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一日目が始まりました

やっと同居までいきました(いってない)

 「改めて見るとあり得ない部屋だな」


数ある文明の利器に困惑しているようだ。

 ただビビっていただけのはずだが、サポートも含め家賃だから聞いてくれても構わないと言ったら途端にこれだ。気持ちは分かるが後悔した。

 因みに聞いてみると彼の世界では魔法はあるけど使えるものが少なく重宝され、魔法具に至っては一部の貴族や王族しか使用できないらしい。あと硝子も大きいものは高級品だそう。彼にとって、家電(魔法具)まみれの部屋に日の光がたくさん入ってくる窓硝子は王城でも見たことがないと言った。

 王城に入れるほどの身分と聞いてこっちも驚く。でも態度を改めるつもりはない。


 「庶民と言っていなかったか」

 「庶民だよ。この世界の生活水準が高いってだけ」

 「……俺は俺が居た国だけが、頂点にあると思っていたが……どうやらそういうわけでもないらしいな」


 ちょっと落ち込んでいる。とりあえず冷蔵庫からプリンを差し出してみたら、その冷たさと未知の容器に狼狽していた。

 

 結局、彼に日本のことを教える教師としてしばらくの間一緒に住むことになってしまった。最初はどうだろうと思っていたがこの男。


 「何故お前のような下賤な者に欲情する必要がある」


 こいつ私のことをドブネズミか何かとしてしか見ていない。大家さんの奴隷か小間使いだと認識したようで、大家さんが居なくなって以降私を見下すような状態だ。ちょっとウザい。まあどっちにせよこれなら特に何が起こるでも無いだろうし、いざとなれば大家さんから貰ったお守りがある。私は胸元に揺れる水色の花を摘んだ。

 このネックレスは魔石という魔力の込められた石でできているそうで、私が危機に陥ったとき、自動的に魔法が発動して相手を氷像にしてしまうのだそう。見た目も可愛い護身グッズだ。無理に外そうとしても外れないようにできていて、ちゃんと私が「外れなさい」と命令しないといけない。ただ使い捨てで一回魔法が発動すると砕け散ってしまうと言っていた。ちょっと勿体ない。


 「おいヨリコ、これの使い方を教えろ」

 「はいはい。これはこれのバーを上げるんだよ。そうすると水が出て来る」

 「……井戸が手元にある状態か」

 「まあそんな感じ」


 物覚えはいいので楽だ。

 上から目線なのはもう諦めつつある。とりあえずは彼に常識なるものを教えつつ、この意味不明な一日目を終えなくてはならない。しかしまだ時計の針は2時を指している。目を瞑って月が落ちるのを待つには早すぎる。家の中の魔法具についてはあらかた教えてしまった。これからどうしよう。

 

 「どうしたんだ」


 うんうん唸っていると睨みつけられた。単に彼の目つきが悪いだけかもしれないが。そう思ってふと、彼が鎧に身を包んでいることに気がついてしまった。真っ白な金属が金と青の装飾で覆われている。腰には煌びやかな銃刀法違反が鎮座している。これは速やかに対処すべきだ。だけども、私には財布に余裕がない。少なくとも異世界からやってきたという男との同居を許すくらいには。


 「そうだ、大家さんにお金をどうにかしてもらおう」

 「借金するというのか」

 「そう、君が」

 「はあ?」

 「言っとくけどね、この世界では布の服が普通で、そんな金ぴか着られても下手したら通報されるし、剣なんて持ち歩いてたら牢屋行きなの。だからまず服をどうにかしないといけない」

 「剣を持ち歩いてなくてどうして身を守れるんだ魔獣や敵兵が居たらどうする気だ」

 「基本平和なんだよ。敵国が攻めて来ることもマジュウが来ることもないの!不審者扱いされて逮捕されたく無ければ言うことを聞け!郷においては郷に従え!」

 「……俺に命令する気か?」


 金の瞳に不穏な色が宿る。流石は元騎士。一般庶民はかなり怯んだ。だけどここで折れるわけにはいかない。コイツの世話を含めて家賃半額。何よりコイツの騒動で魔法やら何やら露見して問題が起こってしまってはとても面倒くさい。


