表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第三章 食料調達編
51/55

新たなお肉 5

 王様と一緒に会議室へ入ると、フェズさんと領主さんが並んで出迎えてくれた。が、部屋のなかにはすごく芳醇なコーヒーの香りが漂っている。いつの間にか近衛全員に椅子と机が用意され、後は配膳を待つだけだったようだ。


「王よ。本来であれば我々が出向かねばならぬところ、ご足労痛み入ります」


 領主さんがちらっと私を見たあと、王様に挨拶した。


「構わん。むしろ、『これ』の件で近日中にそなたの館に向かう予定だったからな。かえって好都合と言うものだ。フェズも急に押し掛けられて迷惑だろうが許せ」


「そんな……滅相もございません」


 領主さんやフェズさんへの対応は良いと思うが、王様が私に対してはひどい扱いだ。人をさして『これ』呼ばわりなのは仕返しリストに入れておかないといけない。


「そう言って貰えると助かります」


 多分領主さんは『こっちから出向くのが筋じゃろうが!』とか思ってそうだけど、やっぱり直に見てもらう必要があったんだよ。あの二人とも友好的に付き合って欲しいからね。


 領主さんとの話が終わると王様は歩きだし、下座のソファー真ん中に座った。


「あれ、王様こっちに座れば良いのに」


 私は上座を指差す。


「我々は客なのだから下座に座るべきだろう?」

 

「王様なのに……?」


 王様が権威を気にしないのは良くないとおもうんだけど……


「まぁこの話は後で良い。まず報告を聞かせてもらいたいな」


 付け加えるともちろん皆は席から離れて立っていた。にもかかわらず、王様がわざわざ下座を選んだことで皆驚いていたようだ。


 だが本人にこう言われては仕方がない。各々が座るべき席に座り始めた。


「ウェスタ様に用意して頂いたコーヒーです。砂糖とミルクはお好みでお使いください」


 フェズさんが飲み物を王様に出した。そのまま皆にコーヒーを配る。


「ふむ、頂こう」


 隊長さん達の反応を考えて、王様には良いリアクションを期待していたのだが、事態は予想外の方向に進むことになる。


 私はブラックに『ミルクのみ』か、何も入れない『ブラック』で飲むと予想していたのだが……、王様が選んだのは砂糖だった。


 その砂糖を選んだこと自体は大きな問題では勿論ない。



 問題なのは砂糖がまるでひっくり返った砂時計のように止まらなかった事だ……。



 何秒間落ち続けていたのかは分からないが、勿論終わりはやって来る。砂糖時計が止まった事の代償によって、コーヒーの水面は優に1cmは上がっていた。つまり……目の前のコーヒーの約1/4は砂糖なのだろう。明らかに缶コーヒーも裸足で逃げ出す糖分量だ。


