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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第三章 食料調達編
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新たなお肉 6

 ファレンが自爆して、フェズさんが落ち込んで、イェーイしてたら終わりな訳はない。私の考えも纏まってないのでファレンにお鉢を回すべきだろう。


「で、ファレンは何で来たの?ボケるだけならリーシャちゃんとかと遊んでそうだけど」


 盛大な自爆劇をするだけに来たわけではないよね?フェズさんと遊びたかっただけという事も微粒子レベルでは存在しているかもしれないけどね。


「そりゃまあね。たぶんこれから皆信じられない事を山ほど見る事になると思ったから、私が先に説明に来たんだよー……」


「つまり今の状況ですら、その信じられない事に入ってないと……?」


 とボソッと落ち込みながらファレンは呟くが、納得できないのか領主さんが話を被せた。どうやらファレンの目的は私の援護だったらしい。


「だってさ。何だかんだと言ってもみんな今の状況を理解できてるよね。王様は地下とかエレベーター……移動する部屋とか見たっぽいからほんっっっの少しは意味が分かるとは思うけど?あれ以上のが山ほどでてくるよ」


「あー……魔の神よ……後生ですので、 アイ殿に自重するように言ってやって貰えませんか?」


 ファレンが言うと王様が天を仰ぐ。王様の言葉使いが変になっているが、私の国語辞典には自重と不可能という文字はすでにない。何故ならそのページは折り鶴になって私の机の片隅に置かれているからだ。



 私の父親によってね!



「無理無理。アイがこれだけ大判振る舞いしてる理由は、突き詰めて言うと『遊ぶ場所が欲しい』からだからね。邪魔したらアイが暴れるよ」


「いくらなんでも暴れたりしないよ。ある程度自由に出来ないと他の場所に移住する事になるとは思うけど」


 後半は不本意なので反論する。前半に異論はないので、邪魔されたらさくっと作って別の場所にいくだけだ。


「それは勘弁して貰いたいな……心労で早死にする自信がある」


 王様が真剣な目で私を見てくるが、心臓に毛が生えている王様が心労とかあり得ないと思うんだ。


「王様は自分の前に、周りの人の心労を気にするべきだと私は思う」


「確かにそう言われたら反論のしようがないな」


回りの多数は同意してくれているようだが、自覚してる本人に言うのは『馬の耳に念仏』なので視線をファレンに戻し先を促す。


「話を戻すけどアイはあなた達とは違う世界、具体的に言うと魔法がない魔物もいない世界の住人なんだよ。魔法も魔物被害も無い分、『他の全て』がこの世界より1000年くらい進んでるんだ」


 良くて500年位じゃないかなぁ?でも、この世界の発展速度の遅さを鑑みると1000年くらいしないと追い付かないのかもしれない。


「私達のような神がいなかった分、アイの世界の『科学』には上限が無かったんだね。今では指先の動作だけでこの街が消し墨になるくらいの攻撃を、国5つくらい離れた距離から建物を狙って叩き込めるレベルになっちゃってる」


 それを行うには凄い人数の人の力が必要なんですけどね。言い様によっては、科学は人の力を束ねた現象で、魔法は個人単位の現象と言えなくもないのか。


「何故その状態で世界が滅びていないのか気になりますな……」


「簡単なことだよ。奪うことができる富よりも被害のほうが大きいんだから、戦争など起きようがない」


 こういう回答は当事者がするべきだと思い、私は領主さんの問に見も蓋もない回答をする。大国になればなるほど、リスクを上回るリターンがないと戦争など起こさないものだ。


「つまり今のアイの状況は、王様達が千年前に今の知識と装備、それに人材を無限に持っていける様なものなんだよー」


 まぁ確かにそう言われたらチート過ぎるよね。今の私を客観的に評価したら……織田信長が三段撃ちをしてる時に、物資、艦載機無限のイージス艦が琵琶湖に浮かんでる感じになると思う。そして歩兵は大砲すら耐えるたぬ騎士なのだ。信長、絶対に上京できないなぁ。


「しかし、アイ殿は魔法を使っていたはずだ。魔法が無い世界の住人が何故転移魔法のような魔法まで使うことが出来たんだ?」


「良い質問だね。アイは私たちが作ったこの世界の訓練所のようなとこに通ってたんだよ。だから、ある程度の魔法や理に理解があったんだ。つまり『科学』も『魔法』も扱えてしまうということだね」


