第1話:全てが終わったその後に
かつて、この世界の全てを飲み込む大いなる闇が現れた。
人々はその存在に対抗すべく様々な手を打ったが……結果は凄惨たるものだった。
世界でも随一と呼ばれる魔法大国が3日で滅亡。
北大陸に存在すると言い伝えられる最強の戦闘民族は一人残らず皆殺しにあった。
また、各国は力を合わせ大いなる闇を打倒するべく大規模な討伐軍を三度派遣するも、三度共に甚大な被害を出し計画は頓挫した。
この世界の全ての者たちは一歩一歩確実に滅亡への一途を辿っていた。
しかし、闇の存在があるところには光の存在もある。
神がついに人々に力を貸したのだ。
神はまず、闇を祓う武器を空に浮かぶ数多の星々から生み出した。
次に神はこの世界の大地に存在する生命の息吹を使い闇から身を守るための衣を編み出した。
そして、最後に神は自らの髪を一房切り落とし、それを人々に与えながらこう言った、
「いいですか、貴方たち人間よ……これは全ての希望です、いずれこの中からひとつの命が生まれそれが世界の闇を祓ってくれるでしょう。それまで貴方たちは私が与えたものを守り、耐えてください。人は弱くなどありません……この大地を耕し、切り開いてきた貴方たちはこの困難にも立ち向かえるでしょう。その全てがこの希望に詰まっています。諦めてはなりません、止まない雨はありません、明日は必ず晴れますよ……」
この言葉に奮起した人々は決して闇への対抗は止めなかった。
それから数年後、ついに希望が孵ったのだ。
この後、神の使徒と呼ばれた希望は大いなる闇に飲み込まれた様々な国を救い、闇が生み出した数多の災厄を打ち倒し、人々の心に希望の花を咲かせまわった。
神の使徒は数十年人々を恐怖に陥れた大いなる闇をたったの数年という恐ろしいスピードで追い詰めたのだ。
そして、ようやく大いなる闇は神の使徒の前に倒れ、世界は救われたのだった……
「何が神様だ、神様。結局、自分は何もしてねえじゃねえか。数十年に渡って、んなバカみたいな脅威をほっぽったわけだろ?どうせろくな奴じゃねえよ。お前もそう思うだろ?な?」
黒髪の青年は先程まで過去の伝説を聞いていた年端もいかない少女にそう問いかけた。
少女はとても困惑した顔で『え……でも』といった目線を話をしていた老婆に向けた。
すると、老婆は
「また、あんたかい!毎日毎日人の話にいちゃもんつけるのが好きなのかね!さっさとかえんな!子供たちにいい迷惑だよ、まったく……」
といった、いつものことのように言うではないか。
対する青年はというと老婆の話など聞かず子供たちに如何に神様がひどいだの、それに比べて使徒はすごいなー生まれるのに数年もかかってるよーだのと伝説に対する文句を聞かせていた。
「お前は話を聞かんか!このクソガキが!」
「もっと悪影響なのはあんたの口の利き方だと思うぜ!じゃあな、クソババア!」
自分が言い放った言葉も相当だと思われる青年は、まるで曲芸師のように宙を舞い、屋根を走りぬけ、あっというまに見えなくなった。
「やっぱ、すげえなー!あの兄ちゃん!俺もあんなことやってみてえ!」
「そうだよな!あの兄ちゃん前は壁も走ってたんだぜ!」
「まじかよ!見てみたかったー」
と、まるで勇者を見るかのようにはしゃいでいた子供たちを老婆は杖で一人ずつ叩き、たしなめた。
「馬鹿言うんじゃないよ、あんなろくでもない大人になりたいなんて金輪際あたしの前で言った奴はもう二度と話してやらないかんね。もう今日は帰りな。」
そう言うと子供たちは少し残念そうな顔を浮かべつつも渋々と帰路についていった。
その後を老婆は見つめながら少し昔のことを思い出した。
『婆ちゃん!俺勇者になってこの世界を救うんだ!そして婆ちゃんにも希望の花さかせてやるよ!』
あの青年の少年時代を知る老婆は思い出した過去を振り返り、残念そうにため息をついた。
(まったく……あんたはいつからあんなんになっちまったんだい……ディアン)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
神の使徒が大いなる闇を倒し、平和になった世界。
その後、400年が経ち伝説は婉曲され、今、大いなる闇はこう呼ばれる。
『魔王』と。
そして、現在、神の使徒は世界中に存在し世界を守っている。
彼らは『勇者』と呼ばれて。




