魔王襲来 3
ファレンは入室するなり一瞬でベルンの蓑を剥いだが、中身は中々見事なボディだった。
「え!?何をする、やめr」
「DA☆MA☆RE」
私が言うとベルンは動かなくなってしまった。
召喚術は非常に便利な魔法である。だが使いようによっては敵対する魔物を問答無用で無力化させ、着せ替え人形に出来てしまうという実はゲスい魔法なのだ。
勿論危害を加えるつもりは全く無いがポテチが私達を待っている、無駄に出来る時間は全く無い。
第一自業自得なのだから、これくらい死ぬよりましだ と思って諦めてもらおう。
ファレンがお湯を滝のように頭からかけて、渡した石鹸で丸洗いする。魔法でタオル三枚を動かし、頭、上半身、下半身をすごい勢いで洗っていく。
勿論お風呂場ではないが流石ファレン、全く回りに被害が行っていない。その代わり熊魔族は泡で羊になってしまっていた。
洗い終わったらバシャーと頭から何度もお湯をかけられ、乾かしたタオルで身体中を拭き終わる頃には私の作業も丁度終わっていた。
実は私は奴隷のお姉さん達用の仕事着にフォーマルなメイド服を作っていた。もちろん他にも本当は色々作りたかったのだが、生地が足りずお揃いの服すらまだ揃えられていない有り様だったのだ。
なので急遽試作のメイド服を熊魔族のサイズにリニューアルし、ウルトラマンもビックリな速度で完成させた。
出来上がった熊魔族のメイド服はレースを豪華にし、スカートは膝まで短くしてある。さらにメイン色を薄い緑に変え、熊の手形をあちらこちらにペイントしておいた。
更にアクセントとして肩から前に、熊の両前足が垂れている感じの服となっている。魔改造しすぎたかも知れないがくまさんには愛着もあるので手加減するつもりは無かった。
下着も熊プリントの物を用意し、本体疑惑の頭の熊にカチューシャを付ければ完成だ!
「よし、完成だ!」
入室してから三分も経たずにここまで出来るのは、私とファレンくらいのものだろう。
「凄い音がしていたけど、なかなかに魔改造をしたね……」
「タヌキ、クマ、ペンギンに私は敬意を忘れないよ」
氷で即興の鏡を作りその姿を熊魔族に見せると、頭の熊の目が開き少しビックリしている。体は動がず、喋ることも出来ないので反応が無いのは仕方がないだろう。
「じゃあやっとおやつだー。君の分も用意しているから楽しみにしていてねー」
私は熊魔族に向かって一言いった。
「ベルンも後で事情を聞くから今色々は諦めて。取り合えず大人しくしてくれていたら、悪いようにはしないからね」
ファレンが熊魔族を安心させている。そう言えば名前を聞いていたのを忘れていた。
「まぁ私の強制支配下なのはオヤツの為に許してね。もちろん事情を聞いて解決したら開放するから、そこは安心していいよ」
言い切った後、頭の熊が私を睨んできた。まあバケツの中の魚に後でリリースすると言っても、信用されないのは仕方がないかも知れない。
「じゃあ御披露目だー!」
そう言って私は会議室の扉を開け放った。
だが、扉を開けるとすぐ前の机にウェスタが座って待っていた。念のため待機してくれていたのかな?