 私は目線を隊長さんに送る。私の目が据わっていたのか顔を青ざめさせながら、首を横に降っているので多分普通ではないのだろう。


 そんな砂糖コーヒーをよくかき混ぜ、匂いを楽しみ飲んで一言。




「うまい……」




「『うまい……』じゃねーですよ!王様味覚壊れてるの!?それもうコーヒーじゃないよ!むしろ分類が飲料じゃなくて甘味料だよ!」


「アイ殿、一体どうしたのだ?」


「どうしたもこうしたもあるかぁー!!」


 観客席で漫才をみていたら、いつの間にか壇上で漫才をさせられているような酷さなのだ。キャラ崩壊してしまっても仕方がないと思う。


「ほう……これはなかなか……」


 入れる砂糖が無くなった為か、私のツッコミをそっちのけで領主さんはコーヒーに口をつけていた。そして成る程成る程と一人で納得してしまったようだ。


「フェズ殿、申し訳ないが不出来な主の為にもう一杯用意して頂けませぬかな?」


「勿論です。お代わりにも余裕が有りますのでお申し付け下さい」


 二人は全く慌てておらず、新しいコップに熱々のコーヒーが注がれる。


「さて、王よ。まず何も入れずにお飲みになってくだされ。さすればアイ殿の怒りの原因も分かると思いますよ」


「ふむ、そう言うものか」


「そう言うものです」


 物理的にブラックコーヒーを飲ませてあげようかとも考えていたが、その計画は必要なくなってしまったようで残念だ。


 王様もあの砂糖の量とは裏腹に、ブラックコーヒーにも躊躇なく口をつけ飲み込む。


「成る程な……」


 それだけ言って王様の反応は止まり、眉を潜めて手の中のコーヒーを見つめている。そう言えば……隊長さんがコーヒーについて何か言っていた事を思い出した。


「もしかしなくても、王城のコーヒーってそんなに不味いの?参考までに何種類あるか聞いて良い?」


「種類とは何の事だ。薄いか濃いか位しかないぞ?いつも目覚ましの特濃を頼んでいるからな。うっかり大失態を犯してしまったのだ」


 火の神薫製であったと言うことを忘れていたと、頭をかきながら王様が言っている。


 つまり豆も一種類、焙煎も一種類。多分カビた豆が混じっているのか、焙煎度合いもやり過ぎているのだろう。そんな物の特濃を飲む為には、甘さで誤魔化すしかなかったのかもしれない。


 好みや気分で豆や焙煎度合いも変える必要があると言うのに、その技術が無いと来ている。このやるせ無さはどこにぶつけるべきだろうか。


「一度製造元に話をしに行かないといけないなぁ……物理的に」


 たぶん、今のコーヒーの立ち位置は嗜好品というより医薬品に近いのだろう。だから今のような状況が横行しているのだと推察する。


「大惨事になりそうだから、城の料理人に伝えてくれ。後はこっちで調整するから早まるなよ……?」


「うーん、それもそうだね」


 確かにいきなり強襲して強引に事を進めるより、相手を誘い出したほうが私の労力は少なくて済む。しかも実行するのが王様なのだからなお更だ。それに一回の説明で国内も他国も終わると言うのだから無理をする必要も無いだろう。


「では話が逸れたので元に戻すか」


 誰のせいだ誰の。物凄く疲れてしまったので早めに済ませてしまおう。


「大筋としては、ファレンが交渉決裂したので強引に召喚術によって捕獲。事情を聞くと件の魔族、ベルンが大人しくするかわりに保護者も呼べと言うので、両方纏めて仲間にしました」


 私は気を取り直して一気に説明するが、大体分かりやすくまとめられたと思う。


「アイ殿を信用していない訳ではないのですが、魔王となれる程の魔族を……神が居たとはいえ召喚術の影響下にする事など出来るのですかな?」


 確かに一国を楽に滅ぼす存在をほいほい召喚出来ていたら、この世界の治安はやばい事になっているだろうしね。その疑問は正しいと思う。   


「そうか、皆はこの部屋以外を見ていないのだな。事実として二人、そこの庭で確認した。見た限り二人とも好戦的ではないので問題はあるまい」


 領主さんの問いに王様が答える。たぶん王様も完全にコントロールすることが困難だと考えたのだろう。私にとっては困難ではないが、あえて否定する必要もないのでスルーする。


「問題は怒らせた場合ですな……」


「まぁ丁重に対応すれば良いだけだ。それにそなたで無理なら、誰が対応しても大して変わらんだろよ」


 王様が領主さんの苦悩を見ながら楽しそうに言うが、領主さんは慣れっこのようだ。


「魔王達の事情は置いておくとしても、アイ殿はその二人をどうするおつもりで?できれば早急にあるべき場所に帰して貰いたいものですが……」


「やって貰うことが無かったので、今は子供達の相手をしてもらってます。多分今後も子供達の護衛がメインになるのかなぁ」


 私は思案しながら答える。


『魔王ですが人間に捕まって、子供達を守る事になりました』


 うん、ラノベのタイトルになりそうだとか考えてました。


「魔王が子守りとはな……」


 二人の処遇に対し王様は呆れ返っている。だってして貰うことが無かったし仕方がないよ……


「王様も状況は把握できただろうし、説明はこれくらいかな。後は事後処理を頑張ってね」


 私の話も纏まったようなので、次は王様にバトンタッチする。王様は王様で何か用があったはずなのだ。


「次はこちらの話だな。今回の件の報奨にも関係するのだが、隣国3国にまたがってアイ殿の自治領を構築しようかと思っている。今回の件もあり、我が国一国だけで対応するのは要らぬ警戒を与えるだろうからな」


