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その綺麗な顔をぼこぼこにしてやる

誤字、脱字などありましたらすいません。お手数かけますが報告していただけるととても助かります。

 「これはどうしろと言うんだ」

 「ヒント、ボールは投げるもの」

 「……あの網に入れろということか」

 

 察しが良くて助かる。セドリックはフリースローゲームの前でバスケットボールを奇妙なものを見る目で弄んでいた。向こうに球技はあったのかと聞けばバスケとアメフトを混ぜたようなのがあるらしい。Y字型のゴールを立てて、ボールを投げ通すのだという。ただそれ以外はほとんどルールが決まっておらず、目潰しや急所狙い、武器防具禁止以外のことは大体なんでもありらしい。レフェリーのような存在も居ないので無法地帯だ。


 「……ぷっ」

 「黙れ」


 セドリック先ほど言ったスポーツほとんどやったことがないらしい。だからだろうかこの微妙なコントロールの悪さは。

 

 「いやーごめんごめんただちょっとじわじわ来るっていうかぶっふ」

 「貴様の顔面にシュートしてやろうか」

 「止めてよ騎士様、民間人守ってよ……ふふぶふっ」


 また枠に当たって跳ね返った。さっきから一つも入ってない。イケメン騎士の弱点見つけたり。


 「それだけ笑うならお前がやってみろ」

 「へっへっへこれでも昔バスケクラブ入ってたんですぜ……」


 補欠だったがな!


 「なんだその口調は……まあいい。どうせお前なんかにできるはずはないだろう」

 「私の何を知っているというのだねセドリック君。舐めてもらっちゃ困るな!」


 100円を投下し、ボールを構える。いざ、参らん。




 「……おい現地人。何が舐めてもらっちゃ困るんだ?」

 「ブランクがあったんだよ!」


 小さく嘲笑う声が聞こえた。後でその綺麗な顔をぼこぼこにしてやる。一本背負い以外に技は持っていないけど。そんなこんなでタイムリミットまであと3秒。未だ一つも入っていない。これでは異世界からやってきた騎士と同点だ。日本人としてそれはマズイ。でももう時間が無い。ああ、畜生。最後一本。やけくそで投げた瞬間、綺麗な弧を描いて、ゴールにストンッと落ちていった。


 「うおおおおあああああよっしゃああー!!!」

 「……」


 そして鳴り響くブザー。やった。やった。拳を突き上げた。何という爽快感。振り返れば苦虫を噛みつぶしたような顔。ざまあみやがれ。口角が上がっていく。たった一回されど一回。ここまで熱くなるとは思わなかった。

 

 「ふっふっふっふ……どうだセドリック見たか!!」

 「……次だ」

 「はい?」

 「次だと言っている!次はなんだ!」


 セドリックも悔しいらしい。よしこうなったらとことんやってやる。


 ゴルフゲームでバトルして、パンチングマシーンで騎士の本気を見て、シューティングゲームでまたセドリックがコントロールの悪さを発揮した。因みに私の数少ない特技がこれなので、これは私が圧勝させてもらう。カーレースで二人してスリップし、プリクラででかくなりすぎた目に主に私が大爆笑した。セドリックも日本のハイスペックなゲーム機になれてきた頃。私達は出口のゲートをくぐったのだった。


 お昼も過ぎて2時間半。私達は朝から時間をほぼゲーセンで潰した。

 



 「あー、遊んだ遊んだ」

 「鍛錬よりずっと体力を消耗するのだな……」

 「よし、じゃあ池田屋行って帰るかー」


 「いけだ……?」

 「あー服屋だよ。やっすいんだ。ちょっとゲーセンで浪費しすぎたっぽくってさー」

 「忘れてたわけではなかったのか」

 「これでも記憶力には自信あるんだよ。君こそ忘れてたんじゃないの」

 「誰が忘れるか」


 池田屋には彼氏持ちの知り合いが働いているので、少し男との同居について助言を貰おうかと思ったが、今日はシフトがずらされていたらしいので、また今度、ということになった。

 結局、男物の下着とズボン、ラフなシャツ。ベルトとあとは適当にパーカーやらカーディガンやら。春なのでこんなものでいいだろうか。財布の中身はもうすかすかだ。これは流石に申し訳ないので、ゲーセン分は自腹切って戻しておくことになるだろう。結局それなりの痛手だったが、これから家賃半額になるのだと気を取り直す。


 それなりに大きくなった紙袋を持って、人の少なくなった道を二人並んで歩いた。既に空は紅く染まって、オレンジジュースの中に飛び込んだみたいだ。


 「それで、どーだったよセドリック」

 「どう、とはなんだ」

 「楽しかったかい?ってことさ」

 「……」


 答えは返ってこない。今まで否定してきたものにここまで感情を昂ぶらさせられるとは思って無かったんだろう。噛み締められた唇とつり上がった眉に迷いが見えた。どう答えるべきか。本当は楽しかったんだろう。朝見たものとは違う、心から感情を前に押し出した表情。あれが楽、の感情以外と言ってなんと言おう。決して笑ってた訳じゃ無いけれど、伝わってきていた。それでも今まで他を否定することで自分を保たせていたのだ。ここで楽しかったと言ってしまえば今までの自分を全て否定することになるかもしれない。私はセドリックじゃない。異世界人じゃない。騎士じゃない。それでも少しくらいは当たってるんじゃないだろうか。

 まだ、早かっただろうか。


 「……、まあいいや。一日で全部分かって貰おうとは思って無いよ。まだ時間はあるんだ。私が死ぬ前に君に絶対楽しかったって言わせてやるから」

 「別に、頼んでない」

 「私がしたいだけだしね。っつーことで」


 にっと笑って手を差し出す。


「なんだこれは」

「これからよろしくの握手。ほら」

「……ふん」


 それでもちゃんと握ってくれるあたり、根は素直なんだろう。



セドリックのモチーフは狼ですが、猫のような犬、のつもりで書いてます。ゲーセンで熱くなったときってなんだか変なテンションになりませんか?なりますよね?

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