「おお、見違えたぞ!その服も中々にすごいなぁ」
「火姉ぇ、私も髪と肌のお手入れを頑張ったんだよ?」
ウェスタの言葉にファレンが不満を示す。その言葉にウェスタはベルンのほっぺたをむにむにし、髪の毛をすき、最後に頭上の熊を撫でて満足したようだ。
「うん、流石ファレン良い仕事だ。凄く可愛くなったと思うぞ」
当の本人は照れているのか、頭の熊が照れモードになっている。本当に本体が熊なのかも知れない。
「もう待てないよ。みんな早く席についてー」
我慢できないのか、ファレンは席に座りながら主張してきた。その主張には大賛成なので私はリーシャちゃんの隣に座る。リーシャちゃんが微笑んで来てくれたので、頭を撫でてほっぺたをつついて構ってあげた。
対面側はウェスタ、ファレン、ベルンの順で座る。私からベルンが遠いのはある程度配慮しているのだろう。
各々の目の前にはポテチが盛られ、泡が立ち上る炭酸ジュースが置かれている。
ベルンを除く五人で手を合わせ『いただきます』と言ってポテチに手を伸ばす。ベルンにも味わって食べてねと伝える。
驚いたことに、ポテチは揚げたてのように熱々で凄く美味しかった。しかしウェスタが保温や再加熱をしようとしたのなら、ポテチが消し炭になっている筈だと疑問に思う。
「ぼや君いい仕事するねぇ。驚いたよ」
犯人はぼや君だという名推理だ。
「そうなんだ、器用で本当に役にたってくれている。もう返せと言われても返さないぞ?」
ウェスタがにやりと笑って言ってくる。
「本人もなついてるし、そんな酷い事は言わないよ」
何より私はネックレスで火力の調節ができているので、ぼや君を返されてもどうしようもないとも言えるかもしれない。
そんな話をしている間にも皆ポテチの感想を言い合っている。が、即席の炭酸ジュースにはウェスタとファレンしか手をつけていない。
「フェズさん、飲み物飲まないのー?」
こういう場合にいじられるのがフェズさんの星の巡り合わせなのだろう。
「正直に言わせて貰えれば、これは人間の飲み物には見えないですね……」
フェズさんの言葉にリーシャちゃんも少し困った感じの顔になった。ああそうか、見た目は沸騰している水だからねぇ。でも私も飲んでいるのに信用してもらえないとか酷いと思う。
そこで良い案を思い付いた。良い生贄が右斜め前にいることに気がついたのだ。
ベルンは食べて良いと言ったのにポテチもまだ食べていなかったので、親睦の為にも何か行動する必要があるよね?
「ベルン、食べ終わらないと話が始まらないよ?それに残したらウェスタが悲しむからね?」
そう言うと頭上の熊が慌て始めたが、すぐに熊の顔がこちらを向き口に手を当てジェスチャーをした。喋りたいのかな?
まぁ落ち着いているようなので試しに解除してみよう。
「ぷはぁ。……口も開かず、体の拘束もしたまま食べろとは一体どんな拷問クマ。いきなりこんな美味しそうな匂いがする空間に召喚され、目の前にその発生源があるのに食べろと言われても食べられない状態で放置とか、あなたは伝説の悪魔クマ……?」
ベルンがじと目で私に言ってくる。語尾が気になったが突っ込めなかった。
「まじごめん……」
とりあえず、召喚魔法の命令は全く融通が効かなかったらしい。私も良く分かっていなかったため、謝りついでに全ての制限を解除することにした。
「……!体が動クマ……。……私を自由にして良いのでクマ?」
「自由にするには条件があります」
「……聞クマ」
まあ、既に全部解除されてるんですが。
「その飲み物を飲んで感想を言うことが条件だよ。ちゃんとフェズさんとリーシャちゃんを安心させてね」
「……!これを飲めと!?」
魔族も炭酸ジュースは初めてらしい。しかし語尾の『クマ』はどこにいったんだろうか。
ベルンは少し考えた後に横を見るが、ファレンは笑顔で親指を立ててGOサインを出していた。
諦めたのか手を動かし、恐る恐るコップを手に取る。
「まず一口でよいから飲んでみよう」
私はベルンに助言をする。一口と聞いて踏ん切りがついたのか一気に口元に持っていき口にいれる。
「ごくっ……うぴゃ!?」
『うぴゃ!?』って何なんだろう。とうの本人は椅子から立ち上がるほどビックリしているが、直ぐに眉を顰めながらも着席する。
「ベルン、味はどうだった?」
「口の中が爆発したかとおもったクマ……」
ああそう言えば、小さな子供は炭酸ジュースが苦手な子も居ると何かで読んだ気がする。味覚が成長していないこの世界の人達にはあまり好まれないのかもしれない。私はゲテモノ以外は好き嫌いもアレルギーも無かったので忘れていた。