 3国となると中々広い範囲を貰えそうだけど、ひとつ重要な問題がある。


「奴隷関係も?」


「勿論だ」


 なら私に是非はない。交渉や調整は本職さんに任せるのが一番だろう。


「簡単な事は既にホットラインを通して話してある。アイ殿も纏めてあった方が管理をしやすいだろう?」


「まぁ確かにその通りだけどね」


 私は確かにやり易いだろうが、量が三倍な現場はかなり大変だと思うけどなぁ。事務の制服を赤くしたら乗り切ってくれるかもしれない。


「ではその方向で調整することにしよう。しかしこれでアイ殿も所領持ち。名実ともに一国の王となる訳だな」


 と、さらっと王様が爆弾発言をしてきた。


「王様もまだまだだね、私が王になる訳無いじゃん。国になったとしても代表はフェズさんだよ」


 しかし私はそれを回避し、更に上回る爆弾をフェズさんに投げる。言った瞬間にフェズさんの笑顔が凍りついた。


「第一、私はあくまで職人だからね?国の管理なんてしてたら物作る時間が無くなっちゃう」


「いや、私じゃなくても良いでしょう!?それこそもっと適任が……」


 フェズさんは言いかけたが止まってしまった。が、居るわけがないのだ。だってまず適任な大人が居ない状況なので逃げ場はない。


「そんなに問題は無いと思うよ。簡単に言ったらフェズさんがいままでやって来たことを、少し大きくしただけだしね」


 なぁに、個人単位でやっていたことを世界単位でするだけだよ。


「私は補佐をしますから、せめて旗頭はアイ殿がなるべきだと思いますが……」


「じゃあ数万人が生活や勉強するための建物や、農場の設計と建設、各種インフラの設置。私以外に誰がやるの?フェズさんは出来る?」


 アイ の 無理難題こうげき!フェズに こうかばつぐんだ!


「フェズ、諦めろ。こちらとしても逆にアイ殿のストッパーになってくれるのなら安心だ」


 うう……とフェズさんは唸っていたが、王様の一言で陥落したようだ。


「なら家人から数名補佐に行かせましょう。我が領からの礼であれば各国も否は言いますまい」


 領主さんはかなりフェズさんに同情的な感じだ。これでは私が悪者になってしまう。


「そして何よりも、この世界の常識の無い私が為政者になんかなったら、多分大変なことになるよ」


『……』


 悲しいが非常に説得力があったようだ。だが大半が納得してくれた中で、一人領主さんだけは別の疑問を聞いてくる。


「しかし、『この世界の常識が無い』と仰るアイ殿は、一体何者なのですかな……?」


 ふむー。この流れでその反応は予想外だった。確かにそう捉らえられなくもない。他の皆も聞きたいが自重していたのだろう。興味はやっぱりあるようだ。


「本当に聞きたいの?」


 私は皆を見渡して言う。


「勿論無理に聞こうとは思いませぬが」


「説明が難しいんだけどなぁ……」


 回答は領主さんのみだが、その言葉通り確かに言う必要はない。たがフェズさんも王様達もここまで引き込んだのは私なのだ。誠意には誠意で答えるべきだろう。


「私はね。こことは違う世界から来た人間なんだよ」





「話は聞かせてもらった!この国は滅亡する!」


 ドアをガチャっと開けてファレンが宣言する。だが惜しむべきはこの世界のドアは引き戸ではない。


 な、なんだってー!!!!と心のなかでだけも合いの手を入れてあげるのが人情というものだろう。


「内容が穏やかではないですが……アイ殿の正体に何か秘密があるのですかな?」


 そしてボケを総スルーで反応する領主さん。当たり前だけどネタを知らなかったらそういう反応になるよね。


「あ……えーと、その……」


 ボケにマジレスされたら反応に困るのは神様も同じなようだ。


「アイー……」


 とうとう進退極まったのか、嘘泣きしながら私に抱きついてきた。どうやら私にこの場を治めさせる腹積もりらしい。


「ファレン……流石にそのネタは私にしか通じないよ……」


「アイ殿、説明をおねがいできるか?」


 王様も流石に解らなかったのだろうが、私が理解していると見たのだろう。だが私も完全に元ネタを知っているわけではないので、私なりの解釈を伝えるしかない。


「場を和ませるためのギャクの一種だよ」


「さすが魔の神ですな。有り難うございます」


 私が言うと領主さんがファレンに頭を垂れる。結果として部屋の雰囲気が柔らかくなったから解釈は正しかったのかな。


「さて、ファレン。ファレンはどこに座ってくれるのかな?」


「勿論マナーくらいは弁えてるよ。これでも神なんだからね!」


 と嘘泣きをやめたファレンは自信満々席を選び座る。


 ファレンが選んだ席はフェズさんの右隣、私の反対側だった。勿論間にフェズさんがいるので王様の対面がフェズさんとなる。


「どうしてこんなことに……?」


『ドンマイ!』


 フェズさんは頭を抱えて落ち込んでしまうが、私たち二人の団結力に隙は無かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