新たなお肉 2
黒い砂漠をちょっとやってみましたが、クラフターとしてはちょっと物足りませんでした。後々良くなってくるのかなぁ。
ウェスタの手によって作られた謎物体の味は
「う゛ぇっ」
酷い効果音で吐き出してしまうほど私の人生で稀に見る最悪の味だった。とても苦いし不味いしぬめるし、口にいれた途端に匂いが一気に鼻に来たため咳き込んでしまう。粘度もあるので吐き出しても口の中に残り、うがいをしてようやく少しましになった。
さらに鼻の中にきつめの匂いが残ってしまうため、呼吸すら苦しいので『完全回復』の魔法を使って何とか一息つくことが出来たくらいだ。
「ウェスタ……大丈夫?」
私は一瞬で耐えられなくなっていたが、ウェスタはまだ耐えていた。その後すぐに吐き出してはいたが、あんなに耐えていたことを素直に称賛してあげたいと思う。
私は用意をしていたうがいの為の水をウェスタに渡すが、その水を口に含みまた口を動かし始めた。
また水を吐き出した後、今度はコンロにぼや君を入れ普通の鍋にお湯を沸かし始める。そして程よく温まったところで、あろうことか先ほどの危険物を少量入れていた。
そのまま鍋をかき混ぜているのを後ろから見ていると、どんどん鍋の中身がとろみを帯びていくのが分かる。
先ほどはあれほど口の中で猛威を振るった匂いも、かなり薄まっているのか悪いようには感じられないが……。
「今のを薄めても料理に使えるとは思えないけど……」
そう、記憶にある味を例えるなら九州の濃厚豚骨スープに青汁を混ぜたような味で、匂いは青汁の粉末をそのまま吸引したくらいの「痛さ」だったのだ。
少なくとも食べ物ではないだろう。
「いや、多分これはこれで間違ってはないと思うんだ。調整するので少し待ってくれ」
言いながら、ウェスタは塩コショウや危険物を次々と鍋に投入していく。ウェスタの言葉を翻訳すると、つまり私は調整したものの味見をしないといけないのだろう……。
咄嗟に誰か他の人はいないか回りを見るが孤立無援である。先ほどスケープゴートも上に逃がしてしまったので、諦めるしかなさそうだ。私は八つ当たりでベルンに羊の着ぐるみを着せる事を誓った。
しばらくすると小さな器に入れられて完成品が目の前にやって来た。その器が想像より大きく、味見用の小皿ですらないことに絶望感を感じてしまう。
その私の絶望が顔に出ていたのか、ウェスタが呆れ顔で言ってくる。
「さっきから私が味見をしているのを見ているだろう?ちゃんと美味しく仕上げてあるさ」
うん、美味しく仕上げてくれている事は信用しているんだけどね。豚骨なのか醤油なのか……はたまたトムヤンクン味なのかが分からないと安心は出来ないんだよ……。
だが時間は待ってくれないので、意を決し用意されたスプーンで一口すくって口に入れる。その直後に感じていた絶望は予想していない方向に裏切られる事になった。
「あれ、普通のコンソメ味だ?」
そう、あの恐ろしい毒々しさは鳴りを潜め、普通に美味しいコンソメスープになっていた。
「む、驚きが少なくないか?」
私はビックリした声を聞いているのに、ウェスタから疑問の声が上がった。
「……肉と野菜の味が混じりあった良いスープだと思うよ?」
少なくとも固形コンソメよりも断然美味しいと思ったし、卵に溶かしてだし巻き玉子にするのも美味しいと思う。
多分期待した驚きの方向性が違ったのだろう。『あれ』が『これ』になるのが私には信じられないので、微妙な顔になっている自覚はある。
「かなりの優良作なんだがなぁ」
どうやらウェスタは、私のリアクションの少なさに納得がいっていないようだった。リアクションを求めるのなら、普通の方法で普通の料理を作って欲しいと願わずにいられない……。
「いや、普通に美味しいんだよ?……さっきの悪夢で記憶が一杯じゃなければもっと良いリアクションも出来たんだけどね」
今になって考えても、やっぱり私が味見をする必要は無かったと思う。自分で言い出したこととはいえ今後は慎重になろうと決めた。
紆余曲折はあったが問題なくシチューも出来そうだ。なので私はウェスタに大鍋を渡した。
「肉はどれにする?」
多分黒トカゲの尻尾はシチューに適していない気がするんだよね。
「鶏肉は無いし豚バラ肉で作るか」
どうやらウェスタも私と同じ回答になったようだ。後は一緒に定番のにんじん、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリーなどをカットしてボウルに各個放り込んでいく。
あとはウェスタの進捗状況に合わせて手伝えば良いだろう。
が、粗方カットが終わった時点でフェズさんが私を呼びに来た。何か少し不安げにカウンターから中を覗いている。
「アイさん、王宮から人が来たようですよ」
「あれ?私宛?」
「の、ようですが……何故かこの街の領主様まで来てましてね……」
何故ウェスタではなく私に声をかけてきたのかは気になるが、何故このタイミングで来るのかな?
