第十四話 疑惑
第十四話 疑惑
≪アリーシャ≫
私は自室で竹林を眺めながら、茶を飲んでいた。
そばに仕える女官が、冷める前に新しい茶器に入れなおして、手元に置く。
普段であれば美味しく感じる紅茶も、今日は考え事をしているせいか、何の味もしなかった。
ただ程よく熱いだけ。
ここ数年、叔父の様子がおかしかった。
考えてみると、それは父が体調を崩してからだった。
それまでは、私には優しく、丁寧であったのが、急にぞんざいな扱いになり、会釈しても無視されることが増えた。
叔父は父に対しては、絶対的な信頼を置いていた。
だからこそ、いつも前線で頑張り、指揮することができると優しかった頃には、よく私に話してくれた。
(叔父はどうして……)
私にはその変化が分からなかった。
しかし、考えてみると、あの頃からなにか不穏な動きが出始めた。
邸の中を歩いていると、二階から物が落ちてきたり、輿で移動中に突然、暴れ馬が飛び込む惨事もあった。
どれも運よく助かったが、それからは露骨に襲撃者が出るようになった。
叔父のシンパが暴走したのか、叔父自身による動きなのか。
(でも、なぜ?)
私が死んでも、跡取りを失い家中の分裂は目に見えている。
その間にも、周辺国は、これを好機と見て攻め入ってくるだろう。
叔父が家中の制した時には、今よりも領土はかなり縮小しているはず。
(それでも叔父は、当主の座が欲しいの? それとも、短期間で制するだけの自信があるのか……)
そんな思案をしていると、取次の者が慌てて制止する声が聞こえる。
(揉めている相手は誰?)
怒鳴り声を聞いていると、それがダレスだと分かった。
彼がこんなに家中の法を無視することはまずない。
同僚や下の者にはぞんざいな口を利くが、目上の者にたいする礼儀や法に対しては順守するからだ。
私は女官に言い、彼を通すように命じる。
「アリーシャ様、ヴェリオスが……」
息せき切るダレス。
(彼がどうしたの!?)
私は、はやる気持ちを抑える。
「どうしたの、落ち着いてゆっくりと話しなさい」
ダレスを落ち着かせるように、紅茶を女官に用意させ、自分の気持ちも落ち着かせる。
それを無視してダレスは言った。
「レティムス様の屋敷に呼ばれました。また例の熊かと……」
その言葉に絶句する。
叔父は実力を試すと言っては、私にとって有能な人材を次々と熊で脅して、放逐させてきた。
(あの負けん気の強いヴェリオスのこと。きっと、叔父には屈せず、戦うことを選ぶはず……!)
私は内心焦った。
どうすればよいのか、瞬時に考えをまとめる。
「ダレス、護衛に招集をかけなさい。叔父の屋敷に向かいます。女官長、馬を用意しなさい!!」
私はテキパキと指示を出し、次々に命令する。
女官長は、その動きに戸惑う。
「姫様、輿以外の外出は禁止されております!!」
必死に叫ぶ女官長。
「私の家臣の命がかかっているのです。輿で行っていては間に合わないわ!」
私は言い切る。
それでもなお言い募る女官長。
私は彼女を無視して、ダレスに言った。
「ダレス。護衛たちの間で余っている馬はいるかしら?」
「何頭か」
「それを用意しなさい。行くわよ」
「御意」
私は女官たちに男装の準備をさせると、次の行動を考えていた。