魔王襲来 1
色々忙しくてなかなか更新できませんでした。
不定期にはなりますが、週1は更新していきたいと思います。
ガンダムジオラマフロント!
「さて、どうしたものかなぁ」
王としてはアイ殿に権力者からの秋波が無意味だと分かっただけでも儲け物だが、アイ殿という存在は放置するには危険すぎた。
もちろん個人的には好意を抱くに足る存在だが、私は個人である前に王だ。国に害を与える可能性が高い人物なら、本来処断することも視野に入れないといけない。可能かどうかは置いておいて、不足の事態を考え検討してしかるべきなのだ。
だが間違いなくアイ殿は『暗殺される』可能性を理解しているのだろう。そして何らかの対策を採っているはずだ。なぜならアイ殿は既にこの国に奴隷解放という『害』を与えているのだから。
本来であればメリットが大きいからこそ奴隷解放をこの国に止め、他国との国力差を増大させるのがローエングリン王国の王としての責務であるとは思う。
「はぁ……あれは本当に人間なのか?」
理想はそのとおりなのだが、現実は人を使うのが仕事な王が一人の女性のの手駒として動かざるを得ないという状況だという事に頭が痛くなる。
それに幾ら神々の後ろ盾があるといっても、神々の怒りと奴隷達を比べて我々は一度奴隷達を取っている。暗殺される可能性を理解した上で、尚且つ一人で武装した私の前に立つ。そんな事を当然と出来る人物を人間か疑問を持ったとしても仕方がないだろう。
「アイ殿ほどの人物に命をかけて信用していると言われてはなぁ」
だが放置は絶対に出来ない。コントロールする事は出来ないだろうが、目の届く範囲に居ないと国を守れない可能性がある。正直奴隷解放よりこっちの案件の方が急務だろう。
さっき聞いた話をどう話すかも含めて、色々考えながら私は皆が激論を交わしているはずの会議室に足を向けた。
控え室に入ると宰相一人だけが居た。
「シン、皆はどうしたのだ?」
「会議があまりに進まなかったので、各々休憩を取らせています」
流石に私が離れただけでは良い案は出てこなかったか。シンの采配は妥当なところだろう。
「そちらの案件はどうなったのですか?」
「さて、どう話したものかなぁ。実はアイ殿が一人でここに来ていたのだよ。もちろん非武装でな」
取り合えず事実を話す。私の苦悩をシンも知ればよいのだ。
案の定口を開けて固まりその後渋面で黙ったので『してやったり』と内心思っていたら、シンの方から口火を切ってきた。
「そうですか……話は変わりますがフランツ、先程近衛兵から火の神の差し入れを預かっているんですが、お昼ご飯はまだですよね?」
いきなり内容が変わった事に違和感を感じながらも、その内容に驚愕させられたのは私の方だった。
「……!本当か?まだ神達の機嫌は直っていないはずだろう?」
火の神と言えば料理の神とも言われている。その神からの差し入れは毎回非常に美味なため期待をせざるを得ない。
「近衛兵六名は帰りに食べるように言われたのでもう食べています。さらに毒見禁止と言われたそうなので、念のため私も王より先に食べました」
まあ神から拝領した料理に毒があるわけが無いので元々毒見などさせるつもりはない。
「とても美味しいのでフランツも食べてください。ちょうど良い昼食になりますよ」
そう言うとシンは紙に包まれたパンを出してきた。ただのパンに肉と野菜を挟んだだけのシンプルな料理だ。受けとるとほのかに暖かいので軽く温め直したのだろうと考える。
確かに昼を回っているが食べる暇が無かったので、まだ昼御飯を食べていない。小腹が空いているのは事実なのでありがたく頂くとしよう。
「……!!?」
なんだこの肉は!?柔らかい肉の食感とこの溢れ出る肉汁のハーモニーは冗談ではない!パンにも十分に肉汁が染み込んでおり、本来硬いパンであるはずが簡単に噛み切る事ができた。空腹など関係なくこの肉を、このパンを体が求めているのだと思う程にうまかった。
普通はパンに肉と野菜を挟んだだけでこんなに美味しい訳はないのだから、火の神の料理スキルが半端なく高いのだろう。
大きめのパンを物の数十秒で食べきってしまったが、まだまだ食べることが出来そうだ。正直他の者の前で食べては威厳が目減りしてしまうほどの食べ方だったと思う。
「さすがは火の神と言うところ……か!?」
言っている最中に違和感を覚えて声が詰まる。急に体が震え出し体中が熱くなっていき、立っていられなくなる。
明らかに通常の状態ではないが、毒ではないのかもしれない。魔力がぐんぐん上がっていくのが分かる上、シンがこっちを見て笑いを堪えているのでこの特殊効果も知っていたのだろう。