「兵士は連れてきている?」
「兵士ではありますが、今朝来ていた近衛兵さんたちが6人がご一緒ですね」
おいおい……どんだけあの6人を酷使しているの?距離的に今朝の深夜に荷物を積んで王都をでて、即帰ってまた来たという事になる。
いや、帰っていない可能性もあるのか……。どちらにしてもベルンとバアルもいるし、あまり愉快な状況ではないだろう。
特に領主はぶぶづけ出したら帰ってくれないかな。それに権力者を連れてくるとか、あの近衛兵さん達もなにを考えているんだろうか。
「応接間に待たせていますので早く来てくださいね」
そう言ってフェズさんはさっさと帰っていった。
次の行動を考えている間に、フェズさんに逃げられては私もどうしようもない。行くしかないかと腹を決める。その前に領主についての情報を集めようとウェスタに聞くが、
「ウェスタ、この街の領主についてなにか知ってる?」
「……それはフェズに聞くべきだったな。あと離れるなら二人ほど増援を呼んでくれ」
凄く納得できる回答を頂きました。
「らじゃー」
その通りだと思い気の無い返事をしながら、んーっと伸びをしてマイエプロンを外す。応接間に行く途中に中庭に出るとファレン、リーシャちゃん、ベルン、バアルと子供達が遊んでいた。
すでに打ち解けているようだが、私謹製の服を着ているベルンがかなり浮いてしまっている。リーシャちゃんも回りを気にしてか奴隷服に着替えているし、生地を早めに確保しないといけないなぁ。
考え事をしながらでも忘れずに、遠巻きにしていたお姉さん達に二人ほどウェスタの手伝いをお願いした。だが誰が行くかの争いが勃発してしまったので、『早めにね』とだけ言ってその場を後にする事にした。何故かウェスタの手伝いはかなり競争率が高いのだ。
「お待たせしました」
私は応接間の扉の前に立ち、ノックをした後入室する。
どうやら相手方は合計7人のようだ。たぶん4人は楽に掛けられる良いソファーなのだが、隊長さんと見知らぬ人がゆったりと座っていた。後の五人は後ろで立ち見席だ。
たぶんこの人が領主さんなのだろうが、初老に入っているのに結構がっしりした体つきの人だ。なので全く領主をしているようには見えなかった。
そして領主さんと隊長さんが何故か下座に座っている。そしてフェズさんが示した私の席はこの部屋の一番の上座だった。
「私も立ってて良いかな?」
せんせー、宿題わすれました。なので廊下に立っておきます!あれ、今立たせたら体罰になるんだっけ?
「諦めて座ってください」
内心のボケすらもフェズさんに綺麗に流されてしまったので、私も諦めて着席をする事にした。そこで領主というこの町の最高権力者が来ているというのに、何の飲み物も出されていない事に気がついた。
「あれ、飲み物出してないの?」
私は疑問の視線をフェズさんに送る。
「私が作ったコーヒーを領主様に出せと?」
……説得力のある回答有難う。フェズさんもウェスタのコーヒーを飲んで凄い落ち込んでしまってたし、領主さんに出させるのは流石に酷というものだろう。私がさっと作ってくるかと思い席を立つ。
「いや、急いで会いたいと言ったのはこちらなのだから、その程度は構わんでしょう」
隊長さんが言ってくる。なにやら急用があるのかな?
「そうなんだね。じゃあ用件を早めに聞こうか」
私は座りなおして隊長さんに話の続きを促しす事にした。




