異世界に行こう 3
「何、あの毛皮を着た変態は……」
走馬灯のようにたぬ騎士との記憶が頭の中を巡っていく。楽しいことを思い出すことによっての自己防衛機能が働いたのかも知れない。ファレンがぶつぶつ考え事をしているが、気付きもせずに自分の殻に閉じ籠ってしまった。
「あ、思い出した。アイって多分『レジェンド』への適性が桁違いなんだよ。ゲームでも確か魔法暴発させてたよね。あれの召喚魔法バージョンが起こっているのかも?」
たぬ騎士とタヌキ人って似てるよね。だからこんな事になっただけでちゃんとこっちにもいるよね。犬じゃ駄目なんだよ、犬じゃ。二足歩行する犬はきもい。
「ア、アイ?おーい」
二足歩行の猫はまだ許せそうだけど、猫は資源採掘してくれなさそう。後ご飯に煩そうで陸軍にも大型猫が少数しか居なかったかも知れない。穴も掘れて細かいことを気にしないたぬ騎士は非常にかわいいのだ。
「あ、たぬ騎士だ」
「え、どこ?」
「戻って来た?」
「ん、どこに?」
「さっき、ゲームと同じ魔力暴走が起こってるのかもって言ってたのに無視されたんだよ」
ファレンはむすっとしている。そんなこと言ってたっけ?んー?ゲームの時の核撃魔法と同じ現象がここでも起こってる訳か。納得はしやすいね。
「ふむふむ」
「ちょっと試しに軽くそこの石を叩いてもらってもいい?」
ファレンが指を差した石を見る。直径一メートルはある。痛いのは嫌なので軽くチョップする。
「えい」
パンッと良い音を立てて三つに割れた。
「うん、このままじゃ生活すらできないねー」
「これは乗り突っ込みで人が死ぬレベルだよ!素手で薪割りも楽に出来そうな位だし、ファレンも少しは深刻そうにして欲しい……でもこれでさっきの変態が変態手裏剣になった疑問が溶けたね」
全力で殴ったのに原形留めてたから、実はかなり強いのかもしれないなぁ。二度と呼ばないけど。
「深刻に面白がってます!」
「さっきの仕返しか!」
私は『よよよ』としなを作って泣き真似をする。
「多分レガシーと同じ原理で対策は出来ると思う。火姉ぇにお願いしないといけないけど」
「なら直ぐに戻ろう。テンプレが起こるとその人ごと倒してしまいそうで怖い。どうやって戻るの?」
「ポータルの魔法で戻れるよ。ここには火姉ぇにまた連れてきて貰おっか」
ファレン先生が教えてくれる。善は急げだ、さくっと戻ろう。
「何やら早いご帰還だな、一体どうしたんだ」
「火姉ぇ、岩場じゃなくて殆ど砂場になってたよ」
ウェスタの誰何の声にファレンがばらす。それは封印された事実なので何も言わない。
「ああ、地形が変わっていたのか。新しい地図を貰わないといけないな」
「ファレン、それより物凄く重要な事があると思うんだけども」
ファレンには悪いが話を変える。
「アイがね、召喚魔法試したらベルゼブブとヨルムンガルドと変態を呼んで現実逃避してた。変態は手裏剣となって飛んでいって、岩がチョップで割れるくらい力の制御が出来てない」
うん、間違ってないけどブレないばらしスタイル。
「良く分からないが大体分かった。そういえばゲームでも色々吹き飛ばしていたものなぁ。偶然じゃなかったのか。ファレン、私だけの力で制御出来るか?」
「確実に無理かな。コントロールするには7神、レガシーと同レベルの調整が要りそう。今いる3神なら封印に特化すれば、世界を滅ぼさずに済む程度には出来るかも?」
世界は滅びの危機を免れる事ができるのか!
「ちょっとシェスカに協力してもらって色々試すとしよう。封印具は装飾具だな、外せないとなると……首輪か」
「異議あり!異議あり!流石に首輪は断固拒否します!」
ウェスタがひどい事を言う。腕輪とかアンクレットとか色々選択肢あったはずだよね?首でも何故ネックレスじゃないのかと……
「でも寝る時も着けてないと、寝返りでベッドが砕けるよ?」
「それは切実過ぎる問題だけど、肌身離さず持ってないといけない?例えばポケットの中とか。首輪はお風呂の時に大変そうだよ。ネックレスならお風呂もぎりぎりいけるし、寝るときはポケットにでも入れておけば何とかなると思うんだけど」
お風呂大事お風呂大事。
「頑張れば半径1メートルくらいなら大丈夫かなぁ。けど結構大きなネックレスじゃ無いとダメかも。大きさも範囲も素材にも拠るなぁ。火姉ぇ、良い素材って何かあったっけ」
「ミスリルじゃ足りないよなぁ、オリハルコン以上の素材か」
いきなり伝説級ですが大丈夫か!
「オリハルコンなら物置に転がってなかったっけ。そうだオリハルコンの燭台だ。あんなの貰ってもここじゃ使わないからって、確か放置されてるのがあるはずだよ」
大丈夫だ、問題ない。
「ちょっと取ってくるね」
「あ、着いて行くよ」
ファレンが行こうとするがオリハルコンは結構重いのだ。私も立ち上がり運ぶのを手伝う事にする。
「じゃあ手伝ってもらおっか。火姉ぇは机の上片付けておいてねー」
落すなよー、と後ろから声が聞こえてくる。フラグかな?
少し歩くと物置に使われていると思われる部屋に着いた。ここは流石に暗くて手狭なので二人一緒に入るのは難しそうだ。
「アイ、ちょっと見てくるから待っててねー」
「はーい」
と生返事を返す。一体なにが有るのかは興味津々だが、今は邪魔をする訳にはいかないので我慢だ。燭台って結構大きいはずだよね。仏壇サイズでも十分ネックレス作れるけど、テーブルに置くようなサイズだったら他にも色々作れるかもしれないなーと考えていると中から声がした。
「アイ、ちょっと来れるー?」
「じゃあ入るねー」
どうやら結構奥に居るようだ。中に入るが数メートルで既に迷路だ、どっちに行けば良いのか分からなくなった。ちょっと迎えに来てーとファレンを呼ぶ。そして合流後燭台の場所に進んでいった。変な物がいろいろあったが一番変な物が目的地にあった。
燭台とは、ロウソクを立てるための台である。20本くらい蝋燭を立てられて総オリハルコン製で、力強いライオンの像が台座に彫られていたとしても、あくまで燭台なのだ。何故これをオリハルコンで作ろうと思ったのか、製作者に問い詰めたい。
「これ、高さ2メートル超えてない?重量1トンとか超えてそうで怖いんだけど」
「……超えてるねぇ」
どうやって持って行けと、落す落とさない以前の問題だよこれ。私が持ち上げてもびくともしない。どうしたものかと考えていると、誰かが入ってきた音がした。




