出会い
「おい、まじか」
超有名実力派アーティストの熱愛報道である
早くもネタになると匂いを嗅ぎつけたマスコミたちが騒動していた
写真には画質が悪くて分かりづらいが凛花と思われる女性と男性
手を繋いでいるようだ
「まじかよ…。でも俺は凛花ちゃんを応援するさ!ファンならアーティストの幸せを願うのは当然のことだ!ははははは!」
「お前大丈夫か?声…震えてるぞ…」
こうして夜は更けていった
「おはようございま〜す」
長田がスタジオに入ると既に今日のライブに向けて準備が始まっていた
「おい、長田遅いぞ!早く仕事にかかれ」
「は〜い…」
仕事場に来る途中、電車の中で見たスマホのニュースにはお決まりのごとく熱愛報道を否定する事務所の表明があった
こんな画質の悪い写真で決めつけないで下さい、本人は否定しています
という内容だった
出す曲がこぞってCM起用される超売れっ子アーティストなのだ
不思議ではない対応だろう
長田はその言葉に希望を見つけ、せめて仕事中だけでも底の見えない絶望の淵から出られるようにと頑張っていた
ーーそうだ今日もアーティストたちが観客たちに夢を与えにくるんだ
元気だせ俺!
舞台袖から観客席を見るとほぼ満席になっている
ステージに最初の光を浴びせるときはアーティスト以上に緊張しているかもしれない
ドラムのスティックがペースを刻む
1、2、1、2、3、4!
バァーンと楽器が弾けた
ステージに光が入り乱れる
リズムにノる客たちの動きで床が揺れるようだ
長田は集中して照明係の仕事に徹した
「お疲れ様でーす」
仕事を無事に終え、長田はまだ熱気の残るスタジオを去る
「ふぅ…」
スタジオの裏口で一服する
全てが終わると昨日のショックと心の空白感が襲ってきた
いつもは吸わないがなんだか無性に吸いたくなってしまった
「さて…帰るか」
吸い殻入れにタバコを押し付けて立ち上がる
12月の突き刺すような風に首をすくめ歩き出そうとした
「すいません…」
「うわぁぁぁあああ‼︎⁉︎」
突然スタジオの陰から声をかけられて長田は腰を抜かさんばかりに驚いた
「あっ、驚かすつもりはなかったんです!」
スラリと伸びた足
クッとくびれた腰
決して大きくはないが意志のある目
しかしその目を今は不安の陰が覆っている
その人は…
「凛花ちゃん⁉︎」