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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第三章 食料調達編
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新たなお肉 9

 私はロケットパンチの悪夢を乗り越え、当初の目的を果たす事にする。召喚に選んだ場所は、この世界に最初に来た荒地だ。


「じゃあ呼び出すよ」


「はーい!」「おー!」「がんばー!」


 リーシャちゃん、ベルン、ファレンの三人は反応してくれたけど、バアルは反応してくれなかった。ノリが悪いのか寡黙なのかどっちなのかな?とりあえず気にせずに召喚する事にする。


「我が呼び声に依りて来よ。『ミドガルズオルム』!」


 封印ネックレス装備で尚且つ小さく出てきてくれるようにお願いして出てきて貰った。その甲斐もあり私の身長よりちょっと大きい程度の姿で出てきてくれた。顔の縦がそれ位なだけで物凄く大きいのは変わらないんだけどね。


『世界蛇 ミドガルズオルムが召喚されました』


 召喚時のシステムメッセージが流れ、魔法陣からミドガルズオルムが出現する。だがミドガルズオルムの体は超長い。地面の魔法陣から出てくるだけで3分くらいかかってしまった。


『我を呼びし者は汝か……』


「でっかーい……」


 ベルンも流石にミドガルズオルムの大きさを見てその壮大さに唖然としていた。それもそのはず、ミドガルズオルムは黄色い玉を7つ集めたら出てくるような、無駄にぐにゃぐにゃした形で宙に体を浮かべていたからだ。多分威厳を出そうとして無理をしてると思う。


 龍ではなく蛇だというのに、この蛇達は何故こんな無駄な格好をしたがるんだろうか……首だけネッシーのように出せば良いと思うんだけどなぁ。まあそんな何時も思っていた本心を隠し、腰を曲げて丁寧に挨拶をする。


「初めまして、私はアイと言います。この度は……」


『断る』


 ファ!?いきなり!?いくらなんでも理不尽なスピードだ。


「話だけでも……」


『断固辞退する』


 ……ムカッ。


「なんとか……」


『くどい!!』


 ミドガルズオルムは牙を剥き大声で叫ぶ。本人は大声のつもりはないかもしれないが、スケールがスケールだ。耳が痛くなってしまった。一瞬本気で蒲焼きにしてやろうかと思ってしまっても仕方ないと思う。


 しかし、取り付く島がないとはこの事だろう。そういえばネックレスを外してないので相手は私を侮っているのかもしれない。それに緊急時じゃないので強制力を働かせていなかった私も失敗だったかもしれないなぁ。勿論召喚体である限り魔法で強制させることは出来る。だが木偶が欲しい訳ではないのであまりやる気は無い。 


「じゃあ、お願いじゃなくて質問にするよ」


 魔法で強制させる気は無いが、お願いを聞いて貰えないなら仕方が無い。とりあえず会話を成立させる方が優先だろう。


『ほう……そうだな。少なくとも我を召喚したのだ。少し位なら答えてやらんでもない』


 ミドガルズオルムは鷹揚に答える。同意も貰えたし、それでは存分に答えて貰おうか。


「ミドガルズオルムさんは体が物凄く長いんだよね?」


 そりゃ長いよねー。私も尻尾見たことないかったし。


『うむ。この世界ですら私の長さを測る指標にはならんぞ!』


 つまり世界を一周以上できる長さはあるという事なのだろう。


「そんなに体が長いなら、ちょっと減っても問題ないよね?」


 私は小首を傾げて笑いながらミドガルズオルムに向かい歩き出す。会話を成立させると言ったが嘘ではないよ?肉体言語での会話で答えてもらうだけだ。これなら拒否出来ないもんね。


『ふはははは!何を言うかと思えば!出来るものならやってみるが良い!!』


 よし、言質は取った。


 後ろから「終わったな……」とか「蒲焼きクマー?」とか聞こえているが、近くまで歩き徐ろにインベントリからシロクマソードを取り出し、魔力を塞き止めていたネックレスも仕舞う。前回黒龍王をぶった切ったシロクマソードは素材採集用の練乳ソードだったが、今回は7つのモードの中でも氷雪系最強、天然氷モードだ。後、小豆とさくらんぼ、イチゴ、リンゴ、みかんのモードがある。


 またネックレスを外した事で同時に各種ステータスUP系アクセサリーは最高の性能を発揮し、全盛期を超えるステータスを実現させた。魔法も力も制御は出来ないのは変わらないが、脅しとしては十分に効果があるだろう。