「それは色々手遅れではないのか……」


 ファレンは先生モードで王様の質問に答えている。流石の私も信長が可愛そうになってきたよ。


「まぁそれだけならまだすごい人間で済むんだけどね。話は変わるけど、フランツ王。あなたの国の総人口はどれくらいか教えてもらえるかな?」


「機密事項になるが……100万以上はいるな」


「この世界の総人口はわかる?」


「公表されていないので私の想像でしか言えないが、獣人族等をいれたとしても少なくて5000万、多ければ1億といった所か……」


 そんなに人口少ないのかぁ。しかし獣人族なんてくくりが有るなら……狐尻尾とか熊の胸毛とか犬耳とかもさわり放題なのか!今回の件に獣人を噛ませられれば解決するので、方法を考えないといけない。


「アイが真剣に何かを考えてるのは微妙に不安だけど……アイの世界は約70億近い人間が存在して居たんだ」


「そんな……食料等はどうしていたのですかな?流石に100倍近い人間が生きていけるとは思えないのですが」


 うん、私も領主さんと同じことを考えた事があるが、あの世界の流通と経済と通信網があったからこそ今の食料事情はあり得たのだ。だだ、あんなのを作り出すのも維持するのも私には無理な自覚はある。


「そこが1000年の差なんだろうね。そんなレベルの農作業の知識もアイは持っているから、それを広めただけで数倍の人口なら2.3年で養えるようになると思うよ」


「それだけの知識をアイ殿は持っているのか……」


「知識だけなら良かったんだけどね……」


 ファレンはため息を付きながら意味深に告げた。


「アイは70億のうち、過半数の信仰まで集めて持ってきてるんだよ」







「それは……どう言うことなのですかな?」


 あー、確かに知識だけなら何も出来ないから他人の協力が必要だったけど、今の魔力なら一人で大体完結してしまうもんね。


「……ちょっと黙れ辺境伯」


 王様が語気を強めて領主さんを嗜めた。領主さんは何も悪くないのに怒られて少し困惑ぎみだ。何故不機嫌なのか私も解らず子首をかしげて王様の反応を待つ。


「魔の神よ。人口の件については大体察しが付いたが、その先は我々が知っても良いことなのか?」


「もちろん私たちは隠してはいないよ。狙ってやるのはオススメしないけどね」


 私はなんの事か勿論分かってはいない。分からないなら会話のボールを持っている王様の反応を待つしかない。


「疑問に思ってはいたが、分かってしまえば単純な事だ……人の身であったとしても、他の存在からの信仰を集めれば魔力が増える……のだろう?」


『!』




 ナ、ナンダッテー!!!




 あ、うん、ごめん。それは知ってた。むしろ知られていなかった事に驚いたよ。皆が知らなかったと言うことは、今までの王様達は民から慕われていなかったのかもしれない。


「正解。この国は比較的善政を敷いているので、フランツ王もかなり魔力が上がっただろうね」


「それはつまり……軍部の人間に国策として信仰を集めさせれば、一騎当千の軍隊ができると言うことではないですか!」


 ああ、理論上はそうなるね。


「落ち着け。闇の神も言っていたが、『それ』を行った国がどういう結末を迎えたか、我々はよく知っているはすだ」


「……」


「アイ殿は知らないだろうが、かつて軍部を神格化した国があったのだ」


 うん、それで?


「今なら分かる。あの国は信仰を一本化し過ぎたのだな。軍部は信仰を集めるために侵攻し、結果的に圧政は信仰を徐々に失わせ、王家も一人の勇者によって討伐された」


「この世界に勇者がいるの!?」


「あ……ああ……」


 王様が驚く場所そこなのかと目で訴えてくる。しかし、『信仰』して貰うために『侵攻』したとか言うクソ寒い国のことはどうでもいいのだ。


「その勇者はアイと同じ日本人だったはずだよ」


「まじで!どんな人だったの?」


「そうだな、素晴らしい人格者であったと伝え聞いている」


 国々を開放した後、王とならずに各地を放浪して人を脅かす魔物を討伐する旅をしていたとか、素手でオーガ族長に殴り勝ったとか、単独でドラゴンを討伐したとか凄い逸話を一杯聞いた。


 どうやらこの勇者は30年ほど前の英雄だそうだった。その偉業は吟遊詩人達によって世界中に広まっており知らない人物は居ないらしい。現在は極東の国で結婚し、腰を落ち着かせていると言う話だ。


 会いに行きたいねぇ……と私が言うと皆が頷いたほど人気の高い人物らしい。どうするか方策を考えているとファレンがニヤニヤしながら話始めた。


「まぁ話はずれたけど、ドラゴンとニワトリ位の差があると思っておいてね」


 ファレンの言葉が理解ができてなかったのか、隊長さんがぽろっと一言こぼす。


「何がですか?」


「アイとこの世界の人間」







「はっはっは!流石闇の神ですな!今回の冗談は私でも分かりましたぞ!」


 領主さんは冗談と受け取った模様だ。それを見たファレンはどや顔から一転、むむむーと眉を潜めてしまった。


「ファレンの例えは確かに正しくはないよ。私からしたら黒龍王もニワトリと変わらないしね」


「あー、確かにそうかもね」


 ファレンも同意してくれたが、言葉の上では人間も黒龍王もニワトリレベルになってしまう。力量差など分からない自分では正解のだしようがなかった。


「そうそう黒龍王といえば、王様達にあげた肉パンは黒龍王の尻尾肉を使っていたんだよ。しかも祝福されてたから凄く美味なやつ。まだトン単位であるから少し分けてあげようか」


