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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
前章 レガシー編
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ポーション事件 2

3/9 改定しました。

 


 私は知らなかったが混乱の前兆は6月中旬頃から出ていたらしい。


 最初に表に出てきたのはポーションの価格のようだった。どうやら一部のプレイヤーが談合をした疑惑があるほど素材の買取値段はそのままで、作ったポーションの値段が上がるという出来事があったらしい。前衛プレイヤーにとっては生命線とも言うべきポーションが、2割も値上がりしたのだ。


 もちろん値段をあげた一部プレイヤーは当然顰蹙を買ったが、ポーションを作る事が出来るプレイヤーは他にも居るのですぐに値段が下がるだろうと予測されていた。だがそんなに現実は甘くなかった。


 今までの値段でポーションを売っていたプレイヤーは売れ行きが伸びるので当初喜んでいた。作れば作るほど売れるのだから喜ぶのも無理は無いだろう。しかしポーションだけを作って売れるプレイヤーは少ない。メイン職のレベル上げもしないといけないし、友達との付き合いもあるだろう。『仕事』であったなら無理をするかもしれないが、プレイヤーは大半が学生であり、あくまで『遊び』なのだ。


 作成できる人数をすぐに増やす事が出来れば、まだ傷は浅かったかもしれない。しかし有用な高品質のポーションを作る事ができるのは、4ヶ月も作り続けていた者達だけなのだ。急に生産量を増やす事などできはしない。


 消費者としては品質が同じなら安いものが欲しいと言うのが当然だ。安い店を狙って買いに行く。お客さんの為にポーションを安く売っていたプレイヤーも当初は頑張っていたが、買えなかった心無いプレイヤーから『何故もっと作れないのか』『今すぐ必要だから作ってくれ!』等言われ、どんどん追い詰められていく。最終的に転売や買占めが横行し、露天を畳むプレイヤーが増えていった。


 作るプレイヤーが減るともちろん値段が上がる。露天を畳んだプレイヤーも囲われたギルドや知り合い相手に作る事はあったが、市場には流さなくなっていた。7月中旬には一時期の約2倍の値段になっていたという。


 この頃、一部の聡いプレイヤーはポーションを作る事が出来るプレイヤーの囲い込みを急いでいた。かなり破格な対応を提示したギルドも多かったようだ。この時にギルドに入る事のできたプレイヤーは、まだ幸運だっただろう。




 8月初頭、知り合いのプレイヤーから連絡が入った。内容としては街で製造を行っているクラフターの保護だった。彼女は小さな建築を大量に作るタイプであったため、自分が建築で使う為の色々な小物を作るプレイヤーや彼女に建築を頼むプレイヤーと繋がりが合ったのだ。


 私も夏休みに入ってから特に不穏な空気があると話は聞いていたが、とうとう戦闘系プレイヤーの不満が爆発してしまったらしい。せっかく長い時間遊ぶ事ができるのに回復アイテムが買えないプレイヤーや、狩場のランクを下げて効率が悪い狩りをするしかないプレイヤーから、不満が出るのは仕方がないと思っていた。


 だがその不満を持ったプレイヤーが他のプレイヤーに嫌がらせをしてくると言うのは許せなかった。


 細かく話を聞くと、最初は常時高い金額で置いていたプレイヤーだけが中傷に晒されていたが、どんどん範囲が拡大していったらしい。


「こいつは今まで俺達の金を搾取してきた!PK(プレイヤーキル)して取り戻せ!」と言う内容が「作らなくなった奴らも同罪だ!」となり、慌てていたらいつの間にか「マージンを取っているクラフター全てが悪だ!」と雪崩のように事態が推移してしまったらしい。

 こうなると一プレイヤーにはどうしようも無く、ほとぼりが冷めるまで他のプレイヤーと距離を取りたいので場所を借りたいと言う話だった。


 最後は本当に暴論である。しかしこの風潮を後押ししたのがPKer(プレイヤーキラー)の存在だ。当初PKをするのはロールプレイを楽しむ一部プレイヤーのみだったが、クラフター職のプレイヤーに対し逆恨みではあるとは言え、多くの『怒り』を持つプレイヤーが集まってしまった。


