奴隷商人襲撃作戦 1
「あーまずったなぁ。このパターンを忘れてた。ファレン泣くのは後、一旦戻るよ」
「うう……何であんなにひどい事を人はするの……?」
泣いているファレンを馬に乗せ、急いで街からでる。直ぐにウェスタと話す必要があった。
何故このような状態になったかと言うと少し時を遡る。昼食後に『レジェンド』に再度来た私達は、馬を召喚し一路街を目指した。
比較的予想よりも大きかった街は活気に溢れていた。しかし所々に『黒い首輪を付けた』質素な服を着た人が居たのだ。疑念を持たないほうが無理だったので市場らしき場所を捜索し可能性の高い店舗を見つけ、ファレンには少し離れた路上に待って貰った上で店内へと入っていった。
店内に入ると一人の男性が近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
私のような小娘に向こうから声をかけてくるとはおかしいなと思いながら、できるだけ嫌悪感を出さないように話を切り出す。
「店主でいいのかな?すこしこの店の奴隷について聞きたい事があるんだが」
スイッチを切り替え相手の反応を待つ。
「はい、私がこの店の店主をしておりますフェズと申します。手前どもに答えられる事であれば何なりとお申し付けください」
「ほう、私のような小娘に初見でそれだけ丁寧な対応をするとは珍しいな」
「小娘とはご謙遜を。見慣れぬ服を着ておられるばかりか、その威圧感は並みの人間に出せるものでは御座いません。その程度が分かる位には商人をやっております」
内心どうやら駄々漏れのようでした。
「そうか。ならまず奴隷を購入する場合はどのような手続きが必要だ?」
「購入についての手続きなどはこちらで全て行いますので、お客様にすぐに商品をお渡しする事ができます」
商品と言った所でイラッと来るが抑えて次の話しを切り出す。
「ここで購入した奴隷を他の地域や国に持ち出した場合などは不都合はあるか?」
「御座いません。極東の一部地域では奴隷制度を認めていない地域は有りますが、あくまでも『人権が無い』事を認めてないだけですので一緒に入国する事自体には何の問題も御座いません」
奴隷は人権が認められていないんだな……
「妹の遊び相手を探していたのだが、10歳以下の少年や少女は居るのか?年齢や種族等も含めて教えて貰いたいのだが」
「そうですね、当店で取り扱っている奴隷には年齢の下限が御座いません。といっても乳幼児は奴隷達の間で生まれた子供が殆どですがね。人数が多くなるのはある程度働ける6歳以上からですね。種族のほうは申し訳ないですが私の店では殆どが人間です。王都に行けば色々な種類を取り扱っているので、他種族を希望であればそちらの方に行かれるのがよろしいかと」
うん、この国滅ぼそうか。
「後はそうだな、今日は買わないと思うが一度15歳以下の男女を一通り見せて貰ってもかまわないだろうか」
「では人数が多いのでご一緒にお願いしてもかまわないでしょうか、かなり人数が居ますのでここに連れてくる事もできませんので……」
「ああ、分かった」
店の奥に進んでいくと、申し訳程度の服を着た男女が50人ほど居た。が、殆どの子供達の目には意思が感じられなかった。
一通り見させて貰った後更に店主に質問する。
「正直衛生環境が良いようには見えないな。妹に宛がってすぐに死なれる訳には行かないのだが」
「とんでもない。我々は毎日食事も与えておりますし、寝床もある。奴隷商人の中でもかなり良い対応をしておりますよ。お嬢様は見た事が無いと思われますが、路上の檻に裸で奴隷を入れるような奴隷商人も居ます。商品が死んでしまっては元も子も無いと思いますので、真似をする気は全くありませんがね」
面白い奴だな気に入った、殺すのは最後にしてやる。
「後はそうだな、読み書き計算が出来るような子はいるか?」
「そんな子供はここには来ませんよ。読み書き計算が出来るような子供はすぐに商人などに買われていきます。元々商人などが破産してその家族が売りに出されるような事自体が極稀ですからね」
「そうか有難う、大体知りたい事は分かった。最後は純粋な疑問なんだが質問していいか?もちろん答えなくても構わない」
「ええ、なんなりと」
「怒らせるつもりではなく純粋な疑問なんだが、貴方が奴隷商人をしている理由とは何だ?商才は有るように見えるし他の商売もあったはずだ。なのに奴隷商人という多数の人間に忌み嫌われる職業をしていると言うのは理にかなってないと思うが」
奴隷商人が固まってしまった。少し経つと再起動しクックックと笑い始めた。
「貴方のような方に認められるというのも存外嬉しい物なのですね。そうですねこの話しをするには少し場所が悪い。応接間に戻りましょう」
商人に促されて応接間に戻る。が、戻ったとたんファレンの声が頭に響く。
『うう、アイどこー?ぐすっ、アイー?』
どうやら泣いているようだ。すぐに店主に暇を伝える。
「店主済まない私用を忘れていた。この埋め合わせは後日必ずするのでお暇させて貰う」
「ああすみません時間が無かったのですね。もちろん構いませんが、次回会った時には何に気が付いたのか後学の為に教えて貰えればと思います」
「分かった、必ず伺うと約束させて貰おう」
元の位置に急いで戻ると少し入った路地にファレンが居たが、私を見つけてすぐにファレンは抱きついてきた。泣いていて要領を得なかったが、黒い首輪を付けた大人の男性が何もしてないのに目の前で鞭で打たれたそうだ。吃驚してる間にその男性と鞭を持った男性は周りを人に囲まれ止め様にも近づけなかったと言う。とりあえず目の前に人だかりが有ったのでファレンに魔の一言をささやく。
「そうだね、状況は大体分かった。申し訳ないけどやって貰いたい事があるんだ。鞭を持った人と叩かれている人は認識できる?」
コクンとファレンは頭を上下させる。
「なら叩いてる人に気絶以上死亡未満で電流攻撃を許可する!死ななければ後で二人とも回復させてあげれば良いからやっちゃえ」
グッっとサムズアップをする私。ファレンが目を瞑った後悲鳴が聞こえる。成功したのだろう。
「同じ事が有っても困るし、遅延魔法で物を使って人に攻撃したら気絶するように設定できる?その場しのぎでしかないけど今はやっておこう」
どちらにしてもこの状況を私が見た時点で長引かせるつもりは無かったのだ。今後の事を決めるためにも急いでウェスタの所に戻ろうとしていた。
「うう……何であんなにひどい事を人はするの……?」
と冒頭に繋がるわけだ。
「ごめんねファレン。人間は凄く欲深いんだよ、私も含めてね。ウェスタの所に着いたら細かい話をするので今はごめんね」
人気の無い場所まで来ると大分ファレンも落ち着いていて安心した。心を落ち着かせながらウェスタにどういう風に話を持っていくかに迷いながらポータルに入っていった。




