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ひねくれ師匠と偽りの恋人  作者: 紗雪ロカ
Thanks!-番外編
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砂漠の蛇-前編-

900ブクマありがとうございます。今回はリクエストを頂きまして緑の彼がメインです。師弟を期待してた方ごめんなさい(後半少し出てきますが)

その代わりと言ってはなんですが次回は950ブクマで二人の短い話を挟ませて頂きたいとおもいます。あ、待てよ、2,300ptでもいいや。どっちか到達したらと言うことで。気長にお待ちください。

それでは短編をどうぞ


 風のない夜の砂漠は静寂に包まれていた。昼時のじりじりと焼けつくような熱は鳴りを潜め、身体の芯から凍えていくような底冷えが少年を襲う。


 砂漠の民らしくゆったりとした白い衣装に身を包んだ彼の年頃は十を越したほど、戸惑いを強く浮かべた榛色の瞳には、先ほどから視線の先に居る一人の男が映りこんでいた。


「よっ、少年。いい夜だな」


 人好きのするにっこりとした笑みを浮かべるその男は、村の者たちが決して近寄りはしない遺跡の入口に腰掛けていた。緑の髪から覗いている片目が星明りを反射して蛇のように光る。無意識の内に一歩後ずさりしながら、少年は口を開いていた。


「アンタ、誰だ? こんな時間にこんな所で何してる?」

「そりゃお互い様だろ~?」


 軽く立ち上がった緑の髪の青年は無遠慮に距離を詰めてくる。その出で立ちはこんな冷え込む砂漠に居るにしてはやけに軽装で、彼の周辺はふわりと空気が渦を巻いていた。ハッキリ言ってうさんくさいのなんの。さらに後ずさりをしようとした少年に気付いたのか、青年は両手を上げてようやく歩みを止めた。


「おっと、そんなに怯えるなよ。お前も同じ目的でここに来たんだろ?」

「目的?」

「盗賊団の隠し財宝」


 続けられた言葉に少年の肩がピクッと跳ねた。言い当てた事に満足したのか、青年は先ほどの懐っこい笑みを浮かべながら提案をしてきた。


「実はオレも。ここで会ったのも何かの縁だ、協力してくれたら分け前は弾むぜ」



***



 緑の髪の青年はランバールと名乗った。遺跡の内部を進みながら少年は信じられない思いで傍らを見上げる。


「ホントの本当にアンタがランバールなのか? あの伝説のヘッドの?」

「伝説のって、大げさな」


 苦笑しながら歩く青年は手にランタンを持っていた。光のマナを呼び寄せ煌々と通路を照らし出すそれは中々お目にかかれない高級魔女道具だった。明かりに驚いた何かの小動物が逃げていくのが視界の端に映り込む。それを見送りながらランバールは淡々と言い放った。


「もう盗賊団は解散したんだ。過去の話さ」


 かつてこの辺り一帯を根城にしていたその団は、双頭のヘビをシンボルに掲げていること、数十人で構成された団員は決して素性を明かさず一般人の中に紛れている事、それ以外は一切が謎に包まれていた。ここ最近は目立った活動はしておらず、リーダーの死亡説さえ囁かれていたと言うのに……その男が目の前に居る。少年は興奮を隠すことが出来なかった。


「おれアンタに憧れてたんだっ、なあ下見に来たってことはまた盗賊団を再結成するんだろ? おれも仲間に入れてくれよ!」


 意気込み十分に持ち掛ければ、驚いてたように目を見開いていた青年はふっと微笑みを浮かべた。


「自分を売り込めるヤツは嫌いじゃない――が、それは今回の仕事がうまくいったらな」


 ポンポンと、あやすように頭を二度叩いて先に行ってしまう。あからさまな子供扱いに頬を膨らませた少年だったが気持ちを切り替えることにした。


(見てろよ、すっごい活躍をしてあのランバールに認めさせてやる!)



***



 砂漠の町シャスタから二キロほどの距離にある名もなき遺跡は、昼間でも陰鬱な雰囲気を醸し出しているため滅多な事では人は立ち寄らなかった。やれ怪しい人影を見ただの、度胸試しだと出かけて行った酔っ払いがついぞ帰らなかっただの……だが実際に侵入してみれば何てこともないただの遺跡がここまで続いていた。最初こそ小さな物音にもビクビクと怯えていた少年だったが、次第に自信を回復すると意気揚々と先頭だって歩いていた。


「へっ、噂の遺跡も大したことないな! ただのオンボロじゃねーか」

「調子のってると痛い目みるぜー」


 呆れたような連れの言葉に、少年はふふんと笑うと一段上の細い段差に飛び乗った。さらにその不安定な足場でとんぼを切ってみせる。


「おれは身軽さがウリなんだ。身体も小さくってすばしっこいからな、狭いところならお手の物だぜ」

「はは、頼りにしてるぜ、相棒」


 なかなかの好感触にほくそ笑んでいると、微かにざぁざぁと滝のような音が行く手から聞こえて来た。長い通路が終わり開けた空間へと飛び出した少年は目を見開く。感応型魔法なのか、じんわりと明るくなっていくにつれて全貌が見えて来た。


 まず目に飛び込んできたのは正面にある大きな巨像。猿のような何かを模した像の下にはぴたりと閉ざされた大きな扉が待ち構えており、そこに至るまでの道の両脇は奈落の底へと続いていた。猿の巨像の両サイドからは先ほど聞こえた滝がとめどなく流れ落ち下に掘られた溝へと叩きつけられている。緩やかな流れを作る水は排水溝へと吸い込まれているようだ。内部循環でもしているのだろうか?