「美味しくなかった?」
「びっくりして味なんてわからなかったクマ」
もしかしたら炭酸の量が初心者にとっては多すぎたのかも知れない。
「あー、じゃあ炭酸……ジュワッっとしたのの量を減らしてあげるよ」
そう言ってベルンのコップを手に取り、二酸化炭素の量をかなり減らす。含有量は俗に言う微炭酸の半分位の入門編だ。置き直すとそれほどの恐れも無くベルンはコップに手を伸ばす。警戒心も薄れているので大丈夫だろう。
「ごくっ」
今回は心積もりが出来ていたのかリアクションは無い。そのまま二口三口と口を付けるが、待てども待てどもリアクションが無い。
「……ベルンさん?」
「んー……、冷えてて甘酸っぱくて凄く美味しいけど、ジュワッとしている意味が分からないクマ」
「うん、良い質問だね。じゃあこっちも試してみようか」
意味深な言葉を言いながら私はコップを更に三つ用意し、冷えた水、微炭酸水、炭酸抜きレモンっぽいジュースをベルンの前に置く。
「ポテチを二、三枚食べたら各飲み物を飲んで一番美味しいと感じた順番を教えて。たぶん飲み比べたら分かるかも?」
ぽりぽりごくごくと食べて飲んで食べて飲んでを繰り返す。皆が固唾をのんで見守っていた。
最後のコップを置いた後に手を止めおしぼりで手を拭き、「はぁ」とため息をつく。
「そんなに見られると落ち着かないクマ……」
照れながら言うベルンはやっぱり普通の人間にしか見えなかった。ファレンとの険悪なやり取りの印象はうかがえず、性格に問題があるようにも見受けられない。
「とりあえず一番美味しいと思った飲み物はこのジュワッとしていないジュースクマ」
と言って炭酸抜きレモンジュースを指差す。
「……でもこの食べ物が一番美味しく食べられたのは、確かにジュワッとしているジュースクマ。一体このジュワッとしたのは何なのクマ?」
「んー……二酸化炭素って言っても分からないよね。ウェスタ、この世界にはエールとかそういう発酵飲料も無いのかな?」
「無いわけではないんだが、醸造に回せるほどの麦の余りがある地域が少なくてな。この国では、どこかの修道院が酒造りをしている以外はアルコール系を殆ど生産していない……と聞いたのは何年前だったか……」
「世知辛いねぇ……」
年代については勿論スルーする。まあ未成年である上にお酒を嗜む趣味はないので、それほど問題はなかったりする。
「貴方は一体何者クマ……?」
「私はただの人間だよ。じゃあリーシャちゃんは炭酸抜き、フェズさんは試しにそのまま飲んでみて」
ベルンの言葉は半ば無視し、リーシャちゃんのコップに触れて調整する。炭酸がなくても酸味は少しあるからポテチを美味しく食べられるだろう。
リーシャちゃんは泡が出ていないのを確認し、コップを口に持っていった。
「うわっ!冷たくて甘くて美味しいです!」
リーシャちゃんが凄く感動してくれているので嬉しくなってしまう。そう言えば焼き肉パーティーの時の冷えた水にも皆喜んでくれていたなぁ。
「これは中々きついものがありますね……」
「おー、すごい。フェズは耐えきったね」
気がつくと、ファレンがフェズさんを賞賛していた。
しまった!リーシャちゃんを見ていたらフェズさんのリアクションを見損ねてしまった!まぁ、面白そうでもなかったのでまぁいいか。
「フェズさんも口に合わなかった?」
「そうですね。少し甘いとは思いますが、口の中がさっぱりしていますね。油が多い料理と合わせて食べるには良いかもしれません」
ビールが良いと言う訳ですね、分かります。実は私もビールのレシピは持っているので水と麦が有ればいつもの簡易製作で作る事はできる。だが……ノンアルコールビールになってしまうのだ。あんなのを飲む位ならただの炭酸水を飲んでいたほうが体にも良いと思う。
そのまま皆で和気あいあいとポテチを食べ終わり、皿とコップを食洗機に入れ機能の実演をし、皆を驚かせることに成功し私は満足していた。
「さて間食も終わったので、次は晩御飯を考えようか」
何か忘れている気もするけど気のせいだろう。そう考え、ウェスタとぼや君の合作に期待を膨らませていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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