第四十話 切実な想い
第四十話 切実な想い
≪アリーシャ≫
ヴェリオスの怒る姿を初めて見た。
我を忘れて、感情のままに行動する彼を。
そこで私は初めて、彼も感情のある同じ人なのだと安心した。
私の言葉で、剣を納めてくれた彼。
その姿に、私の言葉が彼の心に伝わるのだとも知った。
全ては彼が敷いた道筋に沿って、ガラニア家は動いている。
でも、それは私のためを思ってのことだと今日確信できた。
彼の悲願のための踏み台ではないかと心配したが、今日のことを考える限り、同じくらい私の事も考えてくれていると。
でも……。
彼は一族の悲願である筈の朝廷に復帰して、何がしたいのか。
彼の激情を目の当たりにすると、そのことが不安でならない。
できるなら、ずっとガラニア家に、私の傍にいてほしい。
でも、それは叶わないだろうと言うことも分かる。
だから私は、当主として成すべきことを成し、彼のことを忘れようと全力で頑張っている。
彼の野心。
それが我が家に仇なすようであれば、その対策をすべきと私はモスシカを動かし始めた。
旧来のガラニア家の家臣に密かに連絡網を作り、いざと言う時には、モスシカの命で一気にヴェリオスを討つ段取りを。
杞憂であって欲しい。
でも、分からない。
分からないことだらけ。
今日初めて知った彼の一面。
それを考えると、彼が朝廷の現状を知り絶望した時、先祖の想いは消え、自分の想いに動き出すことも予想できる。
それが何であるのか。
私は彼のことが不安でならなかった。
せっかく吹っ切れたと思ったのに。
(ヴェリオス。貴方はどこに行くの? 本当の貴方は何がしたいの? 私で力になれることならば、してあげたい。どうか私にだけは心を開いてほしい。それはそんなに贅沢な事なのかしら……)
私はひとりきりになった謁見の間で、静かに思いに耽っていった。