奴隷商人襲撃作戦 2
ポータルに入りファレンが落ち着いた事を確認してから居間に行くとウェスタがいた。ファレンの為にも直球で話すべきだろう。
「ウェスタ、言われた街に行ってみたんだけど……奴隷が居たんだ」
ウェスタは一瞬何を言われたか分からない顔をしたが、直ぐに表情が変わった。
「……戦争奴隷や犯罪奴隷でもなくか?」
「うん、破産で奴隷になったり6歳位で売られる奴隷もいるのは確認した」
「……なんと言うことだ」
「更に悪い情報として奴隷を路上で鞭打ちにする人間もいたし、檻に裸で入れている店もあるそうだよ」
得た情報を伝えるとウェスタもかなり厳しい顔になっていた。
「今すぐに止めさせて来よう」
「ウェスタ、私も怒ってるから少し話をきいて」
ウェスタが席を立とうとするが止める。
「奴隷を止めさせるだけなら簡単なんだけど、今まで奴隷がやってた仕事をやる人がいなくなる。また大量の奴隷がする別の仕事もないので、国の治安が悪化して奴隷のためにもならない」
ウェスタは納得はしていないようだが席に戻った。
「アイが言うならその通りなんだろう。分かった、最後まで聞いてからどういう行動をするか決める」
「まずウェスタにはして貰いたい事があるんだけど、何パターンか考えられる行動を話しておくね……」
と、2人に計画を話す事にした。
その日の夕方に私は再度奴隷商人のもとを訪れていた。彼が私の見た通りの人物なら計画に役立つと思ったからだ。
私が店の中に入ると奥の机に座っている人物がいた。
「店主、先程はすまなかった。所用が終わったので戻って来たが今お時間は空いているだろうか」
「ええ、こちらは急ぎの仕事では無いため構いません。座って少しだけお待ちください」
彼はベルを鳴らして呼んだ少年に何かを言付けると部屋の外に出した。少し待つと一段落付いたのか、またベルを鳴らしてからこちらのソファーに店主が移動してきた。
店主が座ったタイミングで少年が何かを持って入ってきた。匂いからするとコーヒーだ。
「ほう、この地域にもコーヒーがあるのだな」
「ええ、輸入品になりますが客商売ですので持て成し用に購入しています。砂糖かミルクは使いますか?」
「いやそのままで構わない、そのままの方が豆の味が判るからな」
店主が飲んだので私も一口飲んだが……非常に不味かった。ハズレ豆を集めて煎りすぎた様な味だ、到底飲めるような味では無かった。
「店主、このコーヒーは輸入したと言ったな?まさか生豆から作ったのか……?」
「その通りです。尚更貴方の正体が気になってきましたよ」
「ほう、私は試されていたのかな?合格したのならちゃんとしたコーヒーを頂きたいものだ」
「……そのコーヒーはお気に召しませんでしたか?」
「うん?」
何か話がずれている、何がずれているんだろうか。
「まさかこのコーヒーを来客用に出していたの……!?」
「何かまずい点でもありましたでしょうか……?」
不味い点なら多すぎた。親戚がコーヒー通であったため豆の選別や煎り方も一応やったことがある。だが自分で煎ったコーヒーも美味しかったが、到底本職には及ばなかった。つまりこのコーヒーは素人が何も知らずに作った物なのだろう。
「……焙煎されたものは市場には流れていないのかな?いや本題はそこじゃない、コーヒーについてはまた後日話そう。取り敢えず豆の無駄だから新たに作らない方がいいと思う」
「そこまでですか……」
話が脱線したので強引に戻す。
「聞きたかったのは私が何に気がついたのかだったな」
「ええ、その通りです」
「まず奴隷部屋の大人と子供の比率が違いすぎた。他に大きな部屋がある規模の場所でもないしな。その大人も子供の世話をするためだけに居るように見えた。後は子供たちの目だな。」
目?と店主が聞いてくる
「私に対し自らを売り込もうという意思が皆無だった。つまり店の中の方が外の普通の奴隷よりも待遇がよいのだろう。もう一点はあの子供たちに教育をしていると思われる点だな。あの子供達の目は絶望しきってはいない、未来を見ている目だった。店主も読み書き計算について聞いたら『来ない』とだけで『居ない』とは言わなかったから確信した」
「それだけで分かるのですか……」
「以上の事から店主が教育をした上で良い雇い先を探していたのだと推測出来る。感じた違和感はまだまだあるが、貴方からも話を聞きたいと思うのだが」
店主に話を振る。少し時間を置いてから店主が話し始めた。
