第十二話 通じぬ思い
第十二話 通じぬ思い
≪アリーシャ≫
私はヴェリオスならば、これ以上犠牲を出さなくて済むと思った。
今まで、私を護るために、数々の護衛が命を散らした。
そんな彼らが可哀そうであったが、私が死んでしまえば、この領地は跡取りを亡くした領地として戦火に巻き込まれる。
そう思い、我慢してきた。
(でも、ヴェリオスのように強い男が傍にいれば、きっと私の命を狙う者もあきらめるはず……)
私はそう考えると、彼がこの地を離れる前に、今すぐに話をつけないといけないことに気づいた。
私は、単刀直入に要件を言うことにした。
この手の武人に遠回しな言い方は、かえって気分を害すると思ったから。
「貴方を雇いたいのです。名のある武人であるヴェリオス殿を」
武人として雇いたいという私の言葉に、彼は皮肉そうに返事を返した。
そう、私は彼の望みを知っていながら申し出たのだ。
そして、私の為に、これ以上犠牲を出したくないことを言い募る。
私の気持ちを、彼ならばわかってくれると信じて。
しかし、その期待はあっさりと裏切られた。
紡ぎだされる言葉は、冷酷な武人の言葉の数々。
ならば、私は彼に期待するのを辞めるべきなのだろう。
それでも、どこかに一縷の望みを持ちたかった。
だから次の言葉は自分でも意外だった。
彼をどうしても引き止めたくて、人ではなく、武器として買うと言ってしまった。
それに対して、彼は平然としていた。
さも当然と言わんばかりに。
(自分が武器扱いされて、悲しくないのかしら……?)
私は彼が哀れに思えた。
自分の命すらも物扱いする彼に。
ならば、せめて彼の最も望むものをあげましょう。
(それがせめてもの、私がしてあげられることのすべて……。彼は命を張って私を護る契約をするのだから)
彼は頷くと、私を主として結ぶ契約に受諾した。
目の前で武人同士の契約をして。
彼は私の手の内に入ったのに、なぜか心が寂しかった。
護衛同士の戦いがどんなものかはどうでも良かった。
毅然としたふりをしてはいたが、ヴェリオスが心配で、こっそりと稽古場の二階に足が出向いていた。
月夜の明かりが窓から差し込む。
冷たい月の光が、なぜか私自身の心のように思えた。
そして始まった激戦は目を見張るものだった。
槍の切っ先を次々と飛び跳ね、まるで燕のように宙を舞うヴェリオス。
そして、雷のような一閃で護衛たちの武器を壊す。
猛虎のように激しく動き回り、他の者たちを倒してゆく。
最後にダレス。
彼すらも手足も出ずに降参した。
私はあまりの出来事に、ただ茫然としていた。
そして、ヴェリオスが勝ち残ったことが自分の事のように嬉しかった。
私は自室に戻ると、なぜ彼に惹かれるのか考えた。
それはあの雪積る森林の中での戦いを見た瞬間から。
(私は彼の戦いに惹かれていたの? それとも、一目惚れなの……? 分からない……)
ただ、今は領民よりも、彼へと気持ちが傾きつつあることだけが分かる。
だからこそ、自分と違う価値観の彼が悲しかった。
切なかった。
(彼にも私と同じ思いをして欲しい……)
でもそれは、育った環境も生まれた場所も違うからのだから、無理ことなのだろう。
それが分かっていながら、それでも願う。
いつか彼が、私と同じものを見てくれることを……。