表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第三章 食料調達編
50/55

新たなお肉 4

 そんなこんなでいつもの王城の部屋に来たのだが、何故か私は待機していた兵士に囲まれていた。いつものかっこいい略装ではなく本当のフル装備でだ。


「アイ殿で間違いありませんか?」


「そうだけど……?」


 この現状は多分ベルン関係が原因かなー?とは思うけど、城の中までこの状況はちょっと腑に落ちない。


「王命により執務室までご同行願います」


 と、結構丁寧な感じで兵士さんが頭を下げてきた。


『だが断る』


 って言いたいけど言える雰囲気ではないなぁ……。


「じゃあ案内して貰おうかな」 


 罠だったら掛かってしまった方が楽だし、断る理由も無かったのでそのまま連行されてしまおう。


 道中周りを観察していると、王城内部だというのに巡回している兵士達も皆が帯剣しており、私の先導をしている一人の兵士は抜き身の槍を持っているという警戒具合だった。普通に考えたら、どこから見ても死刑台に送られる囚人と警備兵にしか見えないだろうが、事実はここは王宮で向かう先は王の執務室という奇妙な集団でしかなかった。


 回りの兵士も私を殆ど警戒していないので多分護衛のつもりなのだろうが、オリハルコンのネックレスの防御力だけでこの人たちじゃ私に傷一つ付ける事は出来ない。もし襲われるような状態になったら周りを守る方が大変なんだと、王様に言っておくべきかもしれないなぁ。


「それではここが王の執務室になります。我々は周辺を警戒しておりますので後は王より話をお聞き下さい」


 そんな風に考え事をしている間に執務室に着いたようだ。一般市民にも丁寧な対応をしてくれる兵士さんに好印象を受けながらも、確かに詳しい事は本人に聞くのが一番だろうと思い部屋の扉を開けた。


「ほう、やはりアイ殿が来たか」


 扉を閉めると直ぐに王様が話しかけてきた。


「あれ、王様暇そうだね?」


 そう、なんと言うか書類仕事はしているようなのだが、全体的に余裕が見える。湯気の立つ飲み物がすぐ飲める場所にあったり、全く荒れていない執務室を見る限り平時のようにしか見えない。いっぱいの人を集めて会議でもしてるものとばかり思っていたけど、予想が外されて内心しょんぼりしてしまった。


「王が慌てている姿を見せるわけにはいかないからな」


 そう言って王様は優雅に飲み物を飲んでいる。ぐぬぬ……どうしてくれようか……。


「あの街の領主さんは慌てまくっていたけどね」


「結構有能な人材なんだ……今回は相手が悪すぎたと納得してくれ」


 私の反撃に王様が領主さんを擁護した。もちろん私も領主さんの事情は理解しているので、追求するつもりは無い。



 ……かもしれない?



「隊長さんに聞いて来たけど、防衛準備とかしていないの?その割にはさっきの人達の対応は行き過ぎな気がするけど」


「勿論、現在王城を含めた全地域を戦時体制に移行させている……と言いたいが今は訓練のような物だ。どうやら誰かさんのお陰で大事は免れたらしいのでな」


 現場には反応が消失したことを教えてはいないので、ちょうど良い査定材料だ、と王様は笑いながら楽しそうに言っている。


「ハァ……そんなことをするから部下に馬鹿クソいわれるんだよ?」


 私はため息をついて答えるが勿論否定はしなかった。流石に性格が悪いと言わざるを得ないが、嘘をついて現場を混乱させても仕方が無い。


「大体分かってると思うけど、二度説明するのも面倒だから王様もあっちに来てくれない?」


 逆に言うと来ないなら話さないというという事だ。あの二人の説明もしないといけないし、話を聞いただけでは納得できると思えないのでどちらにしても来て貰う必要がある。


「一応非常事態宣言中なんだが……。まぁこちらもアイ殿に話すこともあるし、短時間なら構わないか」


 王様はそう言って席を立ち、外の人に一言伝えに行ったようだ。が、閉める直前に外から何かを叫び声が聞こえたが大丈夫なのだろうか?