「アイ、アイ。調理道具もないし、火姉ぇが居ないと焼くことも出来ないよ」


「あーそっかぁ、残念だなぁ……」


 となると残るのは生肉になる。強い肉なので寄生虫や細菌の類いも少ないとは思うが、当たったらどうという事はあるのだ。


『マジで?』


 目の前の三人が口を揃えていってくる。そんなにあのお肉を食べたかったのだろうか。


「うん、黒龍王の尻尾肉はウェスタの火が無いと焼けないんだ。……仕方ない。王様達もうちで晩御飯食べていく?」


『……』


「アイ、アイ。ここはフェズの家」


「もう私達の家も同然だから大丈夫!」


 ビバ、ジャイアニズム。


 良いよね!とフェズさんに視線で同意を求めると、仕方ないなという感じでフェズさんが口を開く。


「アイさん、皆さんが固まってしまっていますよ」


 王様達は嬉しいという感じではなく、また不満がある感じでもない。もしかしたら、王城の人達にも食べさせてあげたかったのかなぁ。


「フランツ王、公。アイさんが言ったことは全て事実と思われます。話が進まないので認めてしまいましょう」


 フェズさんの言葉に王様達も呼応するように目に光が灯る。


「そなたは強いのだな……」


「数日とはいえ、この激動の連続ですからね……慣れるというのと諦めると言うのは同義だと気付かされましたよ」


 うん、私の教育の効果は凄かった。


「……だが現状で食事に招かれるのはなぁ。非常事態宣言中だから流石に不可能だ」


「そうですな。私も領民を安心させてやらねばなりませぬ」


「そっかー、残念だね」


 私が王様と領主さんに言うと、王様は少し思案顔で私を凝視してきた。


「な、なに……?」


 たっぷり10秒以上の沈黙の後、王様が口を開いた。


「闇の神よ。結局の所アイ殿は一体何なのだ?」


「『人間』だよ!」


 私とファレンの言葉がハモり、顔を見合わせて笑いあう。


「間違いなくアイは生身の人間だよ、私が保証する。ただ、普通じゃないだけだよ」


「そうか、私もアイ殿と比べたら普通の人間か……」


「いやいや、王様が普通の人間な訳がない。流石に普通の人間がかわいそう」


 王様が普通の人間なら私も普通の人間にカテゴライズされると思う。


「じゃあアイは、知識、技術、魔力共にやばい人間なんだよ。性格はやばくても悪くなくてよかったね」


「なにそれ、酷くない!?」


 どうやらファレンからも普通の人間として認められては居ないようだった……






 大事に至らなかったとは言え今はまだ非常事態宣言中だ。説明が終わったので早めに王様をお城に返さないといけないだろう。


「じゃあ王城に王様を送っていくよ」


「済まないがよろしく頼む」


 特に早く返さないと宰相さんが激おこになるかもしれないと思い転移陣を起動しようとする。……しようとはするのだが、何故か転移陣が展開できず霧散してしまう有様だった。


「あれ?転移出来ないよ?」


 いつもの部屋も王様の部屋も無反応だったが、地下の転移用スペースと最初の荒野には問題なく転移出来た。つまり……どういうことだってばよ!?


 私は専門家ではないので分かる人に聞いてみるのが一番だろう。


「転移魔法の不具合じゃなさそうだなぁ。ファレン、どういう事か分かる?」


「ちょっと待ってね、調べてみる」


 うんうん唸りながら30秒ほど瞑想した後、ぼそりと呟いた。


「うっわー……なかなか面白い状況になってるなぁ」


「魔の神よ。城でなにか起きたのか……?」


 王様も自分の事なので気が気ではないようだ。


「もうちょっと待ってね……うん、大丈夫。死人は出ていないようだ」


 死人と言う、なかなか不穏当な言葉が出てくる。この段階になって領主さんも隊長さんも事の重大性に気が付いたようだ。


「結論から言うと、クーデターが起きて王城が陥落済みだね」


 おおう、王城陥落とか王様やばくない?王様がここにいるからクーデター派の作戦は半分失敗してるけど、王手に近い状況だ。皆はあまりの事に言葉もないのか沈黙している!ここは私が何か話さないといけない!


「そっかー……それはなかなか……」







「ぷっ、ざまぁ」


 良い笑顔で応援できました。

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