目が覚めたら
最近弁当生活です。本当に生活習慣病がすぐ目の前に!!
「ジローとメガネっこの出会い」
たゆたう眠りのゆりかご。それに揺られながら、ジローは大きな海を漂うようなそんな心地を味わっていた。眠りの中はいい。どんな雑音も、煩わしいことも、苛立たしいことも、腹立たしいこともこの眠りの中には入ってこられない。そう、眼を閉じ、耳を塞いでいれば。決して眼を覚まさなければ、この安心の中にいられる。
『起きなさい』
その眠りの水面を貫くように、凛とした声がジローの意識をノックする。
なんと忌まわしい。ジローは眠りの中でも眉根を寄せ、むずがる子供のようにその声に背を向ける。
『起きなさい』
それでもまとわりつくように、その声はジローを揺さぶってくる。
しかしジローも引くわけにはいかない。眠りにかけてのジローの情熱は並大抵のものではないのだ。
居眠りジローといえば、雨が降ろうとも雪が降ろうとも槍が降ろうとも担当教諭の雷が落ちようとも決して起きない、という伝説を持つ男である。ここで起きてしまったら、男が廃るというものだ。
頑としても起きるものか、と覚悟を決め、ジローは眠りの中に深く深く潜り込む。
『……起きろっつってんだろうが!! このあほんだらあぁっ!!』
覚悟を決めた傍からそれをひっくり返すような罵声が耳元でして、ジローは眠りのゆりかごから放り出され――文字通り、そのまま後ろにひっくり返った。
「いってえ!」
もろに後頭部を直撃し、現実世界に戻ってきたジローは星が飛ぶ視界に顔をしかめながら、派手に打ちつけた頭を抱える。鈍痛に涙が浮かびそうになり、同時にジローの心を支配したのは真っ赤な怒りだった。居眠りジローの異名をとる自分に、この所業。ぜえったいに許さん、と眼を血走らせながらジローは倒した椅子を横に追いやり、ゆっくりと立ち上がった。
「誰だ、俺の眠りを邪魔しやがった奴は!!」
拳を固めて叫んだところで、ジローは自分に向けられる白い目に気がついた。
何よりその中心でふるふると震えながら自分を睨みつける男が一人――。
「おい、居眠りジロー……授業中に惰眠を貪るだけに飽き足らず、いったい何のつもりだ?」
神経質そうな男――ジローの担任である白井教諭は、持っていたチョークを野球部も真っ青なスピードで投げつけてきた。そのコントロールは見事なもので、チョークはジローの眉間にクリーンヒット。
願ってもない眠りのゆりかごに、気絶と言う形でジローは戻った。