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プロローグ - First Boot -

 人は新たな技術をを手に入れたら争いに使わずにはいられない。

 技術は争いを生み、争いは技術を生んできた。

 魔術というものが世の中で認知されるようになってからもその流れは変わらなかった。


「やれるのか?」

「ああ、彼ならきっと問題ない」

 数名の男達が廊下の影からターゲットを確認する。

 強敵だった。普通に挑めばあっさりと返り討ちにされてしまうだろう。

 だが、きっと彼ならやってくれる。

 遠距離からの攻撃ののち、距離を詰めた部隊が一気に目標を制圧するプランだ。

「”彼”から入電。射程に入ったらしい。貴君らも行動を開始されたし、だそうだ」

了解(ラジャー)

 廊下の影から躍り出る。

 ターゲットの背後から殺気を消し、はっきりと視認できる距離まで近づく。

 ―――今だ!

 瞬間、猛烈な風が大気を揺らす。

 ターゲットにされた女子のスカートが盛大にめくれ上がった。

 女子の悲鳴が上がる。

「視認成功!」「視認成功!」「視認成功!!」

 同士達から歓声が上がる。

「結果は!?」

「水縞だ!繰り返す!水縞模様だ!」

「ひゃっほう!やっぱりな!」

「また亮平りょうへいの一人勝ちかよ!?」

「へっへ、それじゃ任務完了!それでは今より帰還す……」

 る、と言うと同時に首根っこを掴まれた。

 たったいまスカートをめくり上げられた女子生徒、穂村(ほむら)(あかり)だった。

「亮平~……、またあんたらの仕業!?」

「い、いやぁ。いたずらな風さんだったね。ハハハ………」

 亮平の頬を拳ではなく肘がヒットする。

「げぼぁ!」

「一人やられた!退くぞ!」

「退却!退却ーーー!」

 亮平が殴りつけられた途端、彼と一緒にいた男子生徒たちは我先にと逃げ出す。

「校舎の中でこんな風が吹くわけないでしょこのスカタン!それにこの風……共犯は喜一(きいち)ね!」

「やべっ!」

 亮平たちとは反対方向にいた喜一は慌てて逃げようとするが、走りだそうとした瞬間に顔面に盛大な水をぶっかけられてひっくり返る。

「げほっ!なんだ……!?」

 一回転したあとに見た先には、稲村(いなむら)水樹(みずき)が立っていた。

 水樹はにこやかに笑っているが、逆にそれが怖い。

「また何か粗相をされたみたいですね、木原きはらさん。一応穂村さんのところに連行させてもらいますね」

「いや、待ってくれ稲村。話せばわかる」

「ああいえ、その必要はなくなったみたいですね」

 喜一は気配を感じて後ろを振り向くと、そこには周囲に狐火を揺らめかせながら怒髪天をつくといった様子の燈が立っていた。

「あ~ら喜一きいっちゃん。奇遇ねぇ……?今日はどこを焦がしてほしいのかしら」

 喜一を弄ぶように周囲から炎が断続的に吹き出す。

()っち!!っちい!それシャレになんねーぞ!」

 喜一は炎を避けて右へ左へと逃げまわる。

「りょ……亮平!ターゲットは健在!支援を求む!繰り返す!支援を求む!」

「いてて……、すまん喜一!支援は不可能!離脱する!」

「てめえこら亮平!」

「幸運を!」

 すまない喜一。せめて無事を祈っているよ……!

 そんな無責任なこと思いながら走りだす亮平だったが、廊下を曲がるところで野太い腕に掴まれた。

 掴まれたというより、顔面を鷲掴みにされていた。

 体育教師で生活指導教諭の金森かなもりが怒鳴りつける。

「こらぁウジ虫ども!一体なんの騒ぎだ!校内で派手な魔術は使うなと何度言わせる!」

 「げっ!」「やっば!」「あらあら」

 喜一はもとより、たった今魔術を盛大に使ってしまった燈や水樹まで表情を変えた。

 突然の危機により3人の気持ちが通じ合った瞬間だった。一瞬の目配せだけで犠牲者を決定する。

「先生!亮平が全部悪いんです!そいつが諸悪の根源なんです!」

「そうなんです!()()()魔術で私のスカートめくったんでーす!」

「私も見てました~!」

 口々に亮平に責任を押し付け、逃げに入る。

 燈は持ち前の俊足を活かして直接的な逃げに入る。水樹は腕を振るうと廊下の床を凍らせ、わずか助走をつけてあとはそのまま凍った床の上を滑り抜けていった。

 喜一はというと、窓に向かって走りながらスマートフォンを片手で軽く操作する。

 風の魔術、発動準備完了。

 廊下の窓を開け、そのまま身を躍らせた。

 風の魔術が発動され、ぶわりと落下の速度を落とす。下手をしてもここは2階だ、そうそう死にはしない。

 思いのほかスムーズに着地し、そのまま全力でダッシュ。

「亮平、お前の死は無駄にはしない……」

「先生っ!スカートめくったのは喜一です!そんな小学生みたいなマネするのはあいつしかいませんっ!あいつホントはすごい性癖の持ち主なんですーーー!」

「死ね!死んでしまえ!お前なんか犬死ににしてしまえーーー!」

 叫びながら全力で走り続ける喜一だった。


 そう、魔術はすでに架空の存在ではなくなっていた。

 それどころか高機能型携帯端末(スマートフォン)さえあれば誰でも簡単に魔術が使える。

 便利な道具としても使える反面―――今この時点ではただのガキ共のイタズラ道具になっていた。

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