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魔法のローブ - Safety first -

「ダメじゃないか喜一くん。ただでさえ全員同じ格好なんだから、はぐれたら見つけるのが一苦労だ」

「すみません……」

 弥生に叱られてしまった。

穂村(ほむら)さんと稲村(いなむら)さんは、ある意味僕より古参なんだ」

 明石がそう説明してくれた。

「でもなんで(あかり)と稲村が?明石先生に誘われたわけじゃないんだよな?」

「あたしらはそもそも教授と顔見知りだったからね。別にサークルに入ったつもりはないんだけど、たまに手伝いに呼ばれるんだよね。使い魔のこともあるし」

羅盤らばん先生には、昔助けていただいた御恩があるんです」

 燈と稲村が答える。

 助けてもらった、か。こんな研究連絡会とやらを開くために人を集めたり、教授というのはだいぶ顔の広い人物であるようだった。

「しかし、お前らの使い魔久しぶりに見た気がするな」

「学校で大々的に出せないっからねー。それに大体ココに呼ばれるときは使い魔を調べさせてほしいっていう理由が多いかな。たまにはこの子らに全力出させてあげたいからちょうどいいといえばいいんだけどさ」

 燈は肩に乗った白い子狐を指で撫でる。

 穂村(ほむら)(あかり)稲村(いなむら)水樹(みずき)、この二人には使い魔と呼ばれる動物の化身を従えている。

 燈の使い魔は炎を操る狐『火燐(かりん)』、稲村の使い魔は水を操る亀『水壺(すいこ)』だった。

 彼女らは使い魔のおかげで一部の属性に関する魔術であれば普通の人間より強い力で行使できるし、式がなくともいくつかの魔術は発動させることができる。

 むしろ使い魔そのものが魔術式だと言っていい。

 しかし使い魔がどういう原理なのか、その持ち主が少ないこともありよくわかっていないことも多い。

「しかし、あれだけの的を一瞬で丸焼きか……恐ろしいな」

「同時にいくつ発動できるか見せてくれって言われてね。もうちょいいけそうな気はしたんだけどさー。でも水樹の方が見た目でいえばインパクトあった気がするよ」

「さっきの消火のことか?」

「いえ、水でなくて氷で的を狙ってみてくれと言われまして……」

「何枚もある的をぶっとい氷の槍で串刺しよ。しかも全部ど真ん中。指示したサークルの人、顔を青くしてたくらい」

「お恥ずかしい限りです……」

 稲村みたいなおっとりした見た目の女の子が的を串刺しとは、確かに色んな意味でインパクトがありそうだった。

 もっとも、稲村は見た目と話し方こそおっとりしてるが、怒ったときは燈よりも恐ろしいのではあるが。

「でもやってみてわかりましたが氷で槍を作るのに思ったより時間がかかるのですね。咄嗟に使うには不向きかもしれません。常に槍をいくつか用意しておくといった工夫がなければ使うのは難しそうです。とても参考になりました」

 稲村はのほほんとした顔でそんなことを言う。

 どんな状況で使うつもりだ、そんなもの。

 しかし実際のところ黒岡の使っていた『毒蛇(ヴァイパー)』や『忘却(オブリビオン)』のような黒魔術よりも、彼女ら使い魔持ち(スピリットホルダー)の使う自然魔術(エレメンタルマジック)の方がよほど脅威であることは間違いなかった。

 人の記憶を消すだとか操るといったトリッキーなことはできないものの、自然現象に直接影響を与えるため応用がききやすい面もある。

 おそらく昨日の黒岡のような連中であれば彼女らを相手にしたところで勝負にすらならなかっただろう。もちろん彼女らの圧勝という意味でだ。

 こんな連中が銃刀法にすら問われず野放しになっている現状の方がおかしいのだが。

「相変わらずおっかねーなお前らは……、にしても」

 二人の格好を上から下まで眺める。

 ここに出席している全員が怪しい黒のローブ着用だったのだが、二人の違和感のなさが逆に新鮮だった。

「二人共、妙に似合ってるな。ただの怪しいローブのはずなのに」

 ローブの丈が膝上くらいまでなので、その下から伸びる脚が強調されているせいかもしれなかった。

「やだなんか喜一(きい)っちゃん目がえろーい」

 燈がからかってくるが、逆に稲村は不思議そうな顔をしている。

「木原さんは聞いてないんですか?ただのローブじゃないんですよ、これ」

「あ、そういうこと。じゃあ見ててね、喜一(きい)っちゃん」

「へ?」

 なんのことか、と思った瞬間に燈が手の平に拳大の炎を出したかと思うと、こちらに向かってほいと飛ばしてきた。

 避ける暇もなかった。

「う()っち!()っち!なにすんだお前!」

「あれ?熱かった?」

 言われてみれば、だった。

 炎はローブに当たった瞬間、派手に弾けてぶわりとした熱を感じたが、たしかに熱かったかと言われればそうでもなかった。

「あ、確かに熱くはない……な」

 呆気にとられながらもぽつりと呟く。

「こら燈!さすがに危ないよ」

「あ、ごめんなさい弥生さーん」

 明石より先に弥生が燈をめっ、と叱っていた。

 ここにきて弥生が妙に歳上らしく見える。

 昨日までは飄々としてるだけに見えたが、意外と面倒見がいいのかもしれなかった。

 お互いこういう集まりに参加するだけあって最初から顔見知りのようであるし。

「ゴメンゴメン、でもこれただのローブじゃなくて安全服みたいなものらしいよ。だからこういう場でも使えるように丈夫にできてるみたい」

「へぇ」

 素直に感心した。

 ただの怪しげなローブかと思っていたが、この貸し倉庫といい安全に対してはちゃんと配慮されているらしい。

 おまけにローブであればどういう格好で参加したとしても上から羽織ればいいだけの話だ。

 意外なほどの合理性に喜一は驚いていたが、

「しかも防弾性能と防刃性能も兼ね備えてますから、致命傷を受けにくいんです。水に浮かぶようにできてますから咄嗟に川や水路に逃げ込みやすいですしね。ああ、それと止血帯にしやすいよう裏地は裂けやすい素材でできてるんですよ。ほんと便利ですよねー」

「は?」

 と、稲村の発言で逆にわけがわからなくなった。

 防弾?防刃?川に逃げ込む?あとそれから止血帯?

 どういう状況でそういう機能が発揮されるのか知らないが、このローブにそんな機能を盛り込む意味がわからなかった。

「水樹、ちょっと……」

 燈が水樹の腕を引っ張って倉庫の隅っこに向かって歩いていく。

 場にはコメントしづらい雰囲気が漂っていた。

「いや、すまない木原くん。君も知っての通り、彼女はとても()()()()()()()。彼女の言うことはスルーしてもらえると助かる。さあ、あまり待たせると教授(プロフェッサー)が不機嫌になる。早く彼との顔合わせを済ませてしまおう」

 くどくどと説明する明石に気圧されるように、倉庫の隅にあるエレベーターに連れていかれる喜一であった。

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