異世界に行こう 4
「やはりここに居たか」
颯爽と現れたのはウェスタさんだった。
「この燭台以外に対象になりそうな物を思い出せなかったから追いかけてきた。これは流石に持ち出すとか無理だからなぁ、鋳潰しても良いって言いに来たんだ。どこかの国が貢物に贈ってきたが確か総重量2トン以上あったはずだ、色々作れるぞ」
「おー太っ腹ー」
と言ったファレンはウェスタに即ほっぺたを左右引っ張られていた。私も便乗してファレンのツインテールを上に引っ張る。しかし重さ2トンか。普通床抜けるよ……?
「いふぁいいふぁい」
「ん?何か言ったか、ファレン?」
「はにもはにも」
うん、ウェスタはお腹を気にしているようだ、禁句に追加しよう。年齢に関する話題も避けておいて正解だったようだ。
「潰して良いならとりあえず蝋燭台を一個貰っても良いかな?それくらいあれば結構良いのが出来ると思う」
「いや、もう細かくしてアイが全部もっていけばいい。こんなの処分もできないしアイなら色々面白い事になりそうだしな。普通のプレイヤーに渡す事ができるような素材でもないし、処分できて皆喜ぶから持って行ってくれ」
これだけ有ったら実用性皆無と言われた総オリハルコンの全身鎧が作れる!……いったい何人分作れと言うのかね
「じゃあ貰える物は貰っておくね。落ち着いたらお礼に皆の1/100フィギュアでも作るよ。でもこれどうやって細かくするの?移動させないと分解も出来ないと思うけど」
「そこはこの魔の神ファレン様の出番だよ!……火姉ぇがいないと無理だけど」
まあ見てて、とファレンがオリハルコンの燭台に触れる。そしてウェスタがファレンの肩に手を置き目を瞑る。あれ、フィギュアがスルーされた。神だから偶像系は普通に好みなのかな……?
「上から分解するからどんどんインベントリに入れていってね。視認して入れーって思ったら入るから」
「初めてだからゆっくり目でお願いね」
燭台の上の方からポロポロとインゴットになって落ちてくる。良く分からないが加工しているようだ。落ちる前にせっせと入れていくと、途中から悪乗りしたのかどんどんスピードが上がっていった。ドミノ倒しのようにスピードアップし、最後の台座は花のように螺旋状に広がる職人技だったので拍手をしてあげると照れていた。
「今結構すごい事が起きたけど一体何があったの?」
オリハルコンはそう簡単に加工出来るものではないのだ。しかもスピードが早いとなるとプレイヤーの技術とは違う可能性が高い。
「私は魔の神だからね。圧倒的な火力を持つ火姉ぇが居たら火の力を制御する事で簡単な事なら出来るよ」
「つまり火の神の力を魔法に変換してコントロールしたわけだ。ちなみに逆方向に火の力を使って溶かして冷やすまでやってるからな。さらに空気への断熱もか、熟練したらここまで出来るとは言え私には無理な芸当だな」
「すごいねぇファレン、魔の神様の面目躍如だねぇ」
ウェスタとファレンが説明してくれたので素直に誉める。私がやろうとしたら、設備があっても3日はかかると思う。
考えながらインベントリに入ったオリハルコンの量を確認すると10キロのインゴットが254個だった。約2.5トンだ。
「私からしたら全部入れる事が出来たアイの方が凄いよ。魔力次第で量が変わるって言っても、私じゃ1トンが限界かなぁ」
インベントリは重さ準拠だったのか。とりあえず2.5トンは入ると記憶しておこう。
「ファレンは魔法は凄いが、力は性質上他の神に負けるから仕方が無い。属性が無い分力が散らばりやすいのだろう」
つまり魔の神の魔は魔法の事だったのか。
「まあ仕方が無いと思えるほどに凄まじい制御だったのは間違いないよ。理解できなくて嫉妬もできないや」
「当然です、神ですから!」
ファレンが胸を張る。
「ああそういえば、オリハルコンは10Kgインゴットが254個になったのと、500gくらいの欠片かな。それにしてもあの燭台2.5トンもあったんだねぇ、見えないところは空洞にしておけばオリハルコンの量減らせたのに……」
中に何も入ってなかったから、わざわざオリハルコンの塊を作った理由は何かあるのだろう。皆目見当も付かないが。
「それにしてもやっぱりアイの魔力量は異常だよ。2.5トン入ってても魔力量が減ってそうでもないし、魔力圧も感じない。アイにしたらそれくらいは踏ん張る必要の無い重さという事なんだよ……こうして考えると緩衝材を作ってなかったら国の一つや二つは冗談抜きで滅んでただろうね……」
うん、さっきもヤバイの召喚してたから反論できない。
「まあこのオリハルコンがあれば抑えられるんでしょ?問題ない問題ない」
「まあ何事も無くてよかったというのは事実だな。無くしたら危ないから予備も作っておこうか。500gあれば結構良いのが二個作れるだろう」
250gのネックレスとか肩凝るよ!