 「確かにね?畏まられるよりかは良いって言ったけどね?そんな態度だと教える側も面倒なんだわ。もうちょい柔軟に対応してくれない?」

 「貴様っ……」


 一触即発。しかも相手は戦闘のプロ。だけど私には最終兵器がついている。


 「大家さん」


 ピクリ


 「レイさーん」

 「止めろ!」

 「じゃあちゃんとこっちの言うことも聞くの」

 「……」

 「レイさん」

 「……っわ、かった」


 あの話し合いの後。大家さんことレイさんはセドリックに何か話していた。と言ってもそのとき私は退出させられていたので、らしい、ということしか分からない。


 が。


 「あの方は……魔術師なんかではない。もっと、力を持った恐ろしい何かだ……」

 「……マジで何言われたの」


 それ以降のセドリックの怯えようったらない。元の狼のような威厳が消えたわけではないがやはり弱弱しい。レイさんは、彼は庶民と見なした相手に対しかなり高慢なところがあると言っていた。それは私の鈍い頭でもよく分かる。しかしその後


「何かあったら僕の名前を出せば良い」


と言って妖しく笑った。一体何をした。

 実際助かっては居るが、うっかり世界線越えさせた相手にそんなことしていいのかなとも思ってしまうどっちつかずな自分が居る。少なくとも、彼等の中では全て終わったことで、言うだけ野暮ということなのだろう。

 

 「だが、借りるといっても担保が必要だろう。どうする気だ。俺は身一つで来てしまったし」


 それもそうだ。借りるなら返さなくてはいけない。セドリックには戸籍がないしまだ働けない。そもそも常識を知らない時点で無茶であることは明白。金が無いなら担保となるものがいる。

 だけど私は気付いてしまった。問題をいくつか同時解決できる方法を。


 「あるじゃない」

 「なんのことだ」

 「だから、担保」


 そう言って私は彼の腰にある、美しい剣を指さした。

 

これを大家さんに預ければ、万が一彼が襲ってきても武器が無い。何より誰か家に上げたとき怪しまれずに済む。その辺は大家さんのあの部屋なら埋もれてくれるだろうし、大家さんなら研究とかなんだとか色々使うかもしれないし、これだけ凝った装飾やら宝石飾りがついてるのだ。値打ちはあるだろう。


 「待て!これには騎士としての誇りが有る。手放す訳にはいかない」

 「じゃあ全裸になる?」


 そういうとセドリックは言葉に詰まった。

 何も持たないという事はそういうことだ。


 「大丈夫。いつか金の工面が出来るようになったら戻して貰えば良い。大家さんなら雑に扱うこともしないでしょ」

 「だが」

 「ここで生きていくんでしょ。順応出来なきゃ生きていけない。柔らかくなりな」

 

 そう考えや常識は変えられるものではない。それは分かっている。それでも名前と人となりを知るくらいのレベルの人間にのたれ死なれては後味が悪い。やはり生きて貰わなきゃ困る。


 「……分かった」

 「戸籍が無くても内職くらいなら今からでもできるでしょ。一先ず生活費についても追々考えていかなきゃいけないけどさ、お金を稼ぐ方法もついでに考えようじゃ無い」

 「ああ」


 随分素直だ。助かるが。


 「まあそれで服の話に戻りますが」

 「もっと他にやるべきことはあるんじゃないか、何故服なんだ」

 「んーとね、とりあえずその鎧だと、ふとしたとき家具に傷がつきそうってのも理由じゃ有るのだけど。まあとりあえずは外に行く準備を整えてもらうためかな。」


この世界はセドリックが元居た世界とは全然違うってことをもっと根っこの方から理解して貰うためには外の世界を見て貰わなきゃいけないと思ったのだ。彼に知識を与えるのにも役立つだろう。

だけど今のままじゃ見世物レベルで目立つ。歩くサーカス団員をどうにかして一般人とはいわなくても変わったモデルくらいには落ち着かせなくてはいけない。


「とりあえずその剣を預けるついでに服を買いに行くための服も借りてこようか。私男物なんて持ってないし」

「……お前自分の性別分かっているのか」

「は?女ですけど」

「は」

「はあ?」


その前に天罰くらいは落とした方が良いかもしれない


次回、街を歩きます。

レイさんは自分の責任もあるので、ある程度金銭面の援助もしてくれてます。

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