「砂漠の地下にこんな水が?」

「近くのオアシスから流れ込んでるか、水のマナでも居るのかもしれないな」


 恐れた様子もなくランバールはさっさと進んでいく。慌てて後を追った少年は、巨像にばかり気をとられて今まで気づかなかった物を目にした。大扉の前の通路は窪んだような形になっていて、十数段ほどの下りになっていたのだ。


「うわー、何だこれ。蛇の像? 動いたりしないよな?」


 さっさとかけ下りた少年は、窪地の中央に設置されていたオブジェをまじまじと見つめた。大きさは自分の首ほど。台座に乗せられた金色の蛇は威嚇するようにこちらへと大口を開けている。下から覗き込むと口の奥に赤いレバーのようなものが見えた。掴んで引くタイプのようだ。


「ランバール、口の中にレバーがあるっぽいよ」

「引いてみろ」


 振り返れば盗賊盗賊団のリーダーはいつの間にやら石段に腰かけてこちらを見下ろしていた。組んだ長い脚の上に頬杖をついている。わかったと言おうとしたところで少年はそれに気づいた。オブジェの向こう側に白い何かが見えたのだ。こわごわと覗き込んだ次の瞬間足の力が抜けて尻もちをついてしまう。明らかに人の物と思われるしゃれこうべと長い大腿骨が散らばっていた。


「な、なんか変だよ! 待ってくれ、これもしかしたら罠かもしれないっ! だってこんなあからさまなレバーとか」


 注意を促そうと再度振り返った少年は言葉を吞み込んだ。煌々と光る黄色いまなざしがこちらをひたと見据えている。先ほどまでの懐っこい声音とはうって変わり何の感情も含んでいない声が彼の口から流れ出す。


「だから、どうした?」


 蛇眼だ、自分は今ヘビに睨まれたカエルのように金縛りをかけられている。薄く笑ったランバールは冷酷なまなざしはそのままに命令を下した。


「いいから引け、オレを失望させるな」


 少年は真の恐怖を初めて感じ取った。言うことを聞かなければ殺される。赤子の手をひねるよりあっさりと。それが出来るだけの情け容赦の無さをこの盗賊団の元リーダーは備えているのだ。愛想のよい仮面で隠していた本性を垣間見て、ガクガクと足が震え脂汗が滲みだす。


「はやくしろ」


 少しだけ苛立ちの混じった声音にビクッと跳ねる。このまま引かずに殺されるか、多少怪しくはあるがレバーを引くか。選択の余地などあるはずも無かった。こわごわと口の中に手を突っ込んだ少年は、レバーを握りしめた。ギュっと目をつぶりそろそろと引いていく。意外と大丈夫かもしれないと思いかけた――その時だった。


「ぎゃっ!」


 バチン! と、音がして蛇の口が閉じる。レバーは確かに引けたが、その代わり少年の腕はがっちりと蛇に咥えられてしまった。痛くはないが引き抜くことができない。


「???」


 ワケも分からず目を白黒させていると、ゴゴゴゴと重たい音を立てながら正面扉が少しずつ開かれていった。同時に巨像の両脇を流れていた滝が通路に向かって流れ込んでくる。窪地で膝立ちになっている少年の元へと少しずつ水がたまり始めた。


「あー、やっぱ罠だったか。悪ィな」

「ら、ランバール! 助けて、これ壊して!!」

「はーぁ?」


 必死に助けを求めるが、緑の髪の青年は小馬鹿にしたような声を出しながら横を素通りする。少し先で足を止め振り返った彼は、憐れむような表情を浮かべながら言い放った。


「助けるわけないじゃん、お前はただの手駒だよ? そのぐらい察せないような奴がオレの部下になろうとか、ないわー」

「……」


 愚かな少年はようやく気付いた。ランバールは最初からこの罠を作動させるためだけに入り口で声をかけて来たのだ。自分はただの生け贄。仲間になれるかもと勘違いした便利な手駒でしかなかった。階段を上っていた蛇はドサリと腰を落とすと見物するかのように足を開いて前のめりになった。


「まぁせっかくだ、手伝ってくれた礼に最期ぐらい看取ってやるよ。遺言があれば聞くぜ? 聞くだけな」

「やだ……いやだぁ!!」


 少し濁った水がひたひたと股下までせり上がってくる。引き抜こうとめちゃくちゃに暴れるが擦り傷を作るだけに終わってしまう。


「死にたくない! 死にたくないよ!! お願いなんでもするからぁっ」

「ふふ……ハハハ!」


 そんなやりとりを一分ほど続けたところで変化が起きた。それまでニヤついていたランバールが、急に腰を浮かせて辺りを警戒するように見回し始めたのだ。


「……なんだ?」


 絶望の淵に立たされた少年も、かすかな音をとらえた。重たい翼が羽ばたくような風切り音だ。同時にざわりと本能を煽るような恐怖が走る。


 段々とこちらに向かって近づいてきた音が急にピタリと止んだ。目を瞬いた瞬間、すさまじい轟音と共に天井が爆発した。


「わぁぁぁわあああ!!!?」


 もうもうと舞う埃の向こうに見えてきたのは竜だった。黒々と月明りを反射する巨大なドラゴンが羽音を響かせながら突入してきたのだ。神話でしか見たことのない生き物は遺跡内部に移動して来たかと思うとホバリングをした。そのたびにガレキがバラバラと崩れて来ては、動けない少年のすぐ近くに落ちて水柱を立たせる。一つも当たらなかったのは幸運としか言いようがなかった。やがて土煙が収まった頃、どこか人を喰ったようなクセのある声が聞こえて来た。


「え、なにこの状況」

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