『なーー!?』


 ミドガルズオルムが驚愕の声を上げるがもう遅い。例えると、赤信号無視で気にせず走って車に跳ねられた自転車の様な物だろう。ちゃんと道路交通法さえ守ってれば今回の事故は起きなかったと思う。だが事故を起こしたこちら側にも救護義務と責任はある。もう一度チャンスは与える必要があるだろう。


「えっ?ごめん。良く聞こえなかったから、もう一回言ってくれると嬉しいなぁー?出来るものなら……なんだって?」


 こうなったら相手の装甲が固かろうが関係ない。シロクマソード(天然氷ver)を軽く突き刺すと鱗に抵抗も何もなく穴が開いた。あまりに反応がなかったので、手持ち無沙汰に6ヶ所位つついた後、1cmほど深く刺すとようやく反応があった。


『ぐぉっ!?』


 うん、そりゃ痛いよね。すぐ抜いたのに刺さった所から30cm位が一瞬で凍ってしまっていた。痛いのは多分刺された痛みじゃなくて瞬間冷凍された痛みだと思うけど。


「実験で出た廃材はちゃんと私が再利用するから安心してね?」


 勿論私は笑顔で再度問いかける。勿論、蛇肉とはいえ肉は間に合っているので本当に捌くつもりはない。第一制御出来ていない今真っ二つにしたら、見えてる範囲の肉が全部凍ってしまうだろう。黒龍王と同じ手法も考えたが、距離的な問題で全身を直す自信がないので却下だ。


 色々考えながら私はミドガルズオルムの反応を待っていたが、回答は予想を超えるものだった。


『やめてください、死んでしまいます……』


 ウッウッ……とミドガルズオルムは嗚咽を混じらせながら泣き出してしまった。お前は海亀か!と心の中で突っ込んだが、待てども待てども泣き止む気配はない。


 ええー……泣くとか卑怯じゃない?自分でやっていいって言うからやっただけなのに……。これじゃ私が悪者みたいだよ!?


 逆に私が慌ててどうするかを考えていると、予想外の方向からお叱りの言葉が飛んできた。


「アイ様、虐めちゃだめだよ!」


 声に振り向くと、リーシャちゃんが私のそばまで走ってきていた。


「リーシャちゃん、これは虐めてないよ。ちゃんと話を聞いてくれるように教育してるだけなんだ」


 こっちは譲歩に譲歩を重ねてたのに拒否されたので仕方なくしているだけなんだけど、リーシャちゃんはお気に召さずお怒りの模様だ。私が言うのを聞くとリーシャちゃんも泣き出してしまった。


「アイ様は私の事を救ってくれたのに、悪い人と同じ事をしないであげて……。かわいそうだよ……」


「あー……」


 あー……確かに悪い人も教育って言ってひどい暴力を振るってそうだなぁ。あの変態もそういう事をやっていたのか、その前か……これは私が全面的に悪いかも知れない。リーシャちゃんからしたら確かに同じような物だと思う。


「ごめん、私が悪かったよ。もう虐めないからリーシャちゃんも泣き止んで」


 だけど私も蛇も自業自得なので泣いてる蛇は放置。リーシャちゃんのケアは最優先なので抱きしめて頭を撫でる。泣いてしまった事で更に体温が上がっているリーシャちゃんをしばらくあやしていると、泣きつかれたのかそのまま眠ってしまった。








「アイ、反省しなよ」


「ハイ、猛省してます……」


 何とか場が収集した所で、今まで沈黙していたファレンが口を開いた。うん、正直対応をミスった自覚はある。


「ハァ……もう虐めないから、せめてやりたくない理由を教えてくれる?」


 ムカッとしてやった。今は後悔している。だけど、この泣き虫ならぬ泣き蛇に協力してもらえないとかなり面倒臭くなってしまうのだ。納得するためにも理由を聞いておくべきだろう。


『グスッ……魔の王、かまわんか?』


「良いよー」


 あれ、ファレンは理由を知っていたのかな?


『……鯉のぼりの棒』


 ん……?


『……針金アート』


 Oh.


『……日本○話ごっこ』


 まさか!


