色透明だが血の成分をたっぷりと含めた俺お手製の吸血鬼寄せで。