「謀ったな、シン?」
「ええ、良いものが見れましたよ」
私はため息を付く。シンしか居なかったのは間違いなく狼狽する私を見たかったからなのだろう。
そして今になってシンの魔力も明らかに上がっているのを感じる。シンで三倍、私で五倍くらいの魔力量というところか。シンも魔力だけなら上の下くらいの魔力量を誇っていたのだ、今の魔力量は世界でトップクラスだろう。
「毒見禁止にも頷けたな……聞くのが怖いが、これを食べたのは何人だ?」
「フランツと私とアイ殿に直訴にいった近衛兵六名ですね」
あの六人か……まあ自業自得と言うことにしておこう。
「これもアイ殿の仕業か?」
「ええ、アイ殿がウ……火の神に依頼をしたと聞いています」
シンは今死にかけたな。まぁ、それだけ慌てては居るのだろう。
「近衛兵として職務を続けさせるのは不可能だよな……?」
「残念ながらその通りでしょう。強くなりすぎて他の兵との軋轢しか生みません」
それは当然だろう。私とて魔力が五倍以上あがっているのだ、普通の兵とでは大人と子供以上の実力差が出来てしまっている可能性が高い。
「6人は栄転だな。宰相直轄にするか?」
「私に回されても正直扱いに困ります。しかし、今のは私達に付いてこられる護衛はこの6人しか居ないとは思うので、単純に半分ずつ護衛に付かせれば良いかと」
「まぁ、そうなるか。それしか無さそうだから取り合えずそうしよう。じゃあ次はこっちの話だな」
さて、取り合えず要点から話すとするか。
「喜べ、食料問題が解決したぞ」
「……はい?」
これでは結果だ、どうやら私も狼狽しているようだった。
「内容については約定により誰にも伝えられないが……聞いて驚け、アイ殿はゴブリン対策を持ってきた。効果範囲は不明だが、かなりの広範囲で農業や畜産を行うことが可能になるだろう」
「嘘ではないですよね……この世界の歴史上だれも成し遂げていない偉業ですよ?事実ならその情報を狙って確実に戦争が起こりますよね」
壁で囲ってない地域でも安心して農作業が出来るという事は、耕地面積が何倍にも何十倍にもなるという事なのだ。その技術を奪うために世界規模の戦争が始まってしまってもおかしくない。
「隠せば我が国は滅亡するだろうが、奴隷開放と共に各国に広めるだろうから問題ないだろう」
本来百金どころか、わが国一国ですらその対価には能わないだけの価値がある。
「我々は軍隊には最強の防御力を与えられ、人類最強クラスの魔力を与えられ暗殺もほぼ不可能となってしまった。このままいけば政治も国力も軍隊も名実共に最も強固な国になるだろう」
そんな無茶苦茶な国がいたら、逆の立場ならもう友好を結ぶしか手はないと思う。
「だがこれは善意だけではない。忘れてはならないのは我々は実験台にされているという事だ。我々を踏み台にして、アイ殿は本気で世界に革新をもたらすつもりなのだろう。しかしそれを理解した上で、私は個人としても王としてもその先に有るものを見てみたいと思っている」
「で、本音は?」
「これ程面白い事を当事者として行えるんだ。こんなに嬉しいことはない!」
私もまだまだ子供だという事だな。シンには当然ばれていたようだが。
「さらに面白い事に嬉しすぎて遠回しにだが、アイ殿に求婚したら断られたんだ」
「は?」
「王族と結婚したら世界征服も出来るんじゃないかといったら、『そんな無駄な事はしない』と返してきた。過去の偉人の覇道への苦労を『無駄』の一言で一刀両断だぞ?正直会話が面白すぎて笑い出すのを堪えるのに苦労したぞ」
正直欲しくないかと言われたら欲しい人材だが、求めない程度の身の程は弁えていた。あの人は間違いなく私とは器の格が違う。アイ殿自身の言のとおり、知識だけで世界を滅ぼすことが可能な人間なのだ。
私のような凡王に扱いきれる人材ではない。
「あー……アイ殿が言いそうだと、納得してしまうのは何故なんでしょうね」
「私達は疑うのも仕事なんだがなぁ。何故か常識が裸足で逃げ出す説得力が有って反論の余地が無いんだ」
「正直私も嘘を吐かれても見抜ける自信がありませんがね。しかし判断をしたのは我々ですから、失敗しても他人のせいにはしませんよ」
「何を言っている、失敗するわけがないだろう。私がやるのだから成功は確定で、アイ殿の助けが合ったから大成功に変わっただけだ」
元から奴隷解放が失敗する余地が殆ど無かった。さらに今回の件で反対者は反対する暇すら無くなる。貴族達は所領の開墾準備や資金集めなどの対策に当分手一杯になるだろう。