「大丈夫なの?」


「構わんさ、いつもの事だ」


 せめて私は犠牲となった門番Aさんの事は忘れないでいてあげよう……。


「では王様、お手をどうぞ」


「それは本来男側が言う台詞なんだがなぁ」


 王様が手を取ったので、一緒に転移陣に入っていった。






 そしてもちろん一瞬でフェズさんの店に着いた。到着場所は人目を避けるために地下会議室の私専用転送スペースだ。もちろん横にはウェスタとファレン用の転送スペースもある。


 安全の為に普段誰も人が居ないこのスペースに作るしかなかったのだが、良く考えたらこの先には私が精魂込めて作った食堂がある。今王様に見せるのは時期尚早かもしれないと考えてしまうが、さっきの意趣返しにちょうど良いかもしれない。


「なんだここは……」


「なんだっていわれても。一応フェズさんの店の会議室だよ」


 付け加えるなら、ベルンを洗った洗剤の臭いが完全には排出されておらず、フローラルな匂い漂う会議室だとも言えるだろう。


「この広さに調度品の数々……何処かの国の王宮だと言われた方が納得するんだが」


 そんな王様の声を私は苦笑で返す事しか出来なかった。


 実際、地下を掘った時の金属と鉱石はふんだんに使っているが、悲しい事に木材はゼロだ。なので全体的に非常に雰囲気が重々しい。更に細かい装飾は得意ではなく大雑把な加工しか出来ていないので、素人目で見ても品質は100均にも劣っていると思う。


 私も一生懸命作ったので作品を誉めて貰えた事は嬉しいが、数多くの天才芸術家プレイヤーを見ながら過ごして来た事もあり、素直に喜べ無かったのだ。


 こんな程度の物に驚くなら、この国の財力は微妙なのかもしれないなぁ……とかそんな事を考えながら私は食堂のへの扉を開けた。





「おや、王一人だけなのか?」


 扉を開けて食堂を中程まで歩くと、ウェスタが私と王様を見つけたようだ。 


「そういえばそうだねぇ……」


 確かに宰相さんは来ていないし見てもいない。このクソ王は、もしかしたら訓練(仮)の指揮を宰相丸投げしたんだろうか。私はそんな疑念を持ちながら王様を見る。


「ちょっと待て、部屋を出たらいきなり火の神が料理をしているのは百歩譲って納得しよう。だが、ここは部屋は何だ……?」


「ここは食堂だよ」


 振り向くと王様は部屋を出た所で固まってしまっていた。立ち止まって説明する時間もないので、疑問に答えて先に進む。


「この素材は一体……天井の光も見たことが無いものだ……」


 私とウェスタに疑惑の視線を向けられながらも、王様は自分の世界に入ってしまっていた。食堂の椅子を持ち上げたり机や床を触ったり、私達の視線の意味にも気がついていないようだ。


「そりゃ、私が全部作ったからね」


「最早、訳が分からんな……」


 私には説明する気が更々無いので分かる訳がない。そのまま私は王様を無視してエレベーターの前まで歩き、上に上がるボタンを押す。


「うおっ!扉が勝手にあいたぞ」


 扉が開くと後ろから声がした。先に開けておこうとおもったが、王様は一応私の後ろについてきていたようだ。


「中に入って」


 私が中に入って王様をカモンカモンと手招きすると、恐る恐る中に入ってきた。


「上に参ります」


 ガシャン


 ゴォォォー


 ……


「この部屋は動いている……のか」


「今地下から地上に移動中だよ」


 チーン


「一階です」


 自動でドアが開き王様は私の後に続いてすぐに降りたが、エレベーターを怪訝そうに睨んでから周りを見渡した。


「おおっ、上は普通なんだな?」


「だって流石に目立つわけにもいかないしね」


 とは言え、見た目以外は改造してるけども!という本心は隠しながら私はまた歩き始めた。



「あれは奴隷の子供達か……」


 応接間に向かう途中で王様が急に立ち止まって呟いた。その視線の先では皆が元気に中庭で遊んでいる。しかし奴隷も市民も関係なく、子供がただ遊んでいるという光景はこの世界では殆ど見ることは出来ない貴重な物なのだそうだ。


