異世界に行こう 5
「待たせたね!改良がおわったよー」
ファレンが勢い良く襖を開けて入ってきた。私達3人は火の神様ことウェスタが作ってくれたクリームシチューをお昼ご飯で頂いていた。流石火の神様だ、本人が料理が趣味と言うだけあってじっくり煮込まれた料理は絶品だった。
「ええええ、何でもうご飯食べてるの!?」
「いや、ああいう状態だと呼びに行っても来ないから呼ぶのもめんどくさかった。もとい、料理を暖め直す方が美味しい料理を食べさせる事が出来るからだ」
といいながら、ウェスタがクリームシチューを持ってくる。
「確かにこれは最高のタイミングを狙って食べたくなるね。よく冷えても美味しいとか聞くけど料理する側からしたら、『常温で一番美味しいように作った物』以外にそれを言われると温めて食えよ!って思うんだよ。故にウェスタは正しい」
料理談義に花を咲かせた私とウェスタは頷き合っていた。
「アウェー……?もぐもぐ」
とりあえずファレンが食べ終わるまで待って話を聞く事にした。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でしたー」
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
「いやー本当に美味しかった。ウェスタが料理の店を開いたら連日満員間違いないよ」
「まあ確かに満員になるだろうね。一時期こっちの世界で料理の修行してたんだけど、一番の料理人を決める大会に出場して優勝してたもんね。その後王様との会見で神だってばれて、大会が『火の神祭』という名前に変わったくらいには料理人として有名だよ」
「そんな事もあったなぁ。つい先日アイ達の世界にも修行に行ったんだが、私以上の料理人がゴロゴロしていたぞ。まだまだ修行の身だと心を引き締めなおした所だ」
「アイさんの世界の料理ってなんであんなに美味しいんですかねぇ。お米とか麦自体も味が全然違う別物になってて驚きました」
私が感想を言うと、ファレンがまたもやばらした。中世の文化レベルの料理と現代の料理じゃ勝負にならないのかなぁ。シェスカ、それはこっちの世界の人間は魔改造しまくったからだと思う。でもウェスタさんが居たら地球時代よりも良いご飯が食べられそうで安心した……うん、なにか忘れている気がする。
「あ、ファレン。改良って一体何をしたの?」
「ああそだ忘れてた。シチューが美味しすぎたのが悪いんだよ」
「ほう、じゃあ今度から激辛カレーのみだな」
「すみません、冗談です、嘘です、勘弁してください」
ファレンが必死に弁明している。ファレンは辛いものが苦手なのか、覚えておこう。
「うん、分かった事があったから説明するね。とりあえず仮定なんだけどアイと私達の世界の人間だと、魔力の質が違うんだと思う。私達が『気体』だとしたらアイは『液体』っていう感じだね。私達は圧縮されるけど、アイは圧縮されない。だから放出口を制限しても溜まってる水の圧力に耐えかねて放出口が壊れちゃったんだよ。ガスボンベとダムの差だね」
「つまり量より『質の差』が問題だったのか。同じと思って作ったから耐え切れずに壊れた訳だな」
ファレンの説明にウェスタが頷く。
「とりあえず筋力体力関係はアイ自身の魔力を使って制限する機能をつけて、魔法系は一旦魔力を魔石に変換したあとネックレスを発動媒体として使ってくれたら、自動的に消費量を調整してくれるように作ったよ。魔石は勝手にアイの余剰魔力を使って作るのでインベントリに溜まるようになってるから残量に注意してね」
これ着けてみてーとファレンからネックレスを渡される。着けてみるが壊れる事は無く数秒すると体が重くなった気がした。
「うん、壊れないし大丈夫そう。後ちょっと体が重くなったような感覚があったね。インベントリにも……うん、魔石がちゃんと出来てる」
「筋力体力もアイのさじ加減で調整出来るようにしたから戦闘時はもうちょっと動きやすくなると思って良いよ。最終的にはネックレスなしでも生活できるようになれば一番なんだけどね」
ネックレスが無くなったら生活できないとかマジで怖い。最後の一言には頷くしかなかった。
「問題なさそうなので残りの2個も修理と改良して来るねー」
「よろしくねー」
ファレンにお願いすると颯爽と出て行った。ウェスタ達と再度料理談議をしようかと思っていたがウェスタが先に口を開いた。
「いやー、アイに自慢のクリームシチューを食べさせられる思ったら、ファレンを呼びに行くのを忘れていた。誤魔化せてよかった」
結局忘れていたのかー……
不遇のファレンに合掌しながら、ようやく始まる異世界ライフに思いを馳せていた。