「私が奴隷商人になった理由でしたね。……実は親が元々行商人でしてね、その行商に小さい頃一緒に着いていった事がありました。その中で貧しい村々を回る事もあったのですが、お金が無いが物資を買えないと飢え死にしてしまうというケースも結構あったのですよ」
何かを思い出しているのか言葉が止まる。
「その中の葛藤であまり働く事のできない食べ盛りな子供を売ることを選択してしまうんですね。ですが子供の奴隷は安いのです。そして安くて扱いやすい奴隷は使い捨てられるので、子供だけでもそう為らないように奴隷商人になったんですよ。子供時代の私にとっては結構ショックな出来事でした」
結局少しの人数しか私には賄いきれませんでしたか……と小さな声で聞こえる。
「では貴方は奴隷制度には反対なのかな?」
「反対ではありませんよ。制度改革は必要だと感じますが、この国に奴隷は必要です。現在国民と奴隷の比率が6対4位なのでどうしても無くす訳にはいかないのです。ですが現在のままで良いとは思っては居ません。というのも先ほどの話しには先がありまして、結局次代の働き手を売ってしまった村は十数年後に無くなってしまいました」
「本来はそうなる前に保護している国や領主が手を打たないといけないはずなんだけどね」
「ええ、ですが現在は自己責任の名で放置されています。このままでは放棄される村は増え国力はどんどん下がるでしょう。……この程度で貴方の試験には合格しましたでしょうか?」
「ええ、もちろん。さてフェズさん、ここからは少し腹を割って話させて貰うね」
口調を普通に戻して詳しい話しをしようと思う。
「はい、なんなりと」
「貴方は奴隷商人を辞めて孤児院を経営してみません?奴隷になってしまった子供を購入するもよし、危険な仕事をしている子供を保護してもよし、采配はあなたに一任しますよ」
「はい?」
「実はね、この国の奴隷制度はもうすぐ破綻しちゃうんだよ。もちろん混乱を避けるために、奴隷は全て国が買い上げて『国の所有財産』となる予定だけどね。その後全ての15才以下の奴隷は一旦孤児院などで教育を受ける事になる。その元締めをお願いしたいんだよ」
「一体なんの話をしているのですか……?そんな事が実現できるわけが無い」
「だろうね、明らかに奴隷によって益を受けている人間が多すぎる。普通はそんな事を計画しても暗殺されて終わるだけだね」
「お察しのとおり今まで王に上申した者はそれなりの数が消えてますよ」
やっぱり内部に敵がいるっぽいなぁ。
「でもその無茶を通せて国民を納得させてしまえる存在がいるでしょう?」
「それこそ馬鹿な話です。他国の王すら自分達が奴隷を使っているのだから一蓮托生なんですよ。それこそ神でもないと即現状を変える事なんて出来ません」
「ここだけの話、さっき一緒に来ていた魔の神が余りに酷い現状に泣いちゃってね。報告を受けた火の神も大激怒。王城に乗り込む前に止めて今現状把握に私が動いていた感じなんだよ。他の店も覗いたけどフェズさんが言ったように酷い店も結構あったのが分かったから、もう奴隷をそのままにする選択肢は無い。王が判断間違えたら王城が消えるかもしれないね」
「……貴方はいったい何者なんですか?」
「私は普通の人間だよ。一般家庭に育った普通の人間だよ」
大事な事なので二回(
「手付けとしてこれを見てくれれば少しは理解してくれるんじゃないかな」
私はフェズさんの前にオリハルコンのインゴットを置く。
「これは金ではない……ですね、更に重く硬い。これはまさか……!?」
「流石商人、逆に金との差を体感で分かる事に驚かされたよ。オリハルコンと呼ばれる金属だけど知っているかな?」
「伝説の金属ですよ、知っていますが見た事はありません。真贋などは分かりませんが持てば普通の金属でない事は分かりました。確かにこれを王宮にもっていけば孤児院の資金と許可くらいならポンと出してくるでしょうね」
☆PON☆と出してくれなければ困る。
「では貴方に協力するにあたって一つ条件があります。貴方は神と繋がりがあると言った、その事を信じるためには不確かな金属だけでは信用に値しません」
「じゃあどうすれば信用して貰えるのかな?」
オリハルコンが出回っていなかったのは予想外だった。あまり売るつもりは無かったので問題無いといえばないんだけど。
「こちらについてきて貰えますか」
私はフェズさんの後ろに付いて奴隷達のいた部屋に入っていた。




