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第2話:セラ・ルーンの激昂

 一口に『勇者(ブレイブ)』といってもそれにはいくつかの種類がある。


 まず、『第一勇者(ファーストブレイブ)』、彼らは物語に出てくる『勇者』そのものだ。


 竜族に支配されている人々を解放するためにその悪しき竜を打ち倒したとか、悪魔に体を奪われ人々に圧制を敷いた王を救い国を救ったとか、そういう伝説としてその名を残した者たちや、その才能を持つ者たちが呼ばれている。


 それに対して『第二勇者(セカンドブレイブ)』と呼ばれる者たちもいる。


 彼らは先程のような神秘的な存在とは打って変わって、いたって普通だ。

 商人が町から町へと移動する際の用心棒としてだったり、町を守る衛兵としてだったりといった、いわゆる肉体労働を行う人物たちである。


 ただし、どちらのものも有事の際には力を合わせ、悪しきものに立ち向かうといったところは変わらないのだ。


 そして、最後の『勇者』と呼ばれる存在、これはまだ新しく生まれたばかりのものなのだが……。

 それは『第一(ファースト)』や『第二(セカンド)』になるための準備期間であり、彼らは少し特異的な名で呼ばれた


『勇者候補生(サードブレイブ)』と。





  ◆ ◆ ◆   ◆ ◆ ◆   ◆ ◆ ◆





「……いへん、残念なことでありますが……」


 壇上では学園長が話をしている、どうせ『例の話(ガザール先生)』のことだろう。

 別に私たちはその話は去年のうちに聞いているからたいした驚きはないが、やはり少し寂しい気持ちにもなる。


 あの人は、私が全ての先生のことを知っているのかと聞かれると困るのだが、この学校でも随一の優秀な先生だったと思う。

 生徒の質問はたとえ自分の専門外のことでもすぐに答えられるし、それでいてその高い技術を鼻に掛けず他の先生との中も良好だった、もちろん授業は文句なしの百点満点であった。


 そんな他愛もないことを考えてるうちに、学院長の長ったらしいお話は終わったようだ。

 その後はこの春休み中に起こった事件等はゼロだったとか、君たちは力を持っているからといってそれをむやみやたらに振るうことのないようにといった恒例のお言葉を受けて解散となった。



「ねえねえ、セラちゃんお昼どうしよっかー。」

 始業式の後、教室への帰り道で私の友人であるパティが話かけてきた。


「え……パティ、まだ朝食済んでから一時間しか経っていないのにもうお昼のこと考えてるの?」

 私はまだ朝のベーコンを消化しきっていないというのに彼女は全て終わらせたというのだろうか。

 恐るべしパティ、そして太ってしまいなさいパティ。


 そんな友人として失礼極まりないことを考えている私をよそに彼女は続けて言った。

「だって……春休み中はセラちゃん忙しくてあんまり一緒にいられなかったでしょ?だから今日は午前中に終わって午後は暇なわけだし一緒に遊びたいなーって思ったんだけど、ダメか…な?」


  えっ。

 私の中を一陣の驚きという風が過ぎ去っていった。

 そして、私はこういう時のパティには大変甘かった。

「う、ううん!遊びましょう!ええ、そうしましょう!私、今日は何の用事もないから!大丈夫よ!」

 ああ……なんていい子なのパティ、ごめんね、邪な考えを起こして、貴女が食べた分は私と違って胸に行くのを気にして言った訳じゃないの、そうじゃないのよ、本当に違うわ。


「わあい!ありがとうセラちゃん!」

 そんなこんなしている間にパティは私の罪悪感に満ちた表情には気づかず抱きついてきた。

 む、むねが!むねが当たってるわ、パティ!やめなさい、私の暗黒面が引きずり出されてしまうから!


「お、貧乳が巨乳に抱きつかれて憤怒の表情浮かべてんな。」

「朝から目に毒だわ、何やってんだよ。」

「貧乳にはもったいねえな、そこ変われよ、マジで。」

 聞こえてるわよ、そこの男子生徒(クズ)共、後でぶん殴ってやるわ。


「あ、セラちゃん、そういえば新しい先生ってどんな人なのかな。ガザール先生みたいな優しい先生がいいよねー。」

 ふと、思い出したかのようにパティが先生のことを聞いてきた。


「まあ、期待しないほうがいいわよ。ガザール先生はトップだったから、あの人みたいなのはそんなにいないわ。クレイブ先生程度で御の字でしょ。」

「ええー、それはやだなー、あの人えらそうだし……」


 それは私も同意だけどあんまり大きな声で言わないほうがいいわ、クレイブ先生こっちすごい見てるから、魔王も射殺しそうな目だから。

「私は面白い先生がいいな!」

 天然なパティは逆に魔王も改心させるかのごとき笑顔を私に向けてきた。


「それなら私はいろんなことを知ってる先生に学びたいかしら……」

 私もパティに乗っかって少しだけ自分の願いを口にしてみた。



 私はその数分後、絶対に先生を血祭りに上げることを決めた。

 その理由とは、

『今日は自習!俺、めんどくさいから帰るわ!』

 と、書き残された黒板の字を見つけたからだ。


『なんだ!このクソ教師はあああああああああ!』

 クラスのみんなもまた、私と同じように教師への断罪を心に誓うのだった。

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