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ひねくれ師匠と偽りの恋人  作者: 紗雪ロカ
6-フライアウェイ!
70/171

70.少女、デートする。

 シルミアの家を出て二人で街を散策していると、あちこちで住人から声を掛けられる事になった。


「あら、今年の優勝者さんじゃない。もう歩いて平気なの?」

「いい飛びっぷりだったよぉ、あんなのはおじさんが子供の時に見た以来だ」

「時計塔の修復はだいぶ進んでるぜ、なぁにすぐ元どおりさ」

「ほらこれも持ってきな! いいよいいよ新しい風の後継者が誕生したから景気づけさ」

「その後継者があのラン坊ってのがちょっと不安だけどね」

「まったくだ! ハハハ」


 両手いっぱいに貰ったリンゴやらお菓子やらを抱えて、少女は隣の男にそっと話しかけた。


「ラン君が犯人だったのは、やっぱり秘密なんだ」

「何者かに仕掛けられた罠を、お前とランバールが協力して破壊したことになっている。わざわざ言う必要もないだろう」

「そうだよね」


 その犯人が身を呈して動いたことで被害は最小限に収まった。蒸し返す話でもないだろう。


 爽やかな風が吹き抜ける中、ニチカはチラッと横を見上げた。オズワルドは今日はいつもの黒いコートではなく、街の人たちと同じようなラフな服装をしている。メガネも外しているので装飾は一切ないが、シンプルなのが返って素材の良さを引き立てている。自分も旅向きではない、やわらかなワンピースにカーディガンをかけてその隣を歩く。


 考えてみれば、道中はいつも急かされるように歩いているし、いつマモノに襲われるか分からないので一瞬たりとも気が抜けない。こんな風にゆったりと二人で歩くなど初めてではないだろうか?


(なんだかデートみたい)


 その考えが浮かんだ瞬間、意識してしまって顔が熱くなる。急にギクシャクとした動きになったのに気付いたのだろう、オズワルドが珍しく気遣うように声をかけてきた。


「どうした?」

「なっ、なんでもないの! それよりほら! 時計塔が見――」


 少女は話題を逸らそうと、角を曲がったところで見えてくるはずの街のシンボルを指し……固まった。爆破して半壊したはずの塔の上に巨大なブロンズ像が建設されている。


「……」

「……」


 力を失った指先がへろへろと落ちていき、同時に非常に強い脱力感が二人を襲う。その理由はブロンズ像の造形にあった。


「やぁ! あまりの感激に声も出ないようだね!」


 語尾に星でも付きそうな声でシルミアが通りの向こうから爽やかにやってくる。ニチカはつかみかかる勢いで彼に迫った。


「何なんですかあれ! どういうつもりですか!」

「はっはっは、普通の時計塔に戻してもつまらないからね。実にいい出来栄えだろう?」


 ブロンズ像の正体。塔の崩れた個所からにょきっと生えているのは、シルミアの巨大像だった。それだけならまだいい(いや、かなりいかれたセンスではあるが)問題はその像に寄り添うように、一回り小さなニチカとランバールと思われるオプションがついている事だった。ところがシルミアはニチカの怒涛の勢いを喜びと勘違いしたらしい。胸を張って鼻高々に言い放った。


「我が風の里の歴史に残る大事件だったからな! こうしておけば誰も忘れることはないだろう!」

「やめてえええ恥ずかしい!」


 その時、ブロンズ像を遠目に眺めていたオズワルドがぼそりと付け足し、火に油を注いだ。


「ずいぶん美化されてないか、お前」

「っるさい! ペタコロンでも設置しとけ!」


 恥ずかしさのままニチカは怒鳴りつける。本気でもう一度爆破してやろうかと思った時、もう一人の被害者がやってきた。彼は自分をモデルにした像を見上げながらコメントする。


「オレもやめとけって言ったんだけど」

「ラン君たすけて! 私、もうこの街来れない!」


 涙目で訴えると苦笑いでなだめられた。


「まぁまぁ、顔はもうちょいぼかすように職人に言っとくよ。それよりウル君の足取り掴めたッスよセンパイ」


 ハッとしてニチカは耳を傾ける。結局、あの陽気なオオカミは街の入り口で別れたきり消息不明になっていたのだ。主人であるオズワルドの問いかけにもまるで反応がなく、呼び出しても何かに妨害されているらしい。休息を取っている間、ランバールに調査を頼んでいたのだが……。真面目な顔をした青年は報告を続けた。


「オレたちと入れ替わりでこの街から出て行った商人がウル君とすれ違ったらしいです、どうやら誘拐されたみたいッスよ」

「ゆ、誘拐!?」


 物騒な響きに青ざめる。頬を押さえたニチカは盛大にうろたえ始めた。


「どうしよう、あの子かなり人懐っこいしよく見れば可愛い顔してるし、気に入られた悪人に連れ去られたんだ!」

「可愛くはないと思うぞ、たぶん」

「私にとっては可愛いの!」


 余計なツッコミを入れる師匠をにらみつけて、じわりと涙を浮かべる。このまま会えなかったらどうしようかと不安がよぎる。だがランバールの調査力は期待以上だった。


「それで、その誘拐犯なんスけど、派手な赤い髪の女の子と冴えない地味な青年だったらしいッス。こっから北に行ったブロニィ村ってとこに向かうとか何とか」

「オズワルド、追いかけよう!」


 勢い込んでニチカが提案すると、師匠は、だはぁっとため息をついた。


「何やってんだあいつは」


***


 元の服装に着替え、旅の支度を整えたニチカとオズワルドは入ってきた門とは反対側の出口に居た。見送りに来てくれた街の人たちから、大量に餞別を渡されそうになったが持ちきれない分は丁重に断る。中には例の巨大像を小さくしたレプリカなどがあって、少女は引きつりながらそれを突き返した。


「それじゃ、しばらくのお別れッス」

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