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はじめてのおでかけ

大家さんの部屋に行ったときは廊下とか経由してなかったのでノーカンです。

「お前がそのような貧相な格好で男のようにしているのが悪い」

「へえへえ、悪いけど悪かったな体型なんざ変えれないっての」

 

言いたいが私の体型は普通、より少し残念なくらいってだけで平均とさしたる差はない。きっとこいつの居た世界には爆発的な体型のお嬢様方が多かったのだろう。もぎとってしまいたい。

結局。あの後大家さんの元に私が行ったが、責任あるからとお金と衣服を貸してくれた。ただ、、いつかは自分で出来るようになって欲しいとのことだ。出来るように、とは勿論金銭面のことだろう。別に担保なんてと言われたが剣は預かって貰った。自分の部屋に置いてあっても困るし、大家さん自身すごく好奇心が擽られているのが伝わってきたからだ。何に使うのかは聞かないでおいたけども。


「じゃあこれから外でるけど、余計なことしないでよ」

「そんなことするはずがないだろう」


曖昧に言った私も悪いが絶対何かやらかしそうだ。大家さんに付き添って貰えばナンテコト無かったのだろうけど残念なことに都合が悪いと言われてしまった。いざというときには私がフォローしなくてはならないが不安だ。少々ことを急きすぎただろうか、明日にすべきだっただろうか。


「おい、何を唸っている」

「……何でもない」


とはいえ言ってしまったものは仕方無い。それにどんなに後回しにしたって結局彼に外の世界を見て貰う必要はあるだろう。ならば、早い内に理解して貰った方がいいのもまた事実か。


「とりあえずこれに着替えて」

「……珍妙な着物だな」

「良いから早く」


セドリックを脱衣所に押し込み、ソファに身を投げた。結局のところ、やるしかないのだろう。言葉に責任はつきものだ。


「用意するか……」


女は度胸だ。

こうなったらとことんやってやる。




「それじゃ、行くよ。絶対そのフード外さないでよね」

「ふーど、とはこの部分のことか」


正解にあたる部分を摘んで揺らしているこういう構造の衣服自体がないらしく落ち着かない様子だ。

イケメンは何を着てもイケメンらしい。心から腹が立つ、張り倒してしまいたい。大家さんのカジュアルなパーカーを纏ったセドリックは息を飲んでしまうような気品のある、海外の俳優のようだった。着ているものは量販店の安物だというのに、立ち姿だけで絵になる。映画のワンシーンのようだった。

顔はできるだけ隠していた方が良いだろう。それでも背が高いので十分目立つが。


「いざ、出陣」

「……戦ではないのだろう」

「気持ちが大事なんだって」


変な所で真面目だ。

ドアを開けて、廊下を歩く。その間ずっと後ろについてくる。カルガモの雛のようだと言えば可愛らしいが、威圧感がある。ダチョウ──よりも派手だ。孔雀が背後に居るようなイメージだ。蹴り飛ばされやしないだろうが落ち着かない。

でもそれは重厚な扉が自ら開き、鉄の箱に乗り込んで下に降りる不思議な魔法具にビビる姿で少しだけ払拭された。ありがとう、エレベーター。




 「……、何ということだ……」

 

 無機質な四角い塔が立ち並び、色とりどりの鉄の塊が馬より早く駆け抜ける。空を見上げれば黒い糸が交差している。止まっていた鳥が何処かへ飛んでいった。道は平らで歩きやすく、あちらこちらに身の丈ほどの硝子が張ってある。


「……これ全部、君の言う庶民が自分達の力で作ったんだよ」

 「……」

 「捨てたもんじゃないと思わない?」

「……まだ、認めてないからな」

「面倒くさいなあ」


これで少しは庶民魂ってものを見せつけられたら良いのだけれど。それにまだプランは考えてある。

準備してる最中に私が必要だと思った事。それは彼の中のカーストをぶち壊すことだ。この世界に御貴族様なんて居ない。それでも彼の中の身分意識は根強い。彼の体はもう元の世界に戻れない。彼はもうこの世界で生きる道しか無いのだ。この世界で生きるためにはその身分意識というものは障害となるだろう。早い段階で取り払わなければなるまい。

 その第一段階として、この世界の庶民のすごさを知って貰おう、と思ったのだが。


 「これほどの力を持っていたとして、庶民は庶民だろう」


 根深い。

 それでも背負うと決めてしまったのだ。開き直った庶民を舐めないでほしい。


「今のうちに言ってるが良いよ。私は君をこの世界で生かすって決めたんだから。その身分絶対主義なんてすぐにでもぶち壊してやんよ」

「さっきから……この世界の人間とはお前のように変なやつしか居ないのか」

「人による」


とにかく服屋へ向かわなければ。私はセドリックの手を強引に取った。しかし次の瞬間、強く振り払われた。通行人の視線が集中する。


「っ何をするんだ!」

「いや、人多いし。迷子になるでしょう」

「幼子ではないんだぞ」

「うるさいよこっちに来て一日目の癖に。ここでの生活歴なんざ赤子同然だっての。頼れるうちに頼っておきなさい。後から分かんなくなっても洒落にならないんだよ」

「黙れ。俺に口出しするな」

 「はいほら氷漬けにされたくなかったら行くよ」


 一々五月蠅い騎士の腕を掴み、歩みを進める。氷漬けが効いたのか今度は大人しかった。


早く…早く服を買わせたい。セドリックと大家さんの体格差はあまりありません。もしセドリックがムキムキとかだったら……頼子はどうしてたんでしょう。

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