「もしかして……みっちゃん!?」


『みっちゃんっていうな!』


 おおぅ、まじでみっちゃんなのか。レガシー、ゲーム内で『ミドガルズオルム』事、みっちゃんには凄くお世話になっていたのだ。ミドガルズオルムなのでみっちゃんなのではなく、巳(干支の蛇)なのでみっちゃんです。ヨルムンガンドは巳太郎という名前が付けられている。ちなみに命名は姉ちゃん。


「何でみっちゃんがここにいるの?」


『それはこっちの台詞だ。何故お主がこっちの世界に居るのだ?』


「みっちゃんは、こっちが本物であっちが偽者だったんだよー?このアイもちゃんと本物だよ」


 ファレンが凄いおざなりに私とみっちゃんに答える。本人はたぶんどうでもいいのだろう。


『なるほど……とうとうお主の理不尽も世界の壁を超えてしまったのだな……』


 この蛇。やっぱり蒲焼きにしてやろうか……。







「みっちゃん、知らない仲ではないんだし、ちょっと手伝ってよー」


 何度も何度もお願いしても、首を私の反対側に向けてしまい話を聞いてくれないのでちょっと困ってしまっていたが、とうとうみっちゃんも根負けしたのか話始めてくれた。


『お主な……我に三日間も鯉のぼりの棒をさせて反省は無しなのか?』


 だって、50mくらいの鯉のぼりを子供たちが作ってきたんだから仕方がない。最強の鯉のぼりを作ったって自慢しに来たら、揚げてあげるしかないでしょう。


「だって皆すっごい喜んでくれたよ?」


『喜んでくれてなかったら、即日やめておるわ!!』


 嫌がりながらも子供達の為にやってくれるみっちゃんは流石である。初心者の護衛任務とか監視とか凄い評判よかったもんね。皆で川に泳ぎにいった時に覗き防止の壁兼魔物除けになってもらったら、周辺の果物とか集めて冷やしてくれてた位に気配りも出来る。


「まぁ、無理強いはしたくないからどうしようかなぁ」


『さっきの脅迫は何だったんだ……?』


 あれは脅迫ではない。やれと言われたからやっただけです。とりあえず話は通じるようなので、しょうがなく情に訴えてみる事にした。肉体言語がダメだったので最終手段だ。


「みっちゃんなら救える人間が何千単位でいるんだよ?その人たちが死んでもいいって言うの?」


『ええい、みっちゃんいうな!そんなことは我には関係ないではないか!』


 うん、確かにその通りなんだけどね。でも私も引くつもりは無いし、大魔王はみっちゃんを逃がすつもりも無い。


「この子のような小さな子供達も一杯いるのに?」


 私は抱き抱えていたリーシャちゃんの頭を撫でながら言う。


「ふにゅぅ……」


『……』


 リーシャちゃんの寝顔は効果は抜群だったようで、みっちゃんは黙ってしまった。


「ぶっちゃけ、敵を全て先制して殺せば街の皆も国も守れるんだけどね?」


『……確かにお主なら容易い事であろうな』


 そう、確かに一番分かりやすい答えではある。だがそんな答えは全く面白くないのだ。


「人を殺せば、その妻や子供が悲しむとしても……?命令で連れてこられた人の家族を悲しませる事は、私はしたくは無かったんだよ」


『……』


 確かにこの世界の人間の命は軽い。奴隷として二束三文で売られる人がいるほど安い。私も今この世界にいる以上それを悪と言うつもりはない。だが幸か不幸か命を切り捨てなくてよい程の力を、私は持ってしまっている。なら多少強引でもやりたいようにするだけだ。


「みっちゃんが手伝ってくれたら、両軍被害なしで終わるプランがあるんだけど仕方ないか……」


『……ええぃ!そなたのためにやるのではないぞ!我を助けてくれた、そこの少女への礼だと言うことを忘れるな!』


 わーい、ちょろ蛇でよかったー。ミッションコンプリートだ!


「下衆クマー」

「流石に引きますね」

「アイだし平常運転だよ」


 私の華麗なる作戦に三者三様の回答をいただいたが、一人暴言が混じっていたので釘をさしておこうと思う。


「ベルンだけ食後のデザート抜きね」


「……?デザートって何クマ?」


「超甘くて美味しいやつだよ。すっごい楽しみだなぁー」


 ファレンが更にベルンに追い討ちをかける。今の素材だとアイスかゼリーくらいしか作れないんだけどね。補給物資で貰ったフルーツ系もあまり種類が無かったから、市場調査を早くしたいなぁ。


「えええぇぇぇーー!仲間ハズレは嫌クマーーー!!」


 そんなベルンの絶望が篭った叫びが荒野に響き渡ったが、もちろんバアルでさえも援護をしなかったのは自業自得だったと言えるのだろう。



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