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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第三章 食料調達編
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新たなお肉 3

 私が座りなおしたのを確認し隊長さんが話始めようとするが、領主さんらしき人が遮った。


「このような小娘に……」


 領主さんは震えてしまっている。まぁ小娘なのは否定しないけど、ウェスタほどの大きさを求められてもなぁ……色々と。


「このような小娘に我が街の未来を委ねろと言うのか!」


「グリーム殿。お言葉が過ぎますぞ」


 隊長さんが領主さんを嗜める。もっと言ってやれーと思わなくも無いが、領主さんにそんな事を言っても良いのかな?


「戯けか貴様らは!この街が、国が滅びるかも知れないというのに、わざわざこんな所に来る意味が有る訳無かろう!」


 領主さんと隊長さんがやりあっているが、なら来なければ良いのにと思わなくもない。私達の所にすぐ来る必要がある様な案件なら、尚更ウェスタかファレンと話すべきだろう。


「と言うことは、あの二人に会いに来たんじゃないの?」


「いえ、我々の目的はあくまでも情報収集です。その集めた情報をあなたにも伝えるように言われているので、急いで来たのですが……」


 隊長さんがため息をつく。多分領主さんに私がやった事とかウェスタやファレンの事もまだ話していないのだろう。


「もしかして何も話してないの?」


「……どう話せと言うのですか」


 隊長さんが嘆息して言ってくるが、確かに貴方の街に神がいると言われても信じないか暴走するかどっちかだよねぇ。


「秘密?」


「貴女の采配次第ですよ」


 隊長さんからOKサインが出る。つまり私が話す分には問題がないと言う事か。


「なんの話をしている!」


 一人蚊帳の外な人がなにやら喚いているが、うるさいだけで邪魔でしかない。このままだと会話にならないので、説明の前に現状を分からせる必要がありそうだ。


「今更だけど領主さんは慌てるのが遅すぎるよ。どんな天変地異であれ今の領主さんに打開策がないのなら、それは『領主としての怠慢』だと理解してる?」


 どのような無理難題であれ、為政者の打つ手がないと言う事は一般市民には既に致命的なのだから。


「今更慌てた所で周りへの言い訳にしかならないし、危機の時こそ『常に余裕をもって優雅たれ』だよ。それに回りの軍人や一般市民が『国家存亡の危機』と聞いて慌てていないのに、貴族が慌てていて面目は立つのかな?」


 領主さんを精神的にフルボッコにしてみた。


「……何だと」


 更に私を睨み付ける領主さんに対し、隊長さんが肩を竦め話始める。


「細かく話す事が出来ればよかったのですが、我々にも守秘義務があるのをご理解頂きたい。……アイ殿もグリーム殿をあまり虐めない下さい」


 領主さんは冷静な隊長さんの言葉を聞き、怒りの色が少し落ち着いたようだ。どうやら最低限の冷静さは失ってはいなかったらしい。


「……何とか出来るのか?」


「報酬次第だけど、内乱以外なら大抵何とかするよ?」


 もちろん安請け合いをするつもりは全く無いので、ちゃんと報酬は頂きます。


「言ったな……もし解決出来るのなら何でもくれてやるわ!」


 領主さんはまだ信じていないようだ。それにしても何でもかー……心踊る言葉だねぇ。


「よし、じゃあ交渉成立だ」


 うん、良かった良かった。


「アイさん、まだ国家存亡の危機について何の説明も聞いてませんが……」


 フェズさんが苦笑混じりに言ってくる。そりゃ報酬だけ聞いて交渉成立も何も無いと思うよね。


「だって問題はもう解決してるよ?」


「……解決だと?」


 私の言葉に領主さんが怒りの視線を強めて質問してくるが、私の回答は決まっている。


「南下して来ていた魔族は、ファレンと私が鹵獲しました。えっへん」


「……」


 領主さんだけは固まってしまっていたが、近衛兵の皆さんは『そうだと思ってました』と顔に書いてあった。


 何故分かったといわれたら、衣食住が整っていれば国の存亡の危機何てまず無いし、今この国と周辺国を含めても大きな問題は無い平和な時代だった。それこそ隕石が降ってくるか魔王が降ってくるかしないと即刻国が滅ぶような事はないだろう。


 なのでここまでの情報が揃っていれば、隕石も除外されて魔王が振ってきたという選択肢しか残らない。


「むしろ私は、あれだけ遠い距離にいる魔族を察知していたことに驚いたよ?」


「その言葉を宮廷魔術師達が聞いたら喜ぶことでしょう」


 カマかけで私の推理が正解だったと分かったが、私の言葉で喜ばれても私が困る。


「じゃあ取り消しで」


「……」


 私の言葉で隊長さんはショボーン顔になってしまった。


「しかし解決したというなら……倒した魔王の亡骸はどこにあるんだ?」


 まだ信用していない顔で領主さんが酷い事を言ってくる。鹵獲の意味が分からなかったのかな?