「ファレン、結局何グラムくらいオリハルコンいるの?250gのオリハルコン製ネックレスとかそんな成金趣味無いんだけど……50gですらネックレスにしたらかなりの量あるよ」
「んー、とりあえず50、75、100gの3種類作ってみようか。火姉ぇ、そろそろシェスカ呼んでー」
少し待つとシェスカが来た。
「緊急という事だったので急いで来ましたがどうしましたか?あら、もうアイさんとファレンが戻ってきていたんですね。何か問題でも起こったんでしょうか…」
「アイがね、召喚魔法試したらベルゼブブとヨルムンガルドと変態を呼んで現実逃避してね。変態は手裏剣となって飛んでいって、岩がチョップで割れるくらい力を制御が出来ていなかったんだ。だからオリハルコンで封印具作るんだけど、その為に毛を三本貰っても良いかな?」
「ああそうだったんですね。てっきり魔力がすごかったので何かと戦いに行くものかとばかり思ってました。もちろん毛くらい魔力全開で通してお譲りしますよ」
ちょっとまったー!シェスカの髪とかそれだけで一財産できそうなんですが……と吃驚していると、三人分の髪の毛が集まった。それにしてもシェスカは一応気が付いていたのか。
「アイ、オリハルコン頂戴」
はい、とウェスタにインベントリからオリハルコン(500g)を渡すと、器用に50、75、100gに取り分け残りを返してくる。すぐに各オリハルコンの上に一人1本ずつの髪の毛を乗せ、力を込め始めると髪の毛は金属の中に消えていった。
「よし、完成。あとはこれでネックレスを作るだけだね。あとはアイ、任せたよ」
はい?
「炉も道具もなくオリハルコンのネックレスなんて作れないよ?!」
「アイならクラフト魔法の簡易製作でいけるいける」
「……まじでー?」
ファレンが太鼓判を押すので、取り合えず50gから加工する事にしてみる。ちょっとチェーンが細めのアクセサリーにタヌキ3匹Verを想像し魔法を発動させると、3分ほどかかったが現物が出来上がった。よし!
「一回着けて試してみて」
首に下げてみると『パキッ』っという音がしてチェーンが切れてしまった。
「(´;ω;`)ブワッ」
「オリハルコンが割れるとかおかしいよ…?次は75gと100gを加工してみて」
50gは割れてしまったので75gは鎖をすこし太く、100gは75gにタヌキを2匹追加したパターンにしてみた。
『ベキッ』『ベキッ』
「orz」
「これはなかなか興味深いなぁ。ちょっと色々調べたいのでこの後の事は調べ物が終わってからでも良いかな?」
落ち込む私にファレンが言ってくる。ヤバイ、これは趣味を超えた研究者の目だ。私は気少し気圧されながらも、とりあえず手伝える事が有ったら言ってねとだけ言って再度落ち込み直した。




