黒歴史の発表会 5
3/9改稿しました。
私は余りにスケールが大きすぎる話に頭が真っ白になった。
「ここまでで何か質問はあるか?」
ウェスタさんが聞いてくる。ファレンちゃんが後ろから抱き着いて来たが反応する余裕が無い。とうとう物理的に捕獲されたようだ。
「それ、本当に私がやった事なんですか?」
そりゃ疑問に思うよね。もし個人でそんな事が可能なのだとしたら、世界は奇跡で溢れていると思う。
「わからん。少なくとも私を含め普通の神には不可能だと言っておこう。現場をこの目で見ていれば詳しい事が分かったのかも知れないが、状況証拠から考えたら否定する材料は出てこなかったんだろうし、する必要もなかったんだろうな」
胃がキリキリする。まあ第三者視点からみると、そういう風に考えてしまってもおかしくは無んだろう。
「諦めるしかないと思うよ」
デスヨネー。性格的にそんな世界に戻ったら胃が持たない。確実に早死にするだろう。ファレンちゃんの言葉に諦めたようにため息をつくと、魔神様から開放されたので今度は私が後ろから捕まえた。愛神様からも逃げられないのだ。
とりあえずすぐに戻るという選択肢は地平線の彼方に投げ捨てられた。当然だろう。となると、今後の方針をどうするかという新しい問題が出てくる。聞いたのが凄く前な気がするが、『死ぬのとここに来るように』設定されていたという事は何か用事があったということだろう。先にそっちを聞いてみる事にする。
「元の世界に戻れと言われても全力で拒否する事を先に宣言しておくけど、私がここに来たと言う事は何か用事があったんだよね?今後どうするかを考えないといけないので、それを教えてもらってもいいかな?」
先に宣言しておいた。
「頭の回転が速いようで大変結構だ。少しは落ち込むと思っていたんだが、取り越し苦労だったようだな」
ウェスタさんの言葉にファレンちゃんが頷く。抱きしめたまま後頭部に頬ずりしてあげた。うりうり。平静で居られるのもこの子のおかげと言う所が大きいだろう。
「では、ここからが本題だ。私たち神の側の説明をさせてもらおう。」
と言う事はここまでが前置きだったのか、嫌な前置きもあったものだ。
「まず、謝罪をさせてもらう。貴方の二つ名、『災厄の英雄』には私達も関係している。この時点では細かい話は省くが、もともと『レジェンド』は私達の世界の神になる存在のスカウト用に光の神が世界を渡って作ったものなのだ。その為人間のプログラマーでは分かりえないブラックボックスが山ほどあったようでな、それを解明する事を目的にあの事件が発生したんだ」
光の神様なにやってんのぉぉぉーーー!?
「ぎぶーーー!ギブーーーーー!!」
ファレンちゃんがぺしぺし叩いてくる。タップか。ちょっと抱き『締め』てしまっていたようだ。力を緩めるが逃がさない。やっぱり不思議だ。この感触というか雰囲気というか、この子他人という気がしないんだよね。全く覚えが無いんだけど。
「すまなかったな」
ウェスタさんが頭を下げて謝罪してくる。『災厄の英雄』、『救国の英雄』を超えて最大宗教のご本尊にされてしまった私は、すでに悟りの境地である。許すも何も、『災厄の英雄』になってなかったら隕石で死んでいた可能性もあるのだ。隕石の軌道変更が私の意志であった証拠はどこにも無い。
「頭を下げる必要はないよ。悪いのは事件を画策した人間だし、神々の理由もいろいろあったんでしょ?光の神様が人体実験のために計画したとかだったら流石に抗議するけど、そこまで了見の狭い人間じゃないよ」
誠意には誠意で返す。その程度の事は出来る人間のつもりだ。神だけど。体は神様、頭脳は人間だ。
「そう言ってもらえるとあり難い。貴方には知る権利があると思うので、私が知りうる事を全て説明させて貰いたいが構わないだろうか?」
今後のためにも聞いておく必要があるのだ。望むところである。
「よろしくお願いします」
頭を下げて先をお願いする。