頭を悩ませていた仕事を一手で解決されたのだからぐうの音も出ない。
「シン、1つ宣言しておくぞ」
「はい」
シンは少し神妙な顔になる。
「我が国はアイ殿と言う世界に対する『劇物』を飲んだのだ。アイ殿に恩返しするのは当然だが、もし道を誤った時には我々には止める義務がある」
「分かっています。無いことを祈りますが、私はフランツの意見に賛同しますよ」
「感謝する」
取り合えず国のトップ二人でアイ殿への恩返しを確認した。大問題は片付いたので今後のスケジュールを確認していると、一人の衛兵と扉の外にいた近衛兵が一緒に入ってきた。
「面を上げろ、何があった?」
中の確認もせずに近衛が通したと言うことは、他国からの侵略並の緊急事態が起こったと言うことだ。この大事な時に水を差した邪魔者にはお灸を据えないと駄目だろう。
「……はっ!恐れながら申し上げます。先程、宮廷魔術師様からこの国に巨大な魔力反応が接近中と警告が有りました!規模は魔王級であり、コースがこのままであれば後2、3時間後に我が国に上陸すると思われます!!」
『なんだと!?』
流石に慌てた声を上げる。それも当然だろう、魔王級となると一国で対応出来るレベルを遥かに越えている。寧ろ最初の一国は必ず滅亡していると言っても過言ではない。一国を生け贄に時間稼ぎをし周辺国が団結をして何とか倒すと言うのが常套手段なのだ。
「直ぐに進路予想図を見せろ!大臣と将官全員に内容極秘で緊急招集をかける!近衛兵達は即座に伝令に走れ!」
「ハッ!」
近衛兵が会議室から急いで退室する。衛兵は持っていた紙をすぐに机の上に広げた。
簡単な略地図だったが魔王級の進路予想が書かれているのが見える。今の進路では王都ではなくかなり西の僻地に魔王が着弾しそうではあった。
「衛兵、大義であった今日はもう仕事を休むがよい。といっても体のよい情報封鎖なので、用意する部屋から許可があるまで出ないようにな」
「……はっ」
報告に来てくれた衛兵には悪いが緊急時なので仕方がない。退室したのを確認してから宰相の顔になっていたシンに話しかける。
「これは偶然だと思うか?」
「フランツも偶然だなんて思って居ないでしょう?貴方と同じ呆れ顔をしている自信が有りますよ」
そう、予想進路はフェズ殿の店があるシェラン辺境都市や大森林が範囲内に入っていたのだ。
「十中八九犯人……じゃなく目標はアイ殿達だろうなぁ」
数日前は、まさか神より一人の人間を重視する時が来ようとは思ってもいなかったんだがなぁ。
「アイ殿には悪いですが私には反論できませんね……。正直国が滅亡の危機になっている筈なのですが、神2柱がいたら魔王級であっても鎧袖一触でしょう」
「まぁ魔王級ほどの存在が、魔の神が滞在している国に弓を引くとは思えんが……」
ぶっちゃけると都市を滅ぼしたりしたら魔の神、火の神が激怒するのは間違いないと思う。いまいち締まらないが、我々が冷静でいられる理由でもあるのだ。
だがこちらが感知しているのだから、相手はもっと前から魔の神の事にも気がついている筈だ。その点は不安が残るが今考えられる材料が手元に無かった。
「しかし何もしない訳にもいかんな、とりあえず例の近衛兵六人を先行させてアイ殿達に合流させろ。任務内容は情報収集だ、交戦は極力避けて不可避の場合のみ任意に許可する」
「極力を暴走を押さえるために、アイ殿達が目標と思われるので問題なければ邪魔をしないようにとも伝えておきましょう」
「許可しよう。流石に魔王相手に実力試しも無いとはおもうがな」
アイ殿の事は神達と一緒にいるので、あくまでも極秘事項だ。なので官僚達に説明できないし急に進路を変える可能性もある以上、最大級の対策を取らねばならない。だからこそ先にあの六人をアイ殿達のもとに送ったのだ。
あの六人の存在を貴族が知れば王都の防衛に当てろと言うかも知れないが、今一番重要な防衛目標はアイ殿だ。もしアイ殿が倒れれば世界の安定が遠退いてしまう。複数の都市とアイ殿を天秤にかけたとしてもアイ殿に傾くだろう。
「貴族達には悪いが食料問題の解決策については問題が解決してからだな」
辛い事の後には嬉しいことがあった方が良いだろうと、笑みを浮かべる。
「さて、国の存亡をかけた軍議を行うとするか」
「何故か楽しそうですね……?」
シンの言葉は無視し、緊急招集にて揃わせた重鎮達との会議を行うために歩き始めた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価など貰えれば励みになるので良ければポチッとお願いします