「うん、そうだよ。でもこの光景はフェズさん達の今までの努力があっての事なんだ」


 自分が子供の時には分かってはいなかったが、子供も十分な労働力となってしまう現実がある。子供が働ければその家庭の家計は確かに潤うのだ。なので市民階級の子供でさえ教育はまだまだ行き届いていないのが現状らしい。


「ああ、勿論理解しているさ。世界に広める為にも私が躓く訳にはいかん。その為にも後で話があ……」


「?」


 王様は中々良い話をしていたと言うのに、変なところで言葉が止まってしまった。



 その視線を追うと熊娘がクマー!クマー!と叫びながら子供達を追い回している。子供達もキャーキャー言いながら嬉しそうに逃げているので問題はなさそうで良かった。


「今恐ろしい存在が見えたような……目の錯覚か?」


 うん、多分あれは教えた鬼ごっこだろう。いや鬼が魔王だから魔王ごっこかな?ベルンが世界の半分をお前にやろうとか言い出したらどうしよう。


「うん、王様は疲れているから錯覚が見えたんだよ」


 私は王様の意見を尊重したというのに、ベルンは何度もクマークマー良いながら王様の前を往復する。それを見ている王様は全く動く気配を見せないので、仕方なく話し始める。 


「あの子が来ていた魔族だよ。ちゃんと話し合いしたら仲間になってくれたんだ」


 召喚魔法と書いて話し合いと読みます。


「では、あちらの男性は……?」


 王様は意外と目敏いようで、壁際のバアルも見つけたようだ。


「彼はあの子の保護者だよ」


 多分この説明が一番分かり易いだろう。


「両方魔王クラスか……」


 ぽつりと王様が呟いた。


「そう言えば、魔王っていったい何なの?」


 ベルンが言っていた気はするが、大魔王の称号を持つものとしてはやはり気になるのだった。


「一人で国を落とせるレベルの魔族の総称だな。だが神が居ないときに二人に暴れられたら……周辺国まとめて滅ぶぞ……」


 王様は頭が痛いのか眉間を寄せて言ってくるが、私は世界の半分な魔王よりはスケールが小さいようで安心する。


「無理無理。あの子達は私の召喚術下にあるからね、基本的に先守防衛しかできないよ」


「……召喚?」


 王様が疑惑の視線を向けてくるが、王としても知っておく必要があるだろう。二人の安全の為にもここはベルンに犠牲になって貰う事にする。


「見ててね」


 言うや否や、えいっ!と念じると走り回っているベルンは急停止し、そのままさっと方向転換してバアルに向けて小走りで走って行く。子供達は追いかけてきていたベルンが変な方向に走って行ってしまったため、皆止まってしまっていた。


 そんな衆人環視の中、ベルンはバアルにそのまま躊躇無く……ムキューーッと抱きついた。


『……!!?』


 ここは『抱きつかせた』と言うべきかもしれないが、『日ごろの感謝を込めて抱きつく』事を命令しただけなのに中々の力の込め具合だ。確信犯とはいえ、一体どれだけバアルに苦労を掛けていたのかちょっと気になってしまう。


 それを見た回りの子供達から上がる黄色い声に、バアルも混乱しているようだが振りほどくことすら『物理的に』難しいのだろう……。尊い犠牲は出てしまったが、ベルン本人は嬉しそうに頬ずりしているので王様には理解できただろうと思う。


「こらー!アイ、こんなところで何をさせるクマー!?」


 そろそろ良いかと術が切ると、通常に戻ったベルンが顔を真っ赤にして怒ってきた。私はごめんごめんとジェスチャーで謝る。こんな所じゃなければ良いのかと言う突っ込みは無粋なので勿論しない。


「なるほどな……納得はできないが理解はした」


「それは重畳だね」


 私達に気がついた子供達が手を振ってくれているので、私と王様は話しながら皆に手を振り返した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