「殺してないし。探している魔族は中庭で子供達と追い駆けっこして遊んでるよ?」


 後で鬼ごっことかケイドロを教えてあげても良いかもしれない。各国にスポーツも広める予定だし、子供達に色々遊び場も作ってあげないといけないなぁ。


「いったいどの様な経緯でそのようなことになったので……?」


「ファレンと私が捕まえただけだよ」


 隊長さんが信じられない顔で私に聞いてくるが、事実を端的に説明した。ポ○モンゲットだぜ!


 が、まだ信じられないのか隊長さんはフェズさんの顔を見る。


「ええ、色々端折られてはいますが事実で間違いありません」


 私の言葉をフェズさんが補足してくれた。


「……貴女は神なのか?」


 今度は領主さんが神妙そうに聞いてきた。


「そう見える?」


「私等には結果でしか判断できぬよ」


 領主さんは私を怪訝そうに見る。私はそんなにすごい事はしてないんだけどなぁ。


「神様っていうのは、ウェスタやファレンみたいに人知の及ばない存在を言うんだよ。だから私は正真正銘ただの人間です」


 何度も言うのがめんどくさいので、そろそろ『私は人間です』鉢巻でも付けないといけないかもしれない。


「つまりどちらにしても……この街に神が滞在中なのか?」


「ついでに貴方に『二人』ともお冠だと付け加えられるね」


 言外にファレンとウェスタもここに居ると伝えたうえ、死刑通告にも近い回答を返す。


「その理由をお聞かせ頂けるので……?」


 領主さんはこめかみを軽く押さえ、急に低姿勢になってしまった。


「この街の人は奴隷の人権を無視しまくっていたからね。その風土を作った国と領主を神様達が簡単に許すわけ無いよね。忘れているかもしれないけど、奴隷であっても神として守護している人間なんだよ?」


 多分本人達は守護する事を半ば忘れていたとは思うが、『国』を守護するというのは『人』を守護するという事だ。だからこそ目の前で人が危害を加えられていたら怒り、悲しんでいたのだろう。


 勿論王様や領主さん個人に直接怒りを覚えている訳ではない。今までの歴史が問題だったからこそ、ウェスタもファレンも時間のかかる手回しで納得してくれたのだから。


 今の状況は分かっても、まだ理解できていないのだろう。領主さんは二の句を告げることが出来ないでいた。まあ今までの歴史をいきなり背負わさられるような物だし、逆の立場でも理不尽だと思うと思う。


「反論はあると思うよ?だけど国の大半の子供が笑って生活出来ていないと言う事実を、貴方達はもっと考えないといけなかったんだよ」


「……だが、この国が今更奴隷なしで立ち行くと思っているのか?」


「だから、内乱以外なら大抵何とかするってば。王様と一通り話は終わってるよ」


「そうか……」


 この程度のやり取りで反論が無いということは、この領主さんは本来有能なんだと思う。そう考えながら少し待つと領主さんが話始めた。


「私は冷静ではなかったのだな。確かにこうして考えれば、近衛兵が伝令に来るなど普通はあり得ないことだった……」


 だが思った以上に領主さんが安心仕切ってしまった様なので、気を引き閉めさせる事にした。


「まだまだ安心するのは早いよ。だって魔王なんて目じゃない神が二人は居るんだから、もしかしてふらっと外出してしまったら大変なことになるかもだよ?」


「……!」


 自分の街の現状を思い出したのか、領主さんの顔色が悪くなる。ちゃんと現状も把握していたようで何よりだ。


「しかし……一朝一夕ではどうしようも……」


 私は色々考えながら領主さんの反応を楽しんでいると、凄く重要なことに気が付いてしまった。


「あっ!」


「どうなされましたか?」


 私の驚きの声に隊長さんが心配そうに声を掛けてきた。多分皆、この事実をまだ考えるだけの余裕が無いのだろう。


「王様に……この件、早く伝えないとヤバくない?」


『あっ!!』


 皆の声がハモりました。


「まぁ、この街に魔王が居る反応を掴んでいるはずですから……大混乱でしょうなぁ……」


 隊長さんは頭を抱えて唸ってしまった。だけどフェズ店の防御は鉄壁なので、掴んでいるのは洋上で反応消失くらいまでだろう。


 しかしそんな諸々を説明するのも面倒なので、まとめて説明をすることにした。


「よし、王様呼んでくるからちょっと待っててね」


『……』


 膳は急げとばかりに転移門を開き、私は王宮に飛んだ。


 もちろん私の居なくなった応接間では、直後に正気にもどった面々の視線がフェズさんに集中することになったが……。


「……王様にお出しするお飲み物を、ウェスタ様にお願いしてきます」


「お主も苦労しているのだな……」


 逃げようとしたフェズさんを、領主さんが労ったとか労らなかったとか……。

 



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