 クラフターからアイテムを奪う事を正義とした、ロールプレイというある意味信念を持たない烏合の衆は、正義の名を掲げたお金稼ぎの為だけの集団となってしまう。


 本人達は認めないだろうが、これでは正義を掲げたテロリストだ。

 

 この出来事でお金や良い装備を持つと思われる『全てのクラフター』が狙われる対象となってしまった。一方、このやり方に怒り狂ったのは生粋のPKerだ。彼らは団結しPkerキラーとして活動していく事となる。


 この暴論な風潮が強くなってくるとPKを専門とするプレイヤーで無くともクラフターを見つけるとPKする人物が多くなり、それを咎める人も少なく逆に煽るようになっていた。


 そしてクラフターだとばれている人物と狩りをするだけで、纏めて狙われる対象となり中傷に晒された。


 だんだんクラフターとパーティを組む人は減っていき、居場所を失った多数の野良のクラフターと一部プレイヤーは『レガシー』を去ってしまうという結果になってしまったのだ。





 私に知り合いのプレイヤーから連絡があったのは、PKが始まるのとほぼ同時期だったそうだ。事態が緊迫しているのが分からないほど空気が読めない訳ではなかったので、即協力を約束した。


 砦に来るのも『ポータル』を使う事が出来る人にお願いし、極力秘密裏に行ってもらった。


 夏休みが終わる8月末までの段階で保護できたプレイヤーは、協力者を含め300人を超えていた。皆に街の拡張を手伝って貰っていた事でなんとか収容することができたが、保護できた数の何倍ものプレイヤーが去ってしまった事を考えると、申し訳ない気持ちになってしまう。幸いにも皆が外に危機感を持っていた様で、この砦のことがばれる事は無かった。





 しかし多数のプレイヤーが去ってしまった事すら『最悪の結果』では無かったのだ。





 9月末『レガシー』は一旦サービスを停止する。


 その理由はニュースによって衝撃をもって知らされた。


『自殺』と『殺人』という最悪の結果にまで行き着いてしまったのだ。


 新学期が始まり、今回のPK騒動があったことで引退したクラフターに、リアルでの集団による追求(イジメ)が始まったのだ。ゲーム内での『怒り』は現実での『暴行』となり、追い詰められた生徒は自殺してしまう。通常のイジメは行う者にとっては遊びの延長であるが、今回の少年らの行動は『怒り』である。逃げ場が無い生徒にとって地獄であった事は想像に難くない。


 さらに酷い事にこの自殺の原因がイジメであることを、学校が把握出来ていなかった。元々仲が良かった間柄であった上、余りにも短期間での自殺となってしまったからだ。この事が事態の発覚を遅らせてしまった。



 次はギルドに囲われていたクラフターが犠牲となった。



 この女性クラフターはブログ等も書いている有名クラフターだった。ゲーム内ではギルドメンバーに守られ、守られた分皆の役に立ちたいという凄く善良なプレイヤーで、非常に人気が高かった。


 しかしゲーム内で『狩る』事の出来ない鬱憤が、一部プレイヤーを暴挙に走らせた。


 警察の事情聴取によると、最初は単なる脅しのつもりだったらしい。今までの情報からリアルを割れば、怖くなってゲームを辞めるだろう、と。辞めさせる事で鬱憤を晴らそうとしたらしい。


 しかし彼女は辞めなかった。警察にも相談したことで安心し、そのままプレイを続けていた。休止だけでもしていれば……結果は変わったかもしれない。


 怒り狂った犯人は目的も忘れて彼女を刺殺してしまった。


 この犯人の事情聴取によって事態は発覚。先の自殺するという結果となってしまった生徒の保護者からの通報もあって、運営は一旦サービスの停止を決めたのだった。



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