第三十四話 淡い期待
第三十四話 淡い期待
≪アリーシャ≫
彼が生きていたのは嬉しかった。
前線から戻ってくる伝令は、いつも戦の苛烈さとともに、彼の安否も伝えて来ていた。
前線で一騎打ちをして、敵の気を引いていたこと。
敵の武将と、単身で戦ったこと。
軍師であれば、ヴェリオスは危険な目に合うことは無いと信じていただけに、心の休まる暇はなかった。
彼の活躍よりも、無事である報の方が嬉しかった。
しかし、それよりも今の私はガラニア家を治める当主と言う立場。
公式、非公式に入ってくる情報の中に、私は眉をひそめることが多かった。
必要以上の敵の殲滅。
農民兵の排除という名目で殺し、廃村に追いつめた数々の村。
何も言わぬが、老臣モスシカがそれを不快に思っていることは、時折訪れる彼の雰囲気でわかった。
私も彼らを信じていただけに、疑問を抱いてしまう。
それは本当に必要だったのか、と。
私の心に疑惑の念が首をもたげる。
戦場より戻った彼と話して分かったこと。
それは永遠に交差することのない認識。
私の考える理想と、彼が考える私の理想。
それは似て非なるもの。
それでも、私の理想に少しでも近づこうとする彼の姿勢が嬉しかった。
ならばこそ、いつかは理想に辿り着いてくれるのではと期待してしまう。
半面、それは期待でしかないことも分かっていた。
最悪、老臣モスシカの望む方向に進んでしまうかもしれない。
その時は、私も責任を取って当主の座を退く時。
私の理想を叶えるためにも、ヴェリオスの悲願が達成されるためにも、彼には想いを――、期待を裏切ってほしくなかった。