「分かった。まず私達の守護する世界のシステムは貴方達の言うところの中世を維持していると言っていい。魔法の概念がある分、文化の成長に差が出ているのだと思う。今居るこの場所はどの世界とも違う……そうだな、不思議空間だと納得してくれていい。」
すでに説明を放棄したようである。魔法があるのかと驚いたが、光の神様が作った『レジェンド』にも魔法はあったのだから驚くには値しないと考え直す。
「先ほど神候補を集める為に光の神が行動していたと説明したが、その理由として私達の世界には邪神がいる。貴方達の知識ではそこの魔の神や闇の神とかと混同するかもしれないが全くの別物だ。安定や調整を主とするのが我々神だが、邪神は破壊衝動を主としている」
「名誉毀損だー!邪神に断固抗議するー!!」
うんうん。そんな存在と同一視は絶対しないから大丈夫だよ。
「我々もかなり思う所はあるのだが、多数派の我々がかなり劣勢だ。理由としては力の性質の違いだな。分かりやすく言うと、重火器を持ってるテロリストと核ミサイルしかもっていない政治家との戦いだ。交渉も行えないし、まともに戦える相手ではない」
凄く物騒な例えが来た。テロリストを倒せても、その余波はテロリスト以上の危機となってしまう感じか。邪神からすると核のスイッチを押させるのが目的なのかもしれないな。
「一発で終わるなら、コラテラルダメージ……やむを得ない犠牲として納得する事もできたんだが、曲りなりにも神というか破滅願望や破壊衝動などの信仰心が集まると復活してしまうんだ」
それは信仰心と言っていいんだろうか?
「光ネェが過去にぶっ放したんだよ。1年後には復活してた」
光の神様どんだけなんですか。そしてファレンちゃんは、ばらして行くスタイルらしい。
「ああ……あれは酷かったな。10秒間真昼間に太陽が消えて、その熱量を利用したレーザー攻撃。世界の終わりかと騒ぎになって、沈めるのにどれだけ苦労したか……」
本当にご苦労様です。全世界を混乱に陥れた光の神とか酷すぎる。もしかしてその混乱のせいで邪神速攻復活したんじゃないかと勘ぐってしまう。
「話が少し横道にそれたがまだ厄介な事があってな。邪神にも信徒が居て、自分の『祝福』を授けているらしい。もちろん我々にも信徒はいるが、祝福に耐えられる人物はほとんど居ない。各時代に一人いればいい方だな。人数が違いすぎる上に相手はどんどん沸いて来る、イメージは黒いアレだ」
1匹いたら30匹居ると思えというアレか。
「我々が直接見ればある程度の判別は出来るが、ぱっと見の外見で見分けが付かないのも性質が悪い」
ゴキ○リホイホイを所望する!
「そういう相手に対抗する為に、我々の力に耐えうる存在を探す事が急務となった。白羽の矢が立った平行世界の地球は、魔法が無い状態で発展してきたからか精神の耐性値が非常に高い。が、逆に肉体の耐性値が高くないためワンクッション置く必要があった。その緩衝を目的として『レジェンド』が作られた。『レジェンド』で使っていた肉体をそのままこの世界で使えるようにしようとした訳だ」
でもその計画は開幕で頓挫したと。ん……?『レジェンド』はそのまま別の会社が引き継いでいて、『レガシー』という人気タイトルになってたけど、まさか…。
「おや、顔が青ざめているよ。ということは気付いたのかな。多分その想像は間違っていない。光姉さんだけに任せておける状況ではなくなったのでね。動ける神ほぼ総動員で『レガシー』は監視していたんだよ。『レジェンド』であの事件を起こしたプログラマーも邪神の影響下にあった可能性が高いと報告を受けていたから、万全を期していたんだ」
「そして、レガシーのキャラクター『アイン』の保護を目的として監視していたのが私だったのさ!ちなみに大人気すぎて愛の事を知らない神はこの世界にはいないよ。特に『大魔王たぬき』事件は『レガシー』にいる全神が観せ…見守ってたからね」